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11月20日 リボザイムを用いて大きな遺伝子も分割して細胞導入できる(11月15日 Science 掲載論文)

2024年11月20日
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遺伝子治療にはアデノ随伴ウイルス (AAV) などのベクターが必要なため、詰め込める遺伝子サイズに限界がある。例えば筋ジストロフィー治療に必要な Dystrophin 遺伝子などは大きすぎてベクターが使えない。今日紹介する米国・ロチェスター大学からの論文は、詰め込む遺伝子の方を分断して細胞に導入し、細胞の中で転写された RNA を再結合して大きな遺伝子の導入を可能にする方法の開発で、11月15日号 Science に掲載された。タイトルは「Ribozyme-activated mRNA trans-ligation enables large gene delivery to treat muscular dystrophies(リボザイムにより離れた mRNA の結合を活性化することで大きな遺伝子を導入して筋ジストロフィーを治療できる)」だ。

この研究が目指したのは、大きな遺伝子を半分に分けて別々に RNA に転写させたあと、一本の RNA がスプライシングされるように RNA を再結合させる方法の開発だ。ただ、スプライシングとは異なり別々に転写された RNA を結合する必要がある。

この研究では、一部の特殊な RNA のスプライシングに関わる RtcB 酵素の働きを利用して別々に転写された RNA を一本の RNA にまとめたあと、それぞれに組み込んだスプライス標識を使ってスプライシングさせ、完全なmRNAに仕上げることが可能かにチャレンジした。

そのために、まず別々に転写されたRNAを、スプライスドナー、スプライスアクセプターの二つの標識配列が露出した2本の RNA として並べる必要がある。この目的に、発現させたい遺伝子に転写が起こると自らを切断するリボザイム( RNA でできた酵素)を組み込み、RtcB で切断部位をまとめたあとスプライシングさせ、完全長な mRNA ができるようにしている。

RtcB が発現している細胞なら、全てこの方法で1つの遺伝子を半分に分け、細胞に導入してから細胞の中で一本の完全 mRNA になることを確認し、またこの過程でスプライシングを受けなかった異常タンパク質がほとんどできないこと(リボザイムで切断されると、融合できないと自然に分解される)を確認したあと、大きな遺伝子の代表、DysferlinとDystrophin を AAV ベクターを用いて筋肉に発現させる治療が可能か、マウスで検討している。

いずれの遺伝子の場合も、2つに分けた遺伝子をそれぞれ AAV ベクターに詰めて腹腔注射することで、遺伝子がノックアウトされ病気を発症したマウス筋肉がこのような大きな遺伝子を正確に発現し、機能が回復することを示している。

以上が結果で、大きな遺伝子に限る話だが、一つの遺伝子を2つに分けても、最初から完全な遺伝子を導入した場合と比べ8割程度の効率で遺伝子発現が誘導できているので期待が持てる。Dystrophin 遺伝子の場合は2つに分けても大きすぎるので、機能が確認されるより短いフォームの Dystrophin 遺伝子を用いて治療実験を行っている。しかしひょっとしたらスプライシングのように、数個の部分をつなぎ合わせることもリボザイムを用いると可能になり、導入できる遺伝子の大きさの制限はなくなるかもしれない。

また、この研究ではもう一つの利用法としてこれまで AAVベクターでは導入が難しかった次世代型遺伝子編集技術 Prime-Editor も AAV ベクターで利用でき、作用時間を制限した遺伝子編集が可能になることも示している。このように、ベクターの制限を超える必要のある場合は数多く存在する。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月19日 頭の骨では歳をとっても若々しさを保ちうる(11月13日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月19日
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我々の骨髄は歳とともに脂肪で置き換わり、骨髄造血のキャパシティーは低下する。また、自然炎症が誘導され、この結果クローン性造血が起こることも知られている。ただ、これらは全て軟骨内骨化と呼ばれる方法で形成される腸管骨での話で、膜内骨化と呼ばれる方法で形成される頭蓋骨での造血についてはほとんど調べられていない。

今日紹介するドイツ・ミュンスターのマックスプランク分子生物医学研究所からの論文は、軟骨内骨化で形成される腸管骨と、膜内骨化で作られる頭蓋骨の造血は全くことなり、特に高齢者でも頭蓋骨の造血能は若々しいことを示した驚くべき研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Adult skull bone marrow is an expanding and resilient haematopoietic reservoir(成人の頭蓋骨骨髄は年齢とともに拡大し回復力の高い造血細胞の供給源だ)」。責任著者の Ralf Adams は血管生物学を通して交流があったが、この仕事は彼のセンスの良さを物語る。

