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7月26日 バクテリアの鞭毛はお腹の中で食欲を抑えてくれる(7月23日 Nature オンライン掲載論文)

2025年7月26日
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腸管が我々の食欲調節に深く関わっていることはよく研究されている。お腹がいっぱいになったことを感じるメカノセンサーを起点とする神経回路だけでなく、L細胞と呼ばれる内分泌細胞から分泌されるGLP-1 や PYY などの内分泌系による視床下部への作用を介する食欲抑制など、極めて複雑なネットワークが形成されている。このブログでも何度も紹介したように、このような消化管ホルモンを誘導する刺激の多くは、グルコースや脂肪、タンパク質などの栄養分で、グルコースに対数 SGLIT1 など様々な受容体が特定されている。

今日紹介すデューク大学からの論文は、このような栄養分に加えて、なんと鞭毛を持つバクテリアを L細胞が感知して食欲抑制の PYY などを分泌させる事を示した研究で、腸の細胞の多様性が覗える。論文は7月23日 Nature にオンライン掲載され、タイトルは「A gut sense for a microbial pattern regulates feeding(腸管は細菌叢のパターンを認識して食欲を調節する)」だ。

消化管ホルモンを発現する腸内の感覚上皮細胞をラベルして、これらの細胞がバクテリア由来分子の刺激を受けるとしたら必要な受容体について探索すると、なんと消化管ペプチドPYY を発現する上皮細胞がバクテリアの鞭毛を感知する TLR5受容体を特異的に発現していることを発見する。即ち、バクテリアの鞭毛に反応して PYY を分泌して食欲を落とすというドンピシャの関係が示唆された。

そこで、PYY を発現している細胞特異的に Tlr5 をノックアウトすると、代謝自体には大きな変化はないものの、食べる量が増えることが明らかになった。この効果が Tlr5 が鞭毛を感知しているためであることを確認するために、PYY分泌細胞を鞭毛成分フラジェリンで刺激するとカルシウム反応が高まり、また PYY の分泌量が Tlr5 をノックアウトすると抑えられることがわかり、確かに Tlr5 が刺激されることで誘導されるカルシウム反応の結果、PYY の分泌が起こっていることがわかる。

PYY の食欲抑制効果は直接視床細胞に働く可能性もあるが、フラジェリンを腸内に注入する実験では、迷走神経の興奮が検出できるので、鞭毛刺激による PYY分泌はまず迷走神経の興奮を誘導し、これが視床下部の食欲制御に繋がると考えられる、実際迷走神経には PYY に対する受容体P2受容体が発現しており、迷走神経のP2受容体をノックダウンするとフラジェリンによる興奮は消失する。以上の結果は、フラジェリンによる Tlr5 刺激→ PYY 分泌による迷走神経刺激→視床下部を介する食欲抑制という経路が明らかにされた。

最後の仕上げに、実際にフラジェリンを腸管に注入すると食欲が抑えられるかを調べ、1㎍/ml のフラジェリンを浣腸で腸内に直接投与すると、食欲が強く抑制される急性反応が起こること、そしてこの急性反応は PYY細胞の Tlr5遺伝子ノックアウト、あるいは P2受容体ノックアウトで消失することを示し、鞭毛に対する反応が10分単位で現れる早い反応であることを明らかにしている。

以上のフラジェリン浣腸刺激実験から、Tlr5遺伝子がPYY細胞でノックアウトされたマウスで食欲が上昇するのは、フラジェリンを感知して食欲を抑制する回路が欠損した結果である事がわかる。

以上が結果で、鞭毛細菌が腸内で増えると食欲が落ちるという話になるが、鞭毛を持つ細菌が腸炎や加齢で増加することを考えると、これらの状態でしばしば食欲が落ちるので、この話は納得できる。さらには、高脂肪食でも鞭毛を持つ細菌が増えることが報告されているので、高脂肪食をフラジェリンの刺激の強さから眺めてみると面白いかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月25日 幻覚剤シロシビンには抗老化作用がある(7月8日 npj-Ageing オンライン掲載論文)

2025年7月25日
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現在移動中なので軽めで少し風変わりな現象を扱った2編の論文を短く紹介することにする。

このブログでも幻覚剤シロシビンを一回投与して幻覚を誘導するとうつ病の症状が一定期間消失するという論文を紹介した。この効果は全てシロシビンが持つセロトニンを介する神経作用によると思っていたが、シロシビンがテロメアの短縮を防ぐことがこの効果の背景にあるのではと言う途方もない可能性が提案されているようだ。

