1月20日 ギランバレー症候群の自己反応性T細胞を徹底的に調べる(1月17日 Nature オンライン掲載論文)
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1月20日 ギランバレー症候群の自己反応性T細胞を徹底的に調べる(1月17日 Nature オンライン掲載論文)

2024年1月20日
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ギランバレー症候群はウイルスや細菌感染の後、下肢の神経から神経炎が始まり、場合によっては炎症が全身に広がる厄介な自己免疫性神経炎で、ほとんどの人は半年から一年で完全に元に戻るが、死亡するケースもある。その原因については、ウイルス感染によって誘導されたT細胞が、末梢神経を包むミエリンと交差反応をする、あるいは自己反応性のT細胞を巻き込んで起こると考えられているが、系統的に自己反応性、特にミエリン反応性T細胞を調べた研究はなかった。

今日紹介するチューリッヒ工科大学からの論文は、ウイルス感染症の後で起こったギランバレー症候群 (GBS) の患者さんのミエリン反応性T細胞を、抗原刺激反応とともに、single cell RNA sequencing を用いて反応する抗原、そして反応する抗原受容体について調べた研究で、1月17日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Autoreactive T cells target peripheral nerves in Guillain–Barré syndrome(ギランバレー症候群では自己反応性T細胞が末梢神経を標的にしている)」だ。

研究ではまずGBSの患者さんの末梢血を三種類のミエリンで刺激し、細胞の増殖を見ている。この患者さんの中には Covid-19 後のGBも含まれているが、他のGB患者さんが全ていずれかのミエリンに対して反応したのに対し、Covid-19後のケースでは5例中2例だけが反応しており、Covid-19後のGBはメカニズムが異なる可能性もある。いずれにせよ、他のGBでは末梢血にミエリンに反応するCD4T細胞が存在し、しかもTh1型の炎症反応の原因になることが、T細胞の遺伝子発現パターンから明らかになった。

次に膨大な数のミエリン反応性のT細胞の抗原受容体、反応するMHCなどについて解析し、ほとんどがHLA-DR反応せいで、しかも特定のクローンに限定されない異なる抗原受容体を持つ多様なクローンが反応しているが、自己抗原反応性を示すCDR3βが短いという特徴を持っていることを明らかにしている。さらに一人の患者さんで、さまざまなミエリンに対して反応が見られる。そして、特にサイトメガロウイルスに関してはウイルスとミエリンの両方に反応するT細胞クローンが確かに確認されることを明らかにし、ウイルス感染とGB発症の明確な関係を明らかにした。

次に何人かの患者さんで、反応するT細胞クローンについて解析を行い、GB患者さんではおそらくウイルス感染で誘導された特定のT細胞クローンが、発症時から回復時にかけて末梢血で増加していることを明らかにしている。また、ミエリン由来ペプチド抗原の多くは、特別のHLA-DRではなくさまざまなタイプのHLA-DRと結合でき、光源として働くことも分かった。これが、これまでGDと特定のHLAとの相関が見つからなかった理由になる。

最後に脳脊髄液や末梢神経に浸潤しているT細胞についても調べ、血液中で見つかった自己反応性クローンが神経に浸潤していることも明らかにしている。

以上のことから、GBの発症メカニズムは多様で、必ずしもT細胞の自己反応だけではないが、少なくともサイトメガロウイルス感染では、ウイルス抗原と交差反応を示すT細胞が、神経系へ浸潤して、そこでミエリンに対して反応し、遊離したミエリンに対してさらに多様なT細胞クローンが、Antigen Spreading で反応していくことで発症することが明らかになった。

また、自己抗体も存在しないし、T細胞の反応が必ずしも見られないCovid-19のように、異なるメカニズムでの発症も考えられることから、多様な病態がまとまった症候群と言える。

この研究はやる気であれば誰でもできると言えるが、これだけの膨大な実験をやり遂げ、一定の結果を出したことがすごいと思う。臨床研究の鏡と言ってもいいように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