研究ではまず頭蓋での血管の発生をつぶさに観察し、腸管骨の逆で、生まれたばかりではほとんど血管が発達していないのに歳とともに発達し、老化マウスでもしっかりと血管毛が構築され散ること、そして骨髄の特徴である静脈叢が形成されていることを明らかにする。しかも、老化後の頭蓋骨髄静脈叢はマウスでもヒトでも見られ、女性の方が発達している。

この理由の一端は妊娠期に急速に頭蓋骨髄静脈叢が発達するためかもしれない。実際、頭蓋の静脈叢の形成は、脳卒中など様々な刺激状態で誘導され、副甲状腺からでるパラトルモンの刺激でも誘導されるように、かなり機動的にできている。

この頭蓋骨骨髄では完全な造血が起こるのだが、面白いことに血管の発達は頭蓋由来の造血幹細胞を移植したときに最も強く誘導され、おそらく造血幹細胞が発現している血管増殖因子 VEGFA の作用によると考えられる。実際、腸管骨では年齢とともに VEGFA の量は低下するが、頭蓋骨では逆に上昇する。

また、老化マウスでは頭蓋骨で若々しいバランスのとれた造血が行われるため、血液細胞の供給源としては優れていることも示している。すなわち、頭蓋あるいは腸管骨の骨髄をシールドして放射線照射すると、頭蓋をシールドした方が造血回復力が高く、照射後のマウスの生存率を上昇させられる。また、頭蓋由来の造血細胞と腸管骨由来の造血細胞を追跡すると、頭蓋由来造血細胞の数が他の造血細胞を凌駕することがわかる。

しかも、頭蓋では炎症性のサイトカインの発現が低く、老化に伴う骨髄球への造血バランスの変化も見られない。

以上が結果で、これまでこの事実が全く知られなかったことが驚きで、様々な現象を観察して気づく力の重要性がよくわかる論文だと思う。また、我々高齢者にとっても、若さを維持している臓器があることはうれしい結果だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月18日 人間の長い成長期はいつ進化してきたのか(11月13日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月18日
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他の動物と比べたとき、長い成長期と、長い生殖期後の生が人間の特徴で、生物論的だけでなく、文化論的にも研究が続いている。文化論的な研究で最も有名なのはフランスの歴史学者フリップ・アリエスの「子供の誕生」で、子供を小さな大人として見ていた中世から子供を子供として育てる近代への歴史を分析した。とはいっても、人類誕生以来人間の子供を授乳期を超えてケアする必要があり、種としての大きな負担を背負っても脳をはじめとする人間の特徴を獲得したことが人類の繁栄をもたらしたことを物語る。

今日紹介するスイスチューリッヒ大学とフランスグルノーブルのヨーロッパシンクロトロン施設からの論文は、グルジアで発掘された約180万年前の直立原人ドマニシ原人について、若くして死亡した個体の歯をシンクロトロンで分析して、サルや我々人間歯の成長と比較した研究で、11月13日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dental evidence for extended growth in early Homo from Dmanisi(ドマニシ原人も長い成長期を持っていたことが歯の分析からわかる)」だ。

ドマニシ原人はおそらくヨーロッパでは最も古いエレクトスにあたり、185-177万年前に生息していたと推察される。多くの完全な頭蓋が出土し、例えば歯が全くないのに生きていた老人や今日紹介する成長期の子供など、人類の社会構造を知る重要な遺跡と考えられている。

この研究で選ばれたのは歯が完全に残っている11歳の子供で、永久歯が生え替わったあと成長が終わる前に死亡しており、歯が成長して乳歯と置き換わり成長しながら使用される歴史を調べることができる。もちろん貴重な化石なので歯を傷つけることはできない。代わりに、大規模シンクロトロンからの放射光を用いた立体断層分析で全ての歯の内部を調べている。

方法の詳細は割愛するが、この検査により生後すぐに形成される歯冠を起点に成長期に起こる縞やストレスによる線など、実際には週単位での成長の様子が分析できる。その結果、ドマニシ原人の歯全体の成長軌跡は類人猿とは異なりほとんど我々と一致する。一方、これまで分析されたアウストラピテクスの歯の軌跡はチンパンジーやボノボに近い。

ただ、乳歯に生え替わるまでの成長は人間と比べると早く、我々より早く永久歯に置き換わり、大体12-13.5歳で歯の成長が止まったと考えられる。また我々と同じで、臼歯の成長が最も遅い。いずれにせよ、生後すぐに成長が鈍化し始める類人猿とは異なり5歳まで緩やかに成長が続き、その後成長が遅くなる人間型の軌跡が確認された。