この研究はこれを確かめるため、細胞レベルや個体レベルでシロシビンを投与し、驚くなかれ細胞老化を押さえ、マウスの寿命まで延長できることを示した研究で、7月8日 npj-Ageing にオンライン掲載された。タイトルは「Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice(シロシビンは細胞の寿命を延長するだけでなく老化マウスの生存期間を延長する)」だ。

まず胎児肺から調整した線維芽細胞の継代培養を続ける細胞老化を誘導する実験で、シロシビンを培地に加えて様々な老化指標を調べる極めて単純な実験だ。シロシビンを加えた培養では増殖が続き老化が抑えられる。また定番の β-gal 染色で老化した細胞を調べると、陽性細胞数は半分にまで低下している。

メカニズムについては詳しくは解析していないが、老化を抑える転写因子の代表 Sirtuin1 の発現が上昇し、活性酸素の産生が低下し、期待通りテロメアの短縮が強く抑えられている。

そして20月齢のマウスに月一回づつ15mg/Kgのシロシビンを投与し続け、生存曲線を調べている。この量がどの程度か正確に判断できないが、投与後のマウスの状態から脳症状が発生しているのがわかる。いずれにせよ驚くべき結果で、コントロールのマウスは28ヶ月で50%が死んだのに対し、シロシビン投与群では80%以上が生きているという結果だ。メカニズムがわかれば、幻覚とは切り離した薬剤も可能かもしれない。

もう一編の論文はさらに不思議な論文で、訓練された犬はパーキンソン病 (PD) 患者さんを匂いで嗅ぎ分けるという報告で、7月14日 Journal of Parkinsons Disease にオンライン掲載された。タイトルは「Trained dogs can detect the odor of Parkinson’s disease(訓練された犬はパーキンソン病の匂いを嗅ぎ分ける)」だ。

PD患者さん及び正常人の皮膚のスワブを集め、これで10匹の犬を訓練し、高い能力を持つ2匹に新しいサンプルを嗅がせて診断率をテストしている。結果は2匹とも、80%近い感受性と、90%を超す特異性でPDを嗅ぎ分けた。確かに面白いが、診断という点ではよほど早期診断が可能でない限り、今後も犬に頼ることはないと思う。

いずれも再現がとれれば、メカニズムを探求するのに値する現象だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月24日 免疫系と神経系の協調が必要な寄生虫免疫(7月17日 Science 掲載論文)

2025年7月24日
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細菌やウイルスと比べると、肉眼的大きさの寄生虫を我々はどのように対処しているのか、イメージするのは簡単ではない。IL-4や IL-13などのサイトカインが中心にあり、Th2細胞を誘導により局所に好酸球や好塩基球が局所に浸潤する特殊な炎症を誘導し、さらに IgEアレルギー反応まで動員して寄生虫の排除に当たる。

今日紹介するハーバード大学からの論文は、Th2細胞はIL-4を介して腸管の感覚神経系を動員して寄生虫に対する免疫反応を増強していることを示した研究で、7月17日 Science に掲載された。タイトルは「Type 2 cytokines act on enteric sensory neurons to regulate neuropeptide-driven host defense(2型サイトカインは腸管感覚神経に働き神経ペプチドによりホストの防御反応を調節する)」だ。

以前から寄生虫免疫では腸管神経系も様々な神経ペプチドを分泌して関与することが知られていた。この研究では免疫系と神経系の関係を探るため、single cell RNA sequencing を用いて神経系が発現する遺伝子を調べ、2つの神経ペプチドを neuromedin U(NMU)とcalcitonin gene-related peptideβ(CGRP) を発現している腸管感覚神経が、寄生虫免疫の核となっているサイトカイン IL-4や IL-13シグナルを伝える全ての遺伝子を発現していることを発見する。まさに、寄生虫免疫を考える上で最も太いパイプが神経系と免疫系の間につながった。しかも、IL-4を投与すると NMU や CGRP の分泌が20-200倍上昇することを発見する。

