1月24日 変異RASを抗原に使ったワクチンの治験(1月9日 Nature Medicine オンライン掲載論文)
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1月24日 変異RASを抗原に使ったワクチンの治験(1月9日 Nature Medicine オンライン掲載論文)

2024年1月24日
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このブログでもいくつか紹介してきたが、ガン特異的な変異をネオ抗原として個人用ワクチンを作成するガン特異的免疫治療が、実用段階に入ってきた。実際に、大手の製薬会社も治験を行っていると聞く。しかし、頭が古い行政に引きずられてシークエンスベースでのガンゲノム検査が遅れている我が国ゲノム医療の現状を考えると、医療として定着するにはまだまだ時間がかかるだろう。

しかし我が国でもガン特異的免疫療法を比較的早く受けることが出来る可能性が存在する。今日紹介するMDアンダーソンガン研究所とワクチンベンチャー企業 Elicio Therapeutics からの論文は、ガンのドライバー変異RASを抗原として免疫することで、ガン特異的免疫反応を誘導でき、膵臓ガンや直腸ガンの進行を抑えることが出来ることを示した治験研究で、1月9日 Nature Medicine にオンライン掲載された。タイトルは「Lymph-node-targeted, mKRAS-specific amphiphile vaccine in pancreatic and colorectal cancer: the phase 1 AMPLIFY-201 trial(リンパ節に移行する変異RAS特異的両親媒性ワクチンの膵臓ガンと直腸ガンへの効果:1/2相治験)」だ。

このワクチンはアルブミンに結合する脂肪酸にRasの2種類の変異ペプチドをつないだ抗原と、同じ脂肪酸にTol9を刺激するDNAをつないだアジュバントを混合させたワクチンで、皮下注射するとすぐにアルブミンと結合し、リンパ節に選択的に移行し、そこで樹状細胞に取り込まれて免疫反応を誘導するように設計されている。

このワクチンを0.1mgから10mg まで量を変えて膵臓ガン、あるいは直腸ガンの患者さんに投与し、副作用と効果を調べている。効果については、2相観察研究として、ガンマーカー及びリキッドバイオプシーを用いてガンの盛衰をモニターしている。

結果だが、まず問題になる副作用はほとんどない。元々一般の人に投与するワクチンでないので、十分安全なワクチンと言っていいだろう。

効果の方も調べており、ワクチン接種を最後まで受けた患者さんでは、25例中21例でガンの縮小が認められ、6人ではガンの痕跡が検査上なくなっている。ただ、この評価については今後さらに大規模な治験が必要だと思う。

重要なのは、末梢血で調べたT細胞免疫反応テストで、ほとんどの患者さんで10倍以上T細胞の反応が上昇し、またCD8T細胞だけでなくCD4T細胞も反応が見られることだ。さらに特徴的なのは2種類の変異RASに対して免疫が行われたが、12番のアミノ酸の様々な変異に対しても反応が見られる点で、広い範囲のT細胞免疫が誘導されている点だ。しかも、病気のステージや、免疫前の反応性にかかわらずT細胞反応を誘導できている。

以上のことから、少なくともワクチンによって変異RASに対するT細胞反応が誘導され、ガンへの直接傷害性反応とともに、CD4T細胞反応も動員した免疫反応を誘導できることが明らかになった。とすると、どのステージであれ、どのような治療であれ、オンコパネル程度の方法でRas変異が見つかれば、治療前にワクチンを打つことが普及する可能性は大きい。その意味で、我が国でも今すぐ利用できる。

カテゴリ:論文ウォッチ