以上が結果で、歯からも直立原人から様々な人類の特徴が獲得されたことの新しい証拠になる。おそらく食物を石器で処理するようになったことも重要な要因だったと考えられるが、ドマニシ原人はまだオルドワン型の石器を使っており、また人間の歯形が残っている動物の骨が見つかっていることから、人間の食が大きく変化する時期に当たると考えられる。特に歯が完全に抜け落ちている老人の生存が確認されていることから、今後歯の研究と生活に関する考古学を統合して調査が進むことで、エレクトスがどのように人間の特徴を獲得したのか、またそれが人類進化にどのようなインパクトを及ぼしたのか、などが明らかになるのではと期待される。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月17日 DNA 言語による生成 AI (11月15日 Science 掲載論文)

2024年11月17日
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人間が利用する情報メディアは、生命誕生以後進化の結果生まれた生物学的なメディア(DNA, RNA, epigenome)から、人間の脳活動から生成された言語をはじめとする様々な人工メディアまで多種多様だが、最近の生成 AI では、DNA と自然言語の二つの流れに集約している。今年のノーベル賞が示すように DNA に情報を集約する生成 AI は大きな成功を収めているように思うが、ゲノムのような大きな情報の全体までカバーできているかと考えるとまだまだで、現在のところ個々の遺伝子というレベルで解析がとどまっている。これは原核生物のゲノムでも自然言語で書かれた本と比べても長く、現在のトランスフォーマー/アテンションでは注目すべきトークンを決めるアテンションの扱える長さに限界があるため、開発が遅れていた。

今日紹介するスタンフォード大学と Arc 研究所からの論文は、トランスフォーマーの代わりに最近開発された StripedHyena を用いることで、13万トークン(この場合1トークンが一塩基部分に対応するため、130Kbの配列に当たる)をアテンションできるモデルを用いて、原核生物ゲノム3000億塩基対を学習させた Evo と呼ぶモデルを作成している。

まず同じデータをトランスフォーマーなど他のモデルに学習させ、処理スピードなどを比べ、期待通り StripedHyena が他のモデルを凌駕することを確認した上で、ゲノム全体のコンテクストを Evo がどこまで抽出できるか様々な角度から調べている。

まず、ゲノム上に突然変異が起こったとき、バクテリアが生存できるかどうか、実際の実験データのあるバクテリアについて調べると、もちろん完璧ではないが他のモデルと比べてパーフォーマンスは高い。他にも、タンパク質に翻訳されない noncoding RNA の必要性や、プロモーターの必要性など、それ専用に開発されたアプリに匹敵できるパーフォーマンスを示す。すなわち、長いゲノムのコンテクストの中で突然変異や各領域の意味を予測できる。

そこで、生成 AI として新しい意味のある配列を精製できるか調べる目的で、ガイド RNA などの領域と、DNA 切断する Cas9 が一体となってコードされている CRISPR-Cas を学習させ、そのあと11種類の Cas9 配列をプロンプトとして用いてファインチューニングすることで、新しい Cas9 とクリスパーセットを生成させている。もちろん生成された配列の中には全く機能を発揮できないものも存在するが、EvoCas9-1 と名付けた新しい配列は知られている Cas9 とは70%程度の相同性しかないが、十分機能することを実験的に確かめている。すなわち、機能的タンパク質とノンコーディング RNA をセットとして新たに生成することができる。

同じように、トランスポゾンのように遺伝子組み換えに使えるユニットを新たに精製できるかも調べ、相同性が60%程度でもトランスポゾン活性を持つ配列を予測できることを示している。

また、ゲノムがコードするどの遺伝子が細菌の生存に必要かについても、実際のノックアウト実験にかなり近い予測が可能であることを示している。

その上で、独立した細菌に必要なゲノムを予測させる実験を行い、生成された新たなゲノムに細菌が生きるために必要な遺伝子やノンコーディング領域が実際の細菌と同じような構造を示して並んでおり、予測された遺伝子の構造もアルファフォールドで予測できることを示している。すなわち、現存しない生命を新たに設計する可能性に近づいたことを示している。ただ、こうして予測したゲノムには tRNA は揃っていてもリボゾーム RNA が3種類しかなく、生命の設計図からはほど遠い。

以上が結果で、確かにまだまだ完全とはいえず原核生物に限られたモデルだが、生成AIの常で GPT-1 が大きなパラメータを扱えるサイズに高めて GPT-4 になると、予想以上の完全性を発揮するのと同じで、今後生命情報の設計が可能になる可能性は十分ある。