生体内でこのパイプの寄生虫免疫での機能を調べるため、腸管感覚神経特異的に IL-13受容体をノックアウトして、IL-4 や IL-13 に反応しないようにして、ネズミの腸に寄生する回虫(ポリギルス)を感染させると、正常と比べ寄生している回虫や卵の数が増加する。すなわち、神経系の動員は寄生虫を抑制していることがわかる。また、IL-4 に神経が反応できなくても、マウスに神経ペプチドを投与すると寄生虫の活動を抑えられるので、IL-4 に反応した感覚神経は、神経ペプチドを分泌することが寄生虫抑制のメカニズムであることがわかる。

残るは神経ペプチドが寄生虫の活動を抑制するメカニズムだが、神経から分泌される神経ペプチドが結合する受容体は腸管の筋肉層に存在する自然免疫に関わる ILC2細胞に発現しており、ペプチド刺激により IL-5 が誘導され、これにより好酸球が寄生虫の周りに誘導されることで寄生虫を閉じ込めることがわかる。

加えて筋層に存在するマクロファージは、IL-4と神経ペプチドの作用で寄生虫と接着する分子や、寄生虫免疫に関わるArg1をはじめとする様々な分子を発現し、また好酸球の遊走を促すケモカインも発現することで、ILC2 が分泌する IL-5 とともに好酸球の局所への浸潤を促進することで、寄生虫を抑制していることを示している。

以上が結果だが、まず神経細胞が IL-4 に直接反応することに驚くが、寄生虫は、神経、Th2免疫細胞、そしてマクロファージや ILC2 などを総動員しないと対応できないやっかいな対象であることがよくわかる論文だった。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月23日 pH 依存的相分離が炎症を調節する(7月17日 Cell オンライン掲載論文)

2025年7月23日
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炎症が起こると身体が酸性になるとよく言われる。実際様々な組織で pH は調べられており、感染でリンパ節が酸性になるし、細胞は pH を感知して様々な方法で pH の安定性を保っている。

今日紹介するイエール大学からの論文は、炎症組織に浸潤するマクロファージが、これまでとは全くことなるメカニズム、即ち転写因子の相分離調節を介して pH 依存的に炎症を抑える方向に転写をスイッチさせることを示した面白い研究で、7月17日 Cell にオンライン掲載された。タイトルは「Regulation of inflammatory responses by pH-dependent transcriptional condensates(pH依存性の転写因子の相分離体による炎症反応の調節)」だ。

この研究では LPS を注射して TLR4 を刺激して炎症を起こしたとき、マクロファージは炎症によって引き起こされる pH の急速な変化を感知して反応することで炎症の調節に関わるはずだと考え、pH 7.4 、あるいは pH 6.5 で培養したマクロファージを LPS で刺激し、pH 環境で変化する遺伝子を調べている。

すると、pH 6.5 の環境では炎症を促進する遺伝子が軒並み抑えられることを発見する。すなわち、酸性条件では炎症を抑える方向にスイッチが入ることがわかる。このとき pH センサーとして働く分子機構を調べる目的で、これまで知られているセンサーをノックアウトしたマクロファージで同じ実験を行って、マクロファージで見られる転写のスイッチはこれまで知られている pH センサーを用いていないことを確認する。

そこで pH 依存的に転写が変化する様々な可能性を探索した結果、最終的にエンハンサーとプロモーターをつなぐ BRD4 が核内で形成する相分離体がこのスイッチに関わることを発見する。BRD4 は離れたエンハンサーとプロモーターが結合する時に必須で、このとき BRD4 が持つ IDR(天然変性領域)を介して相分離体を形成し、様々なタンパク質をリクルートすることが知られている。

マクロファージの BRD4 を調べると pH 7.4 で形成されている相分離体が pH 6.5 になるとかなり減少すること、そしてこの減少に伴い炎症をプロモートする遺伝子の発現が低下することを発見する。

実際に BRD4 の相分離体が pH センサーとして働いているかを、蛍光ラベルした BRD4 を発現させたマクロファージを異なる pH 環境を行き来させる実験で調べている。この結果は、酸性環境では BRD やそれと結合して働く MED1 などの機能が損なわれるため、転写が低下することが天然のスイッチになっていることを示している。実際、BRD4 の機能をブロックすると、転写は低下するが、pH 6.5 で見られるよりは広範な遺伝子の発現が低下する。おそらくこの差は、エンハンサーとプロモーターの距離が離れているほど BRD4 相分離に依存性が高いためと考えられる。残念ながらこの研究で pH 6.5 環境で低下するとしてリストされた遺伝子調節に関わるエンハンサーの距離は調べられていないが、説得力のある説明だと思う。

