9月29日  ペプチド薬の新しい投与方法:アイデアが良ければローテクで十分(9月27日号 Science Translational Medicine 掲載論文)
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9月29日 ペプチド薬の新しい投与方法:アイデアが良ければローテクで十分(9月27日号 Science Translational Medicine 掲載論文)

2023年9月29日
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昨日紹介した平板動物の例からもわかるように、ペプチドを介した細胞間のシグナル伝達は長い進化の歴史を持っている。勿論人間も同様で、多くのペプチドを合成し、身体のホメオスターシス維持に使っている。また、多くのペプチドや由来物質が臨床にも利用されており、おそらくインシュリンが最も多く利用されているペプチドだと思う。

ペプチド薬最近最大のトピックスは、GLP-1 だ。糖尿病のコントロールが劇的に変わっただけでなく、今や安全に肥満を抑制するエース薬剤として期待されている。ただ問題は、ペプチド薬は経口摂取すると分解されてしまうので、皮下注射に頼らざるを得ない。これを何とかしようと、多くの製薬会社が経口摂取可能なペプチド薬の開発にしのぎを削っている。その中で最近注目を集めているのが、GLP-1 を経口摂取可能に変化させたGLP-1アナログ、リベルサスだが、経口摂取可能になったペプチド薬はまだ2-3種類しかないのではないだろうか。

今日紹介するチューリッヒ工科大学と、中国南方科学技術大学からの論文は、たこの吸盤をヒントに口腔粘膜を通して薬剤を投与するデバイスを開発した研究で、アイデアがあればローテクでも面白い可能性が生まれることを示した。タイトルは「Boosting systemic absorption of peptides with a bioinspired buccal-stretching patch(タコにヒントを得た口腔粘膜ストレッチングパッチによるペプチドの吸収促進)」で、9月27日号の Science Translational Medicine に掲載された。

幸いこの論文はオープンアクセスなので、直接論文にアクセスして実物を見て欲しい(https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/scitranslmed.abq1887)。要するに、コイン大のタコの吸盤型シリコンカップにペプチドと薬剤の投下を促進する分子を詰めて、タコの吸盤のように口腔粘膜に吸着させるというアイデアだ。

これにより、まず口腔粘膜が陰圧で引っ張られ、伸長する。そこに直接ペプチド薬が接触するが、薬剤自体は唾液などの影響は受けずにそのまま守られる。

さらに、口腔粘膜が引っ張られ透過剤と触れることで、細胞骨格が変化し、上皮細胞が生きたまま、ジャンクションなどの変化により、ペプチド薬が透過しやすくなる。

この期待が本当に起こっているのか、既に経口ペプチド薬として利用されている、バソプレシン由来のペプチド薬デスモプレシン、及び GLP-1由来ペプチド薬経口セマグルタイド(リベルサス)について、吸収や血中濃度について調べている。

分子量の小さいデスモプレシンについては、透過剤をうまく選ぶと、経口投与より遙かに高い血中濃度を得ることが出来、また長期に血中濃度が維持できることを示している。

次に、分子量の大きなセマグルタイドで見ると、30分口腔粘膜に設置することで、ほぼ同じ血中濃度のキネティックスが得られることを示している。おそらく、経口用ではない GLP-1 を用いても十分吸収されるので、皮下注射と同じように使うことも出来るのではないかと思う。

最後に、40人の人に、30分口腔内に自分で設置してもらって、外れないかどうか、また粘膜障害が起こらないかなどについて調べている。基本的には安全性は確保できているようだ。

以上が結果で、ストレッチをかけることで薬剤の通りがよくなるという単純な発想で、ローテクだが素晴らしいデリバリーシステムが出来たのではないだろうか。今後、透過剤を工夫すると、インシュリンやオキシトシンをはじめとして、様々なペプチド薬の新しい投与方法が開発されていくと期待できる。

カテゴリ:論文ウォッチ