昨年の科学のトップニュースとして、GLP-1Rアゴニストが痩せ薬として受け入れられ、今や薬が手に入らなくなるほどのブロックバスターになっていることを NatureもScience も共にリストしていたのは意外だった。それほど肥満への関心が高いということだと思うが、本当に服用し続けて問題がないのかはもっと長いスパンで見ていく必要があるだろう。実際、GLP-1Rを刺激する治療と言っても様々な方法があり、肥満も含めたメタボ改善という観点でどの治療が一番安全で効果があるのか、糖尿病から少し離れた観点から効果を調べていくことは重要だ。
今日紹介するバンダービルド大学からの論文は、GLP-1Rアゴニストと、内因性のGLP-1レベルを高めるDPP-4阻害剤を、インシュリン感受性改善という点に絞って調べた治験研究で、1月号の Diabetes に掲載された。タイトルは「Weight Loss–Independent Effect of Liraglutide on Insulin Sensitivity in Individuals With Obesity and Prediabetes(肥満の糖尿病予備軍に対する、体重減少による効果とは別のリラグルタイドのインシュリン感受性改善効果)」だ。
GLP-1アゴニストは、皮下注射、あるいは内服で直接GLP-1受容体(GLP-1R)を刺激する治療で、現在痩せ薬として注目されている薬剤だ。これに対しDPP-4阻害剤は、GLP-1やGIPなどいくつかの消化管ホルモンを分解する酵素DPP-4を阻害することで、GLP-1など消化管ホルモンの局所での濃度を上昇させる働きがある。
薬剤グループは、無作為化偽薬試験として効果を確かめているが、調べた母数が少ないのが問題になる。この問題を認めた上で、結果だが、GLP-1RアゴニストもDPP-4阻害剤もほぼ同じ効果があると思っていた私にとっては驚きだ。
最も重要な目的は、体重低下が始まる前から、GLP-1R刺激によりインシュリン感受性が上昇するのか調べることだ。というのも、GLP-1Rアゴニストが魅力があるのは、体重が低下するだけでなく、インシュリン抵抗性などメタボ指標が大きく改善することだが、これが体重減少の結果なのか、GLP-1Rアゴニストの直接効果なのかはわかっていなかった。
結果は明瞭で、体重減少が始まるより以前、すなわち薬剤投与後2週間から、空腹時血糖、インシュリン濃度、そして HOMAR-IR と呼ばれる指標から、GLP-Rアゴニストではインシュリン感受性が上昇していること、一方ダイエットやDPP-4阻害剤ではこの様な効果が全く見られないことが明らかになった。
さらにこの効果は、GLP-1R阻害剤で完全に消失することから GLP-1R に対する刺激であることは明らかだ。
結果はこれだけだが、同じメカニズムと思っていた薬剤も、効果が全く異なることに驚く。さらに、体重で見るとDPP-4阻害剤は14週目でもほとんど減少がない。この薬剤は、早くから糖尿病薬として使われてきたが、痩せ薬という騒ぎが起こらなかったのもよくわかる。
なぜこの違いが出るのか。内因性のGLP-1の場合、おそらくまず膵臓や肝臓に作用すると思われる。また、DPP-4阻害剤は GLP-1 だけでなく、様々な消化管ホルモンに作用する。実際、DPP-1阻害剤だけで、血中グルカゴンの濃度が高まっている。
今後動物実験を含めて、それぞれの治療法の長期効果と、具体的な作用とを対応させる研究が必要になると思う。しかし、これだけ歴史のある薬剤でも、本当にわからないことが多い。