以上、pH の変化による物理的相分離シフトが、遺伝子調節に関わり、炎症では病原体に対する反応の結果起こってくる環境の pH 変化を、炎症の抑制のスイッチとして使っているというシナリオは面白い。BRD4 は他にも多くの遺伝子の転写に関わっていることから、同じメカニズムを使った生理学過程が今後明らかになると期待できる。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月22日 社会問題に関する Nature 論文(7月16日 Nature オンライン掲載論文)

2025年7月22日
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社会問題も当然科学的分析をベースに議論されるべきなのだが、トランプに代表されるように多くのポピュリズムでは敢えて科学を否定することが重要な手段の一つとなる。これに対して、科学は真面目に業績を積み重ねるしかないが、科学雑誌もそのような論文を積極的に掲載して、この努力を後押ししている。

先週 Nature にオンライン掲載された論文にはこの編集方針を示す論文が2編もあったのでまとめて紹介することにした。いずれもトランプ政権が意識されているように思える。

一つ目は中国・武漢大学からの論文で、温暖化の入院の必要な病気発生への影響について調べた研究で、タイトルは「Temperature-Related Hospitalization Burden under Climate Change(気候変動による気温により起こる入院負荷)」だ。

元々外気温の変化により死亡率が変化することはよく知られており、例えば低温傾向が続くと過剰死亡が増えるので、特に高齢者は暖かい部屋にいるように推奨される。特に気温のように一定の時間差の後影響が出る様な原因と結果の相関を調べるために Distributed Lag Nonlinear Model が開発され、広く用いられているが、この研究でもこれを用いて中国各地の病院の入院動向を詳しく調べ、異常気温による発病率の変化を、過剰入院数というフィルターで調べている。

特に新しさを感じる研究ではないが、301都市の7000を超す病院について調べたという規模の大きさと、地域別の温度と過剰入院数を克明に調べているが評価されている。この結果、気候変動、特に温暖化による異常高温の影響は、元々気温の高い地域ではなく、冬は気温が下がる中国北部地域で強く見られること、また地域のGDPが低いほど影響を受けることを示している。最後に、これまでのデータに基づき、いくつかの気候変動シナリオの元、将来の過剰入院数を予測し、最悪のシナリオで気候変動が進んだ場合、中国だけで過剰入院数が500万人を超えるとと警鐘を鳴らしている。

過剰入院数を指標に Distributed Lag Nonlinear Model を用いて解析したことがアイデアで、もう一つの大国中国がアメリカに同調せずこのような科学に基づく政策を進めることを期待したい。今後中国だけでなく、様々な国でデータが集まることが重要だと思う。

もう一編のスウェーデンからの論文は、今回の選挙でも問題になった移民問題の研究で、タイトルは「Immigrant–native pay gap driven by lack of access to high-paying jobs(移民と Native の収入格差は給与のいい仕事への壁によって発生している)」だ。

移民及びその2世の職業及び給与をそれぞれの国で調べ、全体の給与格差、同じ仕事をしている場合の給与格差、子供の職業と給与格差などについて克明に調べている。また移民する前の地域別での差別についても調べている。対象国は、スペイン、カナダ、ノルウェイ、ドイツ、フランス、オランダ、米国、デンマーク、スウェーデンになる。全般的な給与格差は、今並べた国別順に大きい。特に移民も多く、移民に寛容と個人的に思っていたスペインやカナダで移民の収入格差が大きく、特にカナダでは同じ職種の中での格差が大きいのに驚いた。一方、ノルウェイ、ドイツ、フランスは大体同じレベルの格差で、nativeより2割収入が低い。そしてこの調査で最も驚いたのは、米国がデンマークと並んで移民の収入格差が低い点で、10%前後で収まっている。

結論的には、収入格差を生むのは、移民にアクセス可能な仕事が給料が低いという問題が一番大きな要因だが、これら先進国でもまだ同じ仕事についても給与格差が根強く残っている事がわかった。

救われるのは、子供世代になるとこのような格差は大きく改善されることで、語学力が収入のいい仕事につきにくい要因である事もわかる。

出身国での差別も存在する。アフリカからの移民は、アジアや南米と比べると格差が大きい。一方、ヨーロッパからの移民は、例えばアフリカと比べると格差は1/4に低下する。即ち、肌の色や習慣も格差の原因になっている。ただここでも、子供世代になると、格差は大きく減少している。