この論文のサプリメントには倫理と安全性についても議論が行われており、著者自らもその可能性に驚いた結果だと思う。

この論文を読んで最も印象に残ったことは、我々素人はトランスフォーマーが全てと思ってしまうが、すでにこの限界を破るべく新しいモデルが続々開発されていることで、先月紹介したグーグルからの論文では新しいチンチラと呼ばれるパラメーターを減らして同じパーフォーマンスを得るモデルが使われていたし、今回の StripedHyena はアテンションできるトークンの長さ伸ばすモデルで、すさまじい競争が進んでいるのを実感する。このような新しいモデル開発での我が国の実力についても是非知りたい。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月16日 日本人集団の多様性を決める縄文ゲノム(11月12日 Nature Communication 掲載論文)

2024年11月16日
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ゲノムデータから日本人集団の共通性と多様性を解析する研究は、日本人の古代ゲノムデータが少ないこと、従来の考古学と古代ゲノム研究の共同が進まないこと、さらには皇国史観などゲノム研究を阻む要因などから、かなり遅れている気がする。ただ、この遅れの最大の要因は、人類学をゲノムに基づいて推し進めていく若い人材が少ないことだろう。しかし、外国で研鑽を積んだ新しい世代が育っているようで、これまですでに2編の論文を紹介したダブリン大学・金沢大学の中込さんなどには期待を寄せている。

今日紹介する論文はこの中込さんと大阪大学の岡田さんのグループが、日本のバイオバンクに登録された日本人の GWAS データを、縄文人ゲノム、北東アジア人ゲノム、東アジア人ゲノムの3系統から見直した論文で、個人的には初めて日本人のゲノム構成のイメージを得ることができた面白い研究で、11月12日 NatureCommunication にオンライン掲載された。タイトルは「Genetic legacy of ancient hunter-gatherer Jomon in Japanese populations(古代縄文の狩猟採取民の日本人集団への遺産)」だ。オープンアクセスの論文なので是非元の論文を読んでほしいと思う。

中込さんたちは2021年の論文(https://aasj.jp/news/watch/17944)で、日本人集団を、南からの縄文人と農耕を導入した北東アジア人、そして古墳時代の東アジアの3系統から見ると、集団構成がよく理解できることを示していた。

この研究では、これをもとに、いくつかのバイオバンクのゲノムデータを解析し直し日本人集団の構造を明らかにしている。

いろいろな解析が行われているが、やはり圧巻は最初の図で、北海道、東北、関東、中部、近畿、九州、そして沖縄と、今でも明確な集団の違いを認めることができる。以前英国人について行われた2015年の論文を紹介して、現代のように人が移動する時代にも各地方のゲノム構成が異なっていることに驚いたが(https://aasj.jp/news/watch/3088)、まさに日本でも同じだと認識した。

さらに驚いたのは、縄文のゲノム割合の多い沖縄奄美地方のゲノム構成で、宮古島、沖縄本島、沖永良部、与論と、そして奄美と、各島々で沖縄本島を中心に異なるゲノム構成を持つ集団が維持されていることだ。特に与論島で縄文ゲノムの比率が最も高いのは興味を引く。どのような交流の結果なのか、今後考古学との共同が進むと面白い分野になると思う。

いずれにせよ、日本人の集団を考えるときに、縄文ゲノムからの遺産が重要な要因であることは明らかで、例えば北海道のアイヌと琉球に縄文が分かれていった歴史や、特に交雑がはっきりしている集団の歴史など、是非今後進めてほしいと思う。

この研究では、GWAS の SNP の中から縄文人の標識に使える多型を132種類特定し、そのうえで現代人の健康と明確に相関する多型を探索し、いくつかの多型を総合した縄文人のスコアが現代人の BMI と明確な相関を示すことを明らかにしている。ただ、これらの多型は、集団の遺伝的アドバンテージになるとして選択されたことが明らかで、BMI と関わるようになったのは、我々が飽食の時代に生きるようになってからのことになる。

こうして発見した多型が確かに BMI と相関することをUK バイオバンクのデータまで使って詳しく解析しおり実力を感じるが、日本人の我々にとってやはりこの研究のハイライトは図1に集約している。この研究に参加した研究者は国立科学博物館の篠田さん世代と比べても新しいダイナミズムが感じられ、今後ますます面白い日本の歴史を明らかにして行ってくれることを期待する。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月15日 ApoE アイソフォームとアルツハイマー病リスクを脂肪代謝から説明する(11月11日 Cell オンライン掲載論文)

2024年11月15日
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希なバリアントを無視すると、ApoE には E2、E3、E4 の3種類のアイソフォームがあり、E2 はアルツハイマー病 (AD) 発症を抑える方向に働き、一方 E4 は AD のリスク要因であることがわかっている。ApoE の正常の機能は脂肪代謝で、血中の脂肪運搬機構の一端を担っており、脂肪が詰まったリポタンパク質粒子に他のアポタンパク質と一緒にロードされ、LDL 受容体を介して脂肪の各組織間の運搬に関わっている。従って、AD の発症を ApoE による脂肪代謝調節と絡めて考えるのが正当な気がするが、実は ApoE に結合する受容体が LDL 受容体だけではなく、他にも存在することから、脂肪代謝の枠内だけで説明することができていなかった。

