1月10日 脂肪代謝を調節して老化を遅らせる視床下部神経(1月8日 Cell Metabolism オンライン掲載論文)
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1月10日 脂肪代謝を調節して老化を遅らせる視床下部神経(1月8日 Cell Metabolism オンライン掲載論文)

2024年1月10日
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高齢者として狙われているのか、FBでは老化を遅らせることをうたったNMNの宣伝がよく来る。NMNは経口可能な NAD前駆体で、体内の細胞で NAD を上昇させ、サーチュイン(SIRT)を活性化して、様々な蛋白質の脱アセチル化を通して老化を遅らせるというワシントン大学の今井さん達が強く推奨している方法だ。

今井さん達はさらに脂肪細胞から血中に放出されるエクソゾームに含まれた NAD合成酵素が脳の視床下部に達して、視床下部活性化を通して脂肪細胞をコントロールするフィードバック回路を提唱している。

今日紹介するワシントン大学の今井さんの論文は、このフィードバックループ、すなわち視床下部の脂肪細胞調節機構に視床下部神経が発現するフォスファターゼ分子 Ppp1r17 が関与していることを調べた研究で、1月8日 Cell Metabolism に掲載されている。タイトルは「DMH Ppp1r17 neurons regulate aging and lifespan in mice through hypothalamic-adipose inter-tissue communication(視床下部背内側核は視床下部―脂肪間のコミュニケーションを通して老化と寿命を調節する)」だ。

読んでみると、この研究は視床下部背内側核(DMH)と脂肪組織との関係に関わる研究として独立している。これまで DMH には老化に関わる遺伝子SIRT1 が発現していることがわかっていたが、この中の一部が SIRT1 で活性化される Nkx2.1 により誘導され、食欲や脂肪代謝の調節に関わることが知られていたPpp1r17 を発現していることを発見している。

Ppp1r17 を発現している神経の投射を調べると、交感神経を通して末梢組織と関わる領域への投射が見られる。そこでアデノウイルスを用いて DMH神経の Ppp1r17遺伝子をノックダウンすると、白色脂肪組織が肥大している。

以前交感神経のオキシトシンが脂肪代謝を高める論文を紹介したが、まさに Ppp1r17神経により調節される交感神経は脂肪分解に関わることを意味している。

次に Ppp1r17 の視床下部での機能を調べる目的で、遺伝子発現を調べると、この分子が神経細胞の代謝とともに、シナプス形成にも関わっていること、さらには試験管内での神経培養を用いて、Ppp1r17 が神経の自発的興奮に関わることを明らかにしている。すなわち、Ppp1r17 がノックダウンされると、神経活動が低下する。実際、Ppp1r17陽性細胞をジフテリアトキシンで傷害しても、同じように肥満が起こることから、DMH細胞中の Ppp1r17陽性神経細胞は交感神経系を介して脂肪細胞の活性化に関わることが明らかになった。

Ppp1r17 はサイクリック GMP依存性プロテインかイネース(PKG)の調節を受けているので、同じ細胞で PKG をノックアウトすると、Ppp1r17 の核外への輸送が低下し、Ppp1r17 の機能が保たれる。この結果、Ppp1r17ノックダウンの反対の結果、すなわち脂肪代謝が高まることが示された。

驚くことに、このマウスでは老化が遅れ、運動機能も保たれる。さらに、今井さん達が提唱してきたNAD合成酵素を含むエクソゾームの血中濃度が高まる。

以上が結果で、老化との関係はまだまだ詰める必要があると思うが、白色脂肪組織の中枢支配メカニズムとしては面白い研究だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