以上が結果で、米国とカナダを除くとほぼ予想通りの結果だ。もちろんトランプの厳しい反移民政策はまだ半年で、トランプ前にインフレと人手不足が続いていた米国では移民の収入格差が低いことは予想できる。今後トランプの新しい政策で、米国でこの格差が広がるのかどうか注視したい。

一方、格差がないという点ではスウェーデンは予想通り優等生になる。しかしそのスウェーデンでも反移民政策を掲げるスウェーデン民主党が第二党の地位を得ている。また、収入格差の大きいスペインでもVOXのような反移民と「スペイン人ファースト」を掲げるポピュリズム政党が第三党になっていることを考えると、移民が収入の低い職業に甘んじているからといって、移民に対する国民の不満を抑えられないことがわかる。

我が国に目を移すと、今回の参院選では外国人が優遇されているという情報が飛び交い、既存のメディアが否定に躍起になったが、社会問題にも科学的データを積み重ねておくことが、不安定でポピュリズムが高まる時代には必要だ。宗教でも政治でも焚書を市民が支持したことを忘れてはならない。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月21日 ポリグリシン病と天然変性領域(7月17日 Science 掲載論文)

2025年7月21日
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一昨日に紹介した 「天然変性領域」(https://aasj.jp/news/watch/27138)の事がよくわかる論文が同じ Science に出版されているので紹介する。ハーバード大学からの論文でタイトルは「Polyglycine-mediated aggregation of FAM98B disrupts tRNA processing in GGC repeat disorders(GGCリピート病でのポリグリシンにより媒介されるFAM98Bの凝集はtRNAの転写後の処理を抑制する)だ。

最も典型的な天然変性領域 (IDR) は同じアミノ酸が繰り返す領域で、例えばグルタミンの繰り返しが異常に増加するとタンパク質の凝集により細胞の変性が起こる。これが有名なハンチンティン分子のグルタミンリピートによるハンチントン病だが、グリシンリピートでも神経軸索膨化症 (NIID) 、眼咽頭遠位型ミオパチー (OPDM) 、そしてFragileX 関連性振戦/運動失調症候群 (FXTAS) などの病気が起こることがわかっている。

この研究ではまずグリシンが99回繰り返すペプチドを細胞で発現させ、これが核周囲で凝集塊を形成すること、そしてその中に同じようなグリシンリピートを持つタンパク質が多く取り込まれていることを発見する。中でもFAM98Bと呼ばれるtRNAがスプライスを受けて成熟型に変化するときに働くRNA リガーゼ複合体の中心をなす分子が強くトラップされることを発見する。面白いことに、このリガーゼ複合体の中でFAM98Bだけがグリシンを多く含むC待つ領域を持っており、これがグリシンリピートによりできた凝集塊に取り込まれる原因であることがわかる。即ち、IDRによってできる凝集塊に、同じようなIDRを持つタンパク質が取り込まれ病気が起こる可能性が示唆された。このようにIDRは生理でも病理でも重要な働きをしている。

本来RNA スプライシングに必要なFAM98Bは核内で働くが、ポリグリシンにトラップされると、核内から隔離されてしまう。その結果、イントロンを持つ tRNAのスプライシングが、リガーゼによる結合前で止まってしまい、成熟型の tRNAができないことがわかった。

FMR1分子内とNOTCH2NLC分子内のグリシンリピートによりおこるFATASとNIIDの患者さんのサンプルを調べると、FAM98Bが核の周囲に凝集しており、また成熟型 tRNAの形成が強く抑制され、結合前の異常RNAが増えていることが確認された。

以上の結果から、ポリグリシンによる神経変性のメカニズムは、ポリグリシン凝集自体の毒性というより、これによりFAN98Bがトラップされて働かなくなる結果と考えられる。そこで最後に、FAM98Bを脳神経でノックアウトする実験を行い、神経変性による進行する運動障害が発生することを示している。

以上の結果は、IDRによって正常タンパク質が隔離され、特定の機能が失われることがリピート病の原因になるという、新しいリピート病メカニズムを示した点で重要な貢献だが、同時にIDRがどのように働くのかを知る上で面白い例を示していると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月20日 ミトコンドリア遺伝子変異を前核移植による三親児作成により治療する(7月16日 The New England Journal of Medicine オンライン掲載論文)