その意味で今日紹介する NICO Therapeutics と Denali Therapeutics 、2つのベンチャー研究所から発表された論文は、レアバリアントも含め ApoE アイソフォームと AD の関係を純粋に LDL 受容体を介する脂肪代謝の枠内で説明した面白い研究で、11月11日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Decreased lipidated ApoE-receptor interactions confer protection against pathogenicity of ApoE and its lipid cargoes in lysosomes(脂質が付加された ApoE と受容体の相互作用の低下が ApoE と脂肪カーゴのリソゾーム内での病理性を低下させる)」だ。

タイトルを見ると複雑そうな印象だが、内容は明確でわかりやすい。まず、E2、E3、E4 それぞれのアイソフォームを持った脂肪が付加されたリポタンパク質を調整し、これらと LDL 受容体の結合を様々な系で調べると、E3、E4 の結合と比べ E2 では極めて低い親和性でしか反応しない。その結果、ApoE や付加された脂肪の細胞内への取り込みが E2 ではほとんど見られない。

LDLR とリポタンパク質はエンドサイトーシスにより細胞内小胞を形成し、一部はリソゾームと融合、一部は膜へとリサイクルされ、LDL 受容体が細胞表面で再利用されるが、E3、E4 を取り込んだ場合ほとんどがリソゾームに移動して、そこでトラップされた結果、LDL 受容体の発現が低下する。一方で、E2 を持つリポタンパク質はほとんど細胞内に取り込まれず、さらに LDL 受容体の細胞表面の発現が上昇する。

LDLR はアストロサイトの Aβ の取り込みにも関与が示唆されており、E3/E4 と比べると E2 は細胞表面の LDL 受容体量を高めることで AD のリスクを低減しているといえる。ただ、この結果だけでは E3 と比べ E4 の AD リスクが高くなることは説明できない。

そこで、取り込まれたとき細胞の自然免疫系を活性化する、コレステロールエステルの取り込みを調べている。コレステロールも他の脂肪酸と同じでリポタンパク質カーゴに乗って細胞間を移動する。他の脂肪と同じで、E3、E4 リポタンパク質カーゴにロードされたとき、コレステロールエステルは細胞内リソゾームに取り込まれるが、E2 では取り込みが少ない。

ところがコレステロールによる自然炎症刺激を調べると、E3 の方が E4 より炎症刺激能力が高い。従って、これだけでは E4 で AD リスクが高くなることを説明できない。

そこで AD や老化の指標として考えられているリポフスチンの蓄積に焦点を当てて、E3、E4 を比べている。リポフスチンが由来するポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールエステルは E3、E4 は同程度に取り込む。しかし、pH が低いリソゾーム内でリポフスチンが形成される量はE4により取り込まれたときの方が E3 により取り込まれるより遙かに高い。この原因はリソゾーム内で E4 リポタンパク質の方が凝集しやすく、これがリポフスチン形成を高めていると考えられる。

一方、E2 と同じで、E3、E4 もクライストチャーチ型変異が入ると、LDL と結合せず、その結果脂肪やコレステロールの取り込み、そしてリポフスチンの形成も全く起こらない。

以上の結果から、ApoE アイソフォームの AD への関わりは、E3、E4 が LDL 受容体の再利用を妨げることで、Aβ の取り込みが低下すること、そして E4 が取り込んだポリ不飽和脂肪酸を含むコレステロールからリポフスチンへの転換を高めることの2種類の経路を通して AD の発生に関わると結論している。

ApoE と LDL 受容体を中心に脂肪代謝だけで ApoE と AD の関係を説明しきったことは重要だ。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月14日 お腹の概日周期と脳の概日周期の調整(11月8日 Science 掲載論文)

2024年11月14日
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私たちの細胞は地球の自転に適応してほぼ24時間周期の概日リズムを刻んでおり、このメカニズムについてはよく研究されている。ただ、時計のように個体の事情とは独立に周期が刻まれると時差のような問題が起こるので、脳の場合日照時間、肝臓の場合摂食行動などで調整が効くようになっている。

今日紹介する米国・ペンシルバニア大学からの論文は、肝臓の概日周期が狂った時、脳にどのような影響が及ぶかを調べた研究で、11月8日号の Science に掲載された。タイトルは「Hepatic vagal afferents convey clock-dependent signals to regulate circadian food intake(肝臓の迷走神経求心路が概日周期依存的なシグナルを弓状核に伝えて摂食を調整する)」だ。

