現在も戦争が続いている今、ウクライナ戦争を分析した論文が Nature に発表されるなど、まず誰も想像できないはずだ。しかし、今日紹介するノルウェイのトロムソ大学とウクライナ国立宇宙機構からの論文は、2022年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻から撤退までの期間、チェルニヒウからキーウにかけてのウクライナ北部で行われた戦闘の様子を、地震計や爆轟計を用いてモニターできることを示した研究で、8月31日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Identifying attacks in the Russia–Ukraine conflict using seismic array data(ロシアーウクライナ衝突での攻撃を一連の地震計測システムのデータから読み解く)」だ。
1963年8月に成立した部分的核実験停止条約では、地上核実験が禁止されたが、核実験をモニターするため、世界200箇所に地震計と低周波音波動を感じるセンサーが設置され、現在も稼働している。この一つがウクライナ、キーウ近くのマリーンに設置されており、データが公開されている。
この研究のすべては、この公開データが、2月24日ロシア侵攻から4月撤退までの戦争の様子を反映しているはずだと着想した点にある。これまで、精密な衛生写真で戦争を読み解く努力が様々な機関で行われているが、時間解像度、すなわち攻撃間隔や一回の規模については、ほとんど0に等しかった。
一方、地震計や爆轟による低周波計は、位置を測定するため複数が一つのセットとして設置されているおかげで、地震速度と、音速を元に、どこで攻撃による爆発が起こったのかを、地震と区別して、ほぼリアルタイムでモニターすることができる。実際には、地震波と低周波が一致するのは全体の3割ほどしかない。検出頻度が低いのは、音の周波数など検出に選んだ閾値の問題と考えている。
最終的に振動と低周波音から場所が特定できた爆発は、ロシアの北部地域侵入から4月初旬のキーウ領域からの撤退まで、地震に換算してマグニチュード0.1-2まで、全部で1282回検出されており、キーウから虐殺で有名になったブチャ、そして北部のコロステン、そしてかなり離れた北部の都市チェルニヒウまで分布している。
検出される爆発の程度もある程度は計算でき、例えばイスカンダルミサイル(TNT火薬相当で700Kg)は、マグニチュード1.7と計算されている。頻度の高い榴弾砲のレベルの爆発はTNTで7kg程度で完璧に捉えられる。
こうして記録した波を、実際の記録と照合して検証することも行なっている。例えば2月27日、有名なホストーメリ空港へのロシアの攻撃が数ヶ所の観測機でどう捉えられたのか、一つの爆発が、それぞれの計測でどのような時間差で現れるかが示され、イムで地上への攻撃をモニターできることを示している。
結果は以上で、これまでのような報道だけでなく、衛星画像に加えて、地震計や爆轟計は完全ではないが、ほぼリアルタイムで爆発の規模と音から、攻撃手段(例えば榴弾砲)まで特定できることから、今後重要な戦争記録手段として利用されると言える。
このような公開データが積み重なることで、当局による発表以外の事実に一般人も触れることができるのが21世紀の戦争と言える。ただ、このような客観的な記録は、現場にいる人間の恐怖や苦悩がすべて捨象されるので、恐ろしい記録とも言える。