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12月9日 神経変性をフェロトーシスから考えてみる(12月4日 Cell オンライン掲載論文)

2025年12月9日
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フェロトーシスは、細胞膜内でアデニル酸やアラキドン酸などの多不飽和脂肪酸が酸化され、これが蓄積されることでおこる細胞死で、この不飽和脂肪酸の酸化を防ぐGPX4をノックアウトすると、発生初期に致死になることから、我々の細胞は常にフェロトーシスが誘導される危険性を孕んでおり、この抑制が生存に必須であることがわかる。ガンでは正常細胞よりフェロトーシスガ高まっているため、GPX4発現が高いことが知られており、GPX4阻害でガンを殺す可能性が試されたが、予想通りGPX4阻害は腎障害など多くの副作用を示し、成長後の細胞でもフェロトーシスの抑制が必須であることを示している。フェロトーシスが鉄依存的に起こる活性酸素の過剰生成により起こることを考えると、正常細胞での重要性も納得できる。

今日紹介するドイツミュンヘン、ヘルムホルツセンターからの論文は、GPX4の変異により起こる Sedaghatian-type s seal dysplasia (SSMD) と呼ばれる極めて希な遺伝疾患の変異分子の解析から、神経細胞変性もフェロトーシスの視点から見ることの重要性を示した研究で、12月4日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「A fin-loop-like structure in GPX4 underlies neuroprotection from ferroptosis(GPX4のヒレ型ループ様構造が神経細胞をフェロトーシスから守る)」だ。

GPX4はノックアウトすると胎生致死で、しかも阻害剤により腎障害など強い副作用が起こることから、これに起因する遺伝疾患があるとは想像だにしなかった。ところが、152番目のアルギニンがヒスチジンに変化するR152H変異を持つ強い軟骨異形成症とともに進行する神経細胞死が見られる患者さんが存在することがわかった。この変異をマウスに導入すると、マウスはやはり胎生致死なので、R152Hでは比較的弱い機能障害のため、希に生まれてくることがあると考えられる。

いずれにせよ完全ノックアウトではない機能異常が発見できたので、この変異で本当にフェロトーシス阻害活性が低下しているのか、患者さんの線維芽細胞や iPS細胞由来の神経細胞を用いて調べ、明らかに神経細胞フェロトーシスガ促進されていることを確認している。

次にR152H変異の分子機能異常をNMRや構造解析で調べている。このシリーズの実験はこの研究のハイライトで、膜タンパク質研究のプロのアプローチがよくわかる。この結果、R152H変異は酵素活性としては全く正常と変わりないが、この変異によってGPX4に存在するfyn-loop構造が壊れてしまって、細胞膜への結合が弱まり、さらに膜状でも組織化されないことを明らかにする。この結果、膜上で不飽和脂肪酸の酸化を抑える効率が低下することで、フェロトーシスガ起こってしまうことが、様々な症状につながることを明らかにしている。

ここからは興奮神経細胞に焦点を当て、生後タモキシフェンを投与すると興奮神経細胞でGPX4がR152Hに変化する、あるいは完全ノックウトされるマウスを作成し、変異誘導後の変化を見ると、患者さんで見られるように、興奮神経細胞特異的に進行性の変性が起こる。

この時、神経細胞で起こるタンパク質レベルの変化を質量分析で解析し、R152H変異が誘導されるとアルツハイマー病と同じような発現タンパク質の変化が見られること、さらに完全にノックアウトされるとハンチントン病やパーキンソン病と同じようなタンパク質変化が起こることを発見する。

以上が結果で、R152H解析を通してGPX4が細胞膜にリクルートされる分子基盤が初めて明らかにできたことが最も重要な貢献だと思うが、様々な神経疾患をフェロトーシスの亢進により細胞が変性するという視点から見直すことで、新しい神経保護法が開発できる可能性を示している。大変勉強になった。

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