これまで脳の概日周期の変化を身体の細胞に伝えるという研究は見たことがあるが、肝臓の概日周期が脳の特に摂食行動に伝わるかという研究はあまりお目にかかっていない。この研究では、肝臓細胞で概日周期を調節している ERBα 、ERBβ をノックアウトしたマウスを作成し、まず摂食を調べると、摂食量が大きく上昇することを発見する。

ただ、肝臓の概日周期が変化しても、脳弓状核の概日周期が壊れるわけではなく、また先日紹介したレプチン反応性のホルモン、Agrp やメラノコルチンの発現も変化しない。ところが、もう一つのレプチン反応性神経の Pomc の発現が低下する。紹介したようにこの細胞は食べ過ぎを抑える神経で( https://aasj.jp/news/watch/25555 )、この発現が低下すると摂食が高まる。

面白いことに、脳の概日周期は維持されていても、肝臓から脳への迷走神経や、脳の弓状核の遺伝子発現は大きく変化している。このパターンから、迷走神経の変化を介して弓状核の変化が起こっている可能性が高いので、次に肝臓の迷走神経を外科的に切除して同じ実験を行うと、今度は摂食量の上昇を抑えることができる。また、遺伝子操作で肝臓から脳への求心神経だけを除去しても、同じように摂食を抑えることができる。

最後に、肝臓の概日周期を変化させることがわかっている高脂肪食を与えたマウスの摂食行動を調べると、やはり摂食量が上昇し、その結果体重も上昇するが、迷走神経切除で摂食行動を元に戻すことができる。

以上が結果で、要するに摂食という生きるためのリズムに合わせて脳を調整し、特に摂食を抑えるメカニズムを抑制することがわかった。残念ながら先日紹介した食に飛びつく運動を抑制する BDNF 経路( https://aasj.jp/news/watch/25547 )については調べられていないが、おそらく同じように抑制されているのではないだろうか。

食べ過ぎないように身体に合わせる仕組みがいかに重要かよくわかる研究だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月13日 自然言語に全ての医療データを集約させた大規模言語モデル(11月6日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月13日
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「心と身体」の統合の問題はデカルト以来、様々な議論が続いてきた。基本的に医学はデカルトの二元論に沿って考える癖がついており、身体を切り離して理解しようとしてきた。この議論を今年のノーベル賞から考えるのも面白い。ノーベル化学賞はAlphaFoldやRosettaを用いたタンパク質設計に授与されたが、身体の仕組みの理解を DNA に情報を集約させて生成 AI を用いることで可能にすることへの期待が示された。これに対し Chat GPT などは自然言語を情報の集約点として様々な情報を統合しようとしているが、自然言語が脳活動の産物であることを考慮するとこれが心の領域と言ってもいいように思う。こう考えてみると、人間(= DNA と自然言語を情報媒体として利用する唯一の生物)を扱う医学は、どちらにもトランスフォーマーが使われていることを利用して、DNA と自然言語=身体と心を統合する研究を行うチャンスがある。

現代の医学は、ゲノム配列から脳活動計測まで、様々な独自のデータであふれているが、少し考えてみると、画像も検査データも学習させていない ChatGPT がかなり正確な医学知識を提供できると言うことは、すでに多くのデータがアノテーションという形で自然言語に翻訳され、正確な医学知識を蓄積できていることになる。

今日紹介するニューヨーク・スローンケッタリング ガン研究所からの論文は、ゲノムから画像まで医学データをカルテやレポートに書かれた言語情報だけから十分引き出してガンの予後を予測することが出来るという、まさに自然言語の持つパワーを示した研究で、11月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Automated real-world data integration improves cancer outcome prediction(自動化したリアルワールドデータがガンの予後の予測精度を高める)」だ。

この研究では、患者さんのガン治療の全過程について記載された電子カルテデータの中から、言語によって書かれたデータを GENIE Biopharma Collaborative と呼ばれるアプリを用いて、自動的に構造化して集め、これをトランスフォーマー言語モデルに学習させている。これには病理組織のレポートや、レントゲンの読影レポートも含まれ、患者さんの生存期間中のデータを統合できるようになっている。一部病理組織検査の悪性度のような数値も取り込めるようにしているが、例えばゲノムデータや画像を別にエンコードして自然言語と統合するマルチモーダルなモデルとは全く違う。即ち、全て人間によって書かれたレポートに基づいている。

こうして出来たガン患者さんのデータを学習した大規模言語モデル MSK-CHORD は、ガンの遺伝子発現と予後についてかなり正確に予測することが出来る。例えば PD-L1 陰性の肺ガンはチェックポイント治療に反応性が悪いことを生存曲線としてまとめることができる。

