1月13日 IL2・anti-CD8抗体キメラ分子によるキラー特異的T細胞活性化(1月10日 Science Translational Medicine 掲載論文)
AASJホームページ > 2024年 > 1月 > 13日

1月13日 IL2・anti-CD8抗体キメラ分子によるキラー特異的T細胞活性化(1月10日 Science Translational Medicine 掲載論文)

2024年1月13日
SNSシェア

IL2 は T細胞の増殖に必須のサイトカインで、免疫を増強する目的で臨床応用が模索されてきたが、これまでうまくいかなかった。その最大の理由は、ほとんどの T細胞から、NK細胞、さらにある種の樹状細胞まで刺激するため、刺激の範囲をコントロールすることが難しかったためだ。この問題を解決するために、例えば α受容体の結合力を弱め、制御性T細胞の刺激活性を抑えた IL2 が開発され、このブログでも何度か紹介した(https://aasj.jp/news/watch/9537)。

こうして開発されたデザインIL2 はすでに臨床応用が始まっているようだが、すでにさまざまな問題に直面しているようだ。特に、α受容体への結合能をなくしても、増やしたいキラー細胞より多くの βγ受容体を発現している樹状細胞や NK細胞が存在するため、キラー細胞の効果が落ちたり、毒性が現れる。

この問題を解決する目的でデザインIL2 を CD8 に対する抗体を結合させ、キラー細胞だけ刺激するようにしたキメラ・サイトカインの開発が今日紹介するイタリアミラノにあるサンラファエル科学研究所からの論文で、1月10日 Science Translational Medicine に掲載された。タイトルは「CD8 cis-targeted IL-2 drives potent antiviral activity against hepatitis B virus(CD8 を直接標的にする IL2 は B型肝炎に対する抗ウイルス活性を高める)」だ。

この研究では、IL2 の α受容体への結合能を抑えた上で、さらにNK細胞やδc細胞への結合を抑えるために、βγ受容体への結合力も低下させたIL2をデザインし、これを CD8抗体Fc部分に結合させている。

結果は期待通りで、試験管内の実験で CD8刺激活性に比べ、NK細胞刺激活性は2オーダー低い。このことはマウスに対する投与実験でも確認され、NK細胞や樹状細胞数はほとんど変わらないが、CD8T細胞はほぼ10倍近く増えることを確認している。

次に実際の免疫反応増強効果を見るため、B型肝炎ウイルス感染マウスに aCD8-IL2 を加えると、コントロールに比して肝炎ウイルスをほぼ除去することに成功している。さらに、刺激前の CD8T細胞を肝炎マウスに投与する実験によって、aCD8-IL2 が新たな免疫機能を強く誘導する活性があることを明らかにしている。また、デザインIL2 だけでは効果がない理由についても、肝臓で樹状細胞が増えることでキラー細胞の効果を抑えることも明らかにしている。

その上で、ヒト末梢血でも CD8特異的増幅が可能なこと、そしてアカゲザルで全身投与でも毒性はなく、またNK細胞、樹状細胞、そして制御性T細胞数に変化のないことを確認し、いつでも臨床応用が可能であるところまで研究を進めている。

以上、デザインIL2 も一つづつ問題を解決し完成に近づいたことを感じさせる研究だと思う。CD8細胞が無制限に増えると問題になりそうだが、幸いにも抗原刺激を受けた細胞だけが増えるようで、今のところは問題がなさそうだが、これは臨床研究でわかると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