1月30日 Twistの謎(1月22日 Cell オンライン掲載論文)
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1月30日 Twistの謎(1月22日 Cell オンライン掲載論文)

2024年1月30日
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今日は完全に専門的な話になることを断っておく。そもそもTwistの謎と言ったタイトルは一般の方には何のことかわからないと思う。一方で、発生学、特に神経堤細胞から様々な間葉系細胞の発生に関わる研究分野では、この分子を知らないと“もぐり”といわれても仕方がないほど重要な分子だ。かくいう私も常に興味をひかれていた。ただ現役時代でもその理解度は低く、SnailやSlugと同じで、上皮間葉転換に関わる、すなわち神経上皮から神経堤への分化過程のマスター因子ぐらいの理解でとどまっていた。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、私のTwist分子に関する理解を改めてくれた研究で、上皮間葉転換と言った単純な話ではなく、多くの遺伝子の調節領域と転写因子の特異性を調節する因子として働いているメカニズムを明らかにしており、最近読んだ転写機構についての研究では最も感動した。1月22日 Cell にオンライン掲載され、タイトルは「DNA-guided transcription factor cooperativity shapes face and limb mesenchyme(DNAによりガイドされた転写因子の相互作用が顔と四肢の間質細胞を調節する)」だ。

この研究は、発生学者なら誰もが感じる単純な疑問からスタートしている。すなわち、発生に関わる重要な転写因子は bHLH分子 とホメオボックス分子で、それぞれ E-box(EB)及びホメオドメイン(HD)と呼ばれるゲノム上の配列に結合するが、このような配列は無数に存在するだけでなく、結合するそれぞれの転写因子も一つの細胞の中で複数発現している。とすると、特定の発生に必要な調節領域だけをどのように選べるのか不思議に思う。

これに対し、発生で働いている転写調節領域はいくつかのドメインが隣接して存在しており、これにより複数の転写因子が共同することで特異性が保証できるのではと考えられてきた。

この研究では、神経堤由来間質細胞で働いている転写調節領域の中で、HD と EB が隣接している Coordinator motif が存在し、特に顔の形成にかかる間質細胞での活性が、人間とチンパンジーで大きく違っていることを見いだしていた。そして、アセチル化ヒストン結合から見られるこの領域のエンハンサー活性が、神経堤から間葉系への発生で最も高まることを明らかにした。すなわち人間とチンパンジーの顔や頭の形の違いは、この領域の活性の変化に由来すると考え、この部位に結合する転写因子の特定から始めている。

すると神経堤から間質系細胞への分化過程で発現する転写因子の中でトップにランクされたのが Twist分子で、これに続いてホメオボックス分子や bHLH分子も分子が特定されてきた。

ここでひらめいたのが、Twistにより bHLH とホメオボックス分子の相互作用が調節される可能性で、Twistと一緒に Cordinator 領域に結合する分子を調べてみると、いくつかのホメオボックス分子と TCF のような bHLH分子が特定され、仮説が正しいことが証明された。

そこで、ES細胞から神経堤由来間質細胞を誘導して、その細胞の中で Twistを人工的に分解する実験を行い、これによる転写因子の結合変化と、 Cordinator 領域のクロマチン変化を調べると、Twist がなくなると1時間でホメオボックス分子の結合が消え、その結果クロマチンが閉じて、エンハンサー活性が低下することを明らかにしている。

そして、今度はホメオボックス分子を分解させる実験と、Twist と結合するホメオボックス、bHLH そしてDNAの構造解析から、Twist と bHLH のDNAへの結合がホメオボックス分子が参加することで安定化することで、Cordinator のエンハンサー活性が転写因子特異的に調節されていることを明らかにしている。実際にはTwistが調節しているCordinator部位は数千存在するため、様々な親和性でそれぞれの領域を調節することで、間質細胞の移動や分化を調節し、顔、四肢、そして脳の形まで調節していることになる。

最後にこの Cordinator と Twist+ホメオボックス分子の結合で顔や脳の形態が実際に決定されている可能性を、顔や脳の形と相関する Twist 及び Twist と結合するホメオボックス分子の遺伝子多型、さらにはこれらが結合するCordinator領域の多型を例に検証している。

以上が結果で、ゲノムレベルのモチーフ解析から、最後は多型を利用した発生への影響検証まで、まさに重厚な発生と転写の研究で、現代の転写研究のあり方を示す見本になると思った。

カテゴリ:論文ウォッチ