1月29日 大腸菌の中で線状DNAを独立に複製させる(1月26日号 Science 掲載論文)
AASJホームページ > 2024年 > 1月 > 29日

1月29日 大腸菌の中で線状DNAを独立に複製させる(1月26日号 Science 掲載論文)

2024年1月29日
SNSシェア

蛋白質の三次元構造の予測が簡単になったとは言え、特定の蛋白質の機能をデザインすることは簡単でない。代わりに、機能を変化させたい遺伝子に突然変異を導入し、その中から目的の機能が達成された突然変異分子を特定する方法がある。すなわち、ダーウィン進化を用いる方法だ。

ただ、増殖速度の高い大腸菌とはいえ、導入した遺伝子だけに高率に変異を入れることは難しいため、変異が蓄積した遺伝子を特定するのが難しくなる。代わりに、大腸菌の増殖システムから独立したファージなどを用いて変異を導入することが行われており、最も有名な例がファージディスプレイを用いて抗体遺伝子を進化させる方法だろう。ただ、ファージに導入できる遺伝子の大きさはどうしても限られる。

今日紹介する英国ケンブリッジのMRCからの論文は、ファージシステムを借りつつ、線状DNAが独立に大腸菌内で増殖するシステムを作り、このDNAだけに変異を蓄積させる方法を開発し、様々な遺伝子の進化を加速させることに成功した研究で、1月26日号 Science に掲載された。タイトルは「Establishing a synthetic orthogonal replication system enables accelerated evolution in E. coli(ホストから独立した合成複製システムは大腸菌内での進化を加速する)」だ。

大腸菌複製から独立した線状DNAの複製システムの代表はファージだが、感染のために多くの遺伝子をコードしており、外部の遺伝子を導入する余地が少ない。そこで、ファージの複製システムに必要な4種類の遺伝子を大腸菌ゲノムに導入し、必要なときに転写を誘導できるようにした上で、この酵素が働く複製開始点を両端に持った遺伝子を作成し、さらに線状DNAが分解されるのを防ぐためのファージ由来RNA分解酵素阻害分子も導入している。

勿論、段階的に必要な条件をクリアする実験を繰り返した結果だが、最終的にエレクトロポレーションで導入した 20kb 近い線状DNAが大腸菌内で安定的に維持される系を作り上げている。

勿論選択がないと、外来のDNAは複製とともに脱落するが、カナマイシン耐性遺伝子を持つ線状DNAでは、カナマイシンさえ培地に加えておけばほぼ無限に遺伝子を維持することが出来る。

重要なことはファージ由来の4つの遺伝子の突然変異発生確率は、大腸菌の持つ複製システムの1000倍近くあり、しかも開始点の特異性から大腸菌の複製には全く関わらない。その結果、大腸菌のゲノムはそのままで、線状DNAの変異を短時間で蓄積させることが出来る。

これを利用すると、カナマイシン耐性遺伝子に変異を蓄積させ、なんとこれまでの方法で進化させることに成功した耐性能力のなんと100倍の耐性を発揮する新しい変異を特定している。

そこで同じ方法を蛍光蛋白質GFPに適用して、従来の蛍光強度を何千倍にも増幅することが出来ることを示している。

以上、機能を大腸菌内でテストできる方法さえあれば、今存在する蛋白質の機能をさらに進化させられる新しい合成生物学ツールが完成出来た。期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