ゲノムは FDA の認める方法、例えば K-RASG12C 変異ありとか、HER2 遺伝子増幅と言った形で記録されているので、全ゲノムレベルでの解析ではないが、各ガン遺伝子やガン抑制遺伝子とガンの経過については正確に予測できる。例えば肺ガンの転移一般は TP53 や CDKN2A 変異と相関するが、Rb1 変異は脳転移と関係することなどだ。

また、ガンもステージが進むほど様々なデータが記載されているので、そのデータを元にステージ4の患者さんの予後をさらに正確に予測することができる。もちろん現在の医療現場でも予測は行われるが、学習したデータに基づき分類されることで、これまで気づかなかった要因を調べ出すことも可能だ。

またネガティブな結果だけでなく、例えば肺ガンの場合 SETD2 ドライバー変異がある場合は、予後がよいことも予測できる。

以上が結果で、生成 AI なので現象の原因やメカニズムはわからないが、ガン患者さんの予後や転移といった問題に、カルテの記載だけからかなり正確な予想が出来ており、トランスフォーマー言語モデルの万能性を実感する。面白いのは、膵臓ガンなど、このモデルがうまく働かないケースもある点だ。今後、自然言語以外のデータもトークン化して使うマルチモーダルな AI と比べることで、自然言語だけではうまくいかない理由がわかるのではないだろうか。このように問題はあるにせよ、人類が生み出し育んできた自然言語のデータ蓄積力のパワーを改めて実感した。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月12日 ガンと染色体外 DNA II チェックポイント阻害による治療(11月7日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月12日
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昨日紹介したように、多くのガンでは染色体外 DNA (ecDNA) と呼ばれる、プラスミドのような環状 DNA の形でガン遺伝子や、免疫抑制遺伝子が増幅し、ガンの増殖や免疫系からの回避を助けている。染色体外に存在することで、転写活性が強く、複製開始点を持って勝手に増殖することから、ガンの多様化を後押しすることで、悪性度を高め治療を困難にしている。

今日紹介するスタンフォード大学と Boundless Bio 社からの論文は、このやっかいな ecDNA を持つガンの弱点を見つけて治療する可能性についての研究で、11月7日同じ Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Enhancing transcription–replication conflict targets ecDNA-positive cancers(転写と複製の競合を高めることで ecDNA 陽性のガンを治療する)」だ。

おそらく最初から ecDNA では、転写と複製が同時に進むことに DNA 損傷が起こりやすいという問題を見抜いた上での研究だと思う。片方は ecDNA 有り、片方はなしのほぼ同じガン細胞株を用いて転写を調べると、ecDNA 有りでは数倍の転写が遺伝子を超えて起こっているのがわかる。

次に1本鎖に開いている DNA を読み出すと、転写が激しい部位を中心に、やはり ecDNA 全体にわたって2本差がほどけていることがわかる。もちろん平行して ecDNA の複製も進行することから、当然転写と複製の衝突が予想される。このとき発生する DNA 複製ストレスを複製フォークに結合するタンパク質を指標に調べると、DNA ストレスが ecDNA 有りのガン細胞で高まっていること、さらに衝突の結果、DNA の複製スピードが ecDNA で抑制されていることを確認する。

このようなストレス下に複製が進むと DNA 切断が起こると予想されるが、実際その指標となる γH2AX ヒストンがストレスが起こっている ecDNA に集中して存在することを確認する。

以上、予想通りの結果が得られたので、ecDNA で DNA 損傷が起こりやすいという特徴を生かした ecDNA 有りのガンを抑制する方法を考案している。すなわち、DNA 損傷を残したまま細胞周期を進めることは細胞の破綻につながるので、損傷が検出されると、DNA 複製が正常に起こったかどうかを調べるチェックポイント分子により、細胞周期の進行を止め、修復を待って細胞周期を進める仕組みがある。

ecDNA 有りのガンでは DNA 損傷が多いため、この細胞周期チェックポイント分子への依存性が高いと考えられる。従って、この分子を阻害して細胞周期を進めることで、ecDNA なしのガンより細胞死を誘導しやすいと予想できる。

そこで、チェックポイント分子をノックアウトすると、2-3倍の増殖抑制がかかり、細胞死が誘導される。また、CHIR-124 と呼ばれるチェックポイント阻害剤を添加すると、ecDNA 有りの細胞では細胞死が誘導されやすいことを明らかにしている。

そこで、このチェックポイント阻害薬をベースに、経口投与可能でより特異的な BBI-2779 を開発し、ガンを移植したマウスへの投与実験を行い、ガンのドライバーに対する標的薬と一緒に投与することで、それぞれ単独では得られない強いガン抑制効果が見られることを示している。

