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12月11日 真核生物への進化を包括的に考える(12月3日 Nature オンライン掲載論文)

2025年12月11日
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48億年前に原核生物が誕生した後、現在古細菌と呼ばれているアーキアといわゆるバクテリアに分かれるのが最初の生命の多様化と言っていいだろう。その後、それぞれは現在まで多様化を遂げるが、その過程でミトコンドリアを始め原核生物には全く存在しない様々な新機構を持った真核生物が誕生する。原核生物と真核生物を区別する最も有名な違いがミトコンドリアなので、真核生物=ミトコンドリアの発生と考えてしまうが、細胞骨格、小胞体、核など、我々が細胞学で学ぶ多くのシステムは真核生物独自と言っていい。

これまで、真核生物研究の中心は、ミトコンドリアに限らず真核生物の新しい機構を支える分子の進化を一つ一つ探るというスタイルだったが、今日紹介するブリストル大学からの論文は、真核生物を特徴付ける新しい機構全てを包括的に調べ直し、真核生物の形成過程を再構成しようとした研究で、12月3日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Dated gene duplications elucidate the evolutionary assembly of eukaryotes(日時を特定した遺伝子重複から真核生物の新機構が揃う進化がわかる)」だ。

この研究の重要性は、個々の特徴ではなく真核生物の新機構全てを包括的に扱っている点で、真核生物を扱っている研究者にとっての一種の辞典のような立て付けになっている点だ。そのため、論文をダウンロードして、真核生物とは何かを考えるとき、是非、自分で読んでほしい。

研究では60あまりの遺伝子をまとめて、最近開発が進む緩和時計法と呼ばれる系統樹の書き方を適用して調べ、例えばアーキアの方がバクテリアより早く遺伝子重複と多様化を始めたことを確認している。

これまでアーキアの進化形のアズガルドアーキアが、アルファプロテオバクテリアをミトコンドリアとして取り込んで、真核生物が誕生すると考えられているが、これまで存在しなかった機構が成立するためには、既存の遺伝子が重複を繰り返し、本来に機能に使われなくなった遺伝子が新しい機構に使われるようになると考えられる。そこで、研究では真核生物特異的機構に存在する遺伝子のバクテリアやアーキアでのルーツを探り、それぞれが重複が起こった時期を調べている。即ち、新しい機構の準備期間を特定することに注力している。この視点で見て、アルケアで重複が起こり真核生物の準備が起こリ始めるのは30億年から始まり、26億年をピークとする。一方バクテリアで準備に関わる重複が起こるのはかなり遅く24億年前からになる。

ミトコンドリア形成にはミトコンドリアへと移行するαプロテオバクテリアでの重複が必要だが、これは22億年前後からで、これらの時期からミトコンドリアが発生したのを22億年と推定している。

ただ、ミトコンドリアの取り込みだけが真核生物を形成するのではない。小胞体形成、細胞骨格などに関わる遺伝子の重複時期を探ると、ミトコンドリア形成よりかなり早い時期から重複が起こり、細胞骨格や小胞体の原型が形成されていることがわかる。また、細胞骨格のような仕組みで貪食作用が発生しないと、ミトコンドリアの取り込みも成立し得ない。これらの新機軸の中で、核形成に関わる分子は重複時期が遅い。例えば核膜孔形成分子などは、ミトコンドリアが誕生して数億年たってから完成している。

異常の結果から、細胞骨格、小胞体などに関わる遺伝子の重複進化はアーキア、バクテリアそれぞれで早い時期から始まり、これらが集まった大イベントとして22億年前にアズガルドアーキアがαプロテオバクテリアを取り込みミトコンドリアが誕生する。同じ細胞骨格や細胞内膜から核が形成され、クロマチンを持ち、その後減数分裂まで可能になる遺伝形式が誕生し、我々が真核生物として理解する生物ができあがる。

頭の中を整理するには最適の論文なので、自分で読まれることを勧める。

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