結果は以上で、チェックポイント自体は全ての増殖細胞で必要なので、今後抗ガン剤として本当に有効かをさらに詳しく調べる必要があると思う。しかし、ecDNA という厄介者も、他の観点から細胞にとって足かせになる可能性が示され、新しい治療法の開発を期待したい。

カテゴリ:論文ウォッチ

11月11日 ガンと染色体外 DNAI ガンの病態へのインパクト(11月6日 Nature オンライン掲載論文)

2024年11月11日
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ガンではよく遺伝子増幅(一つの遺伝子の数が増えること)が見られることがある。例えば乳ガンの HER2 や神経芽腫の MYCN などはガンの増殖力と密接に関係するが、この中の多くがその遺伝子を含む大きな領域がゲノムから切り出されて、染色体外で環状 DNA として勝手に増殖していることがわかっている。これを extrachromosome DNA (ecDNA) と名付けて研究が行われているが、ガンの悪性度と密接に関係していることが知られている。勝手に増幅して、分配されるため、当然ガンの多様性を高めると考えると、当然のことだ。最近、ecDNA について面白い論文を2編目にしたので、今日明日と紹介する。

今日紹介する英国フランシスクリック研究所、ロンドン大学、そして米国スタンフォード大学からの論文は、15000に及ぶガンの全ゲノムデータを解析し直して、ガンで見られる ecDNA の分布や種類について詳しく調べた研究で、11月6日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Origins and impact of extrachromosomal DNA(染色体外 DNA の起源とインパクト)」だ。

ゲノム解析データで遺伝子増幅が見られる場合、染色体内での増幅と、ecDNA に分けることが出来るが、これをショートリードデータから判断する、データ処理がこの方法のハイライトになるが、こうして ecDNA を特定した場合、ハイブリダイゼーションを用いて、実際に ecDNA が増幅されていることを確認することが出来る。

この研究ではまず ecDNA の頻度について調べ、調べた全てのガンの17%に ecDNA が見られることを明らかにしている。これはかなりの頻度で、同じ遺伝子変異がそろったガンでも、なぜ予後に差があるのかを考えるとき、ecDNA を念頭に置く必要を実感する。

さらに、ecDNA の頻度がさらに高いガンが存在する。中でも HER2 陽性乳ガン、脂肪肉腫、グリオブラストーマでは半数を超えるガンが ecDNA を持っている。面白いことに、血液系のガンでは頻度が低い。

次にどの遺伝子が ecDNA に載っているのかを見ると、ほとんどの ecDNA にはガン遺伝子が乗っており、中には肉腫や乳ガンのように2種類のガン遺伝子が一つの ecDNA に載っていることがある。そして、染色体内でガン遺伝子が増幅しているガンと比べると、増幅度が圧倒的に高く、その結果ガンの適応力が高まっていることがわかる。

さらにやっかいなのは、様々な免疫反応を抑制する遺伝子がガン遺伝子と、あるいは単独で ecDNA として増幅されていることだ。それぞれの意義を完全に解明することは簡単ではないが、ガン組織のゲノム解析に含まれている T細胞の比率を調べると、ガン組織に浸潤している T細胞が少ないことが観察できる。

問題はタンパク質をコードする遺伝子だけではない。ecDNA には様々なエンハンサーやプロモーターなどの遺伝子調節領域が含まれている。染色体外にあることから、その作用にクロマチン構造の制限がなく、転写因子を ecDNA にリクルートすることができるため、ガンの増殖をさらに助けていると考えられる。

ガンの増殖にはガン抑制遺伝子の欠損が重要だが、p53 のように正常分子を抑制できる dominant negative 変異がある場合、ecDNA に載って増幅されると、その効果は強くなる。その結果、細胞の染色体自体も不安定化し、全ゲノム重複まで起こってしまうことがわかる。

ecDNA は独自で増殖するため、多様性が高く、突然変異も独自に蓄積していく。そのおかげで ecDNA を使うとガンのたどった歴史を垣間見ることもできる。ecDNA に共通に存在する変異のタイプを見ると、タバコや紫外線などの外来発ガン因子によるタイプの変異が維持される。それらの上に ecDNA ができてから DNA 修復時の相同組み換え型変異が中心に積み重なっていく。

これらの結果、ステージの進んだガンでは ecDNA が存在する確率が高く、また ecDNA による遺伝子増幅が見られると、明確に予後が悪い。

同じタイプのガンで、ガン遺伝子も同じなのに、経過に大きな差があるのは医師であれば誰でも経験している。今後は ecDNA が存在するかどうかも予後を考えるのに重要な因子として調べていく必要がある。では、これに対応する術はあるのか?明日はそれについての研究を紹介する。

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