2025年7月20日
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海外のメディアでは報道されているのに我が国ではほとんど報道されていないようなので、正常な卵に変異ミトコンドリアを持つ患者さん夫婦の受精卵から取り出した前核を移植して、異常ミトコンドリアを減らしてミトコンドリア病の発症を防ぐ、英国ニューカッスル大学からの治療論文を紹介することにした。タイトルは「Mitochondrial Donation and Preimplantation Genetic Testing for mtDNA Disease(ミトコンドリア提供と着床前遺伝子診断によるミトコンドリア病治療)」で、7月16日 The New England Journal of Medicine にオンライン掲載された。

ミトコンドリアには13種類の呼吸チェーン分子をコードする遺伝子、22種類の tRNA をコードする遺伝子、そして2種類のリボゾーム遺伝子が存在し、これらはミトコンドリアの機能と量の維持に必須で、変異が起こると心臓、目、神経を中心に様々な症状が起こる。ミトコンドリアは母親の卵に由来するので、卵の段階でミトコンドリア異常を見つけて治療するという可能性が早くから認識されていた。

手っ取り早いのは、正常なミトコンドリアを移植する方法だが、マイトファジーなどで外来のミトコンドリアが排除されて定着しない事がわかって、中断されている。代わりに登場するのが、着床前診断で卵子の異常ミトコンドリアの割合を調べて、正常ミトコンドリアが多い卵だけを移植する方法で、ニューカッスル大学などから報告がある。これは、異常ミトコンドリアが存在する卵でも、正常ミトコンドリアと混じり合っている(ヘテロプラスミー)のが普通で、正確に正常/異常比が測定できれば治療法として有効だ。

ただライ症候群のような異常ミトコンドリアが常に高いと予測されるケースでは着床前診断では妊娠不可能と出るので、最後の手段として今回治験が行われた正常卵に患者さん夫婦の受精卵から前核を取り出し移植して、ミトコンドリアだけを置き換える治療が考えられる。

理論的には可能だが、正常ミトコンドリアが一定比率存在する中で、ここまで踏み込んでいいのかという議論が行われてきた。しかし、2016年、米国の患者さんがメキシコで前核移植による三親児誕生治療を行い、大騒ぎになった(https://www.newscientist.com/article/2107219-exclusive-worlds-first-baby-born-with-new-3-parent-technique/)。このケースでは論文としての報告もなく、ただ成功報道だけが行われた。

これに対し、今日紹介するこの分野のパイオニア、ニューカッスル大学のグループは、英国の HFEA のガイドライン作成とそれに従うプロトコルを確立し、ガイドラインに基づいて異常ミトコンドリアを持つ母親131人を、着床前診断に基づく卵の選択グループと前核移植グループにわけ、異常ミトコンドリアの比率を減らすことができるか調べた系統的な治験研究で、試験管ベイビーからの長い伝統を持つ英国の力がよくわかる研究だ。

前核移植のプロトコルについても図入りで詳しく示されており、正常卵、患者さんの卵をメタフェーズ II時期に同時に、しかも同じ夫の精子で顕微授精し、卵由来、精子由来の二つの前核ができた時点で移植するプロトコルを用いている。

結果だが、着床前診断プロトコルからは39人中16人、前核移植からは22人中8人の子供が生まれ、どちらもほぼ同じ確率で子供ができることを示している。そして、前核移植を受けた6人ではミトコンドリアはほとんど正常に置き換わっており、残りの二人も正常ミトコンドリアが77%、88%と、ミトコンドリア症発症を強く抑えられるレベルになっていることを示している。

同時に行った着床前診断で正常ミトコンドリアが高い卵を選んだ場合でも、異常ミトコンドリアは全例で7%以下に抑えられており、これも治療法としては極めて有効であることが示された。

今後今回生まれた子供たちの長期追跡により、ミトコンドリア病の発症予防についての効果が確定していくと思うが、現在のところここまで正確な診断と移植技術が可能なのは限られているので、この治療がどこまで広がるかはわからない。ただ、今回プロトコルから経過まで長い時間をかけたデータが公開されたことで、社会の議論も進むように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月19日 天然変性領域を認識できるタンパク質をデザインする (7月17日 Science 掲載論文)

2025年7月19日
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論理的に正しいことをどう証明できるかという問題は19世紀から20世紀に盛んに議論され、ヴィトゲンシュタイン、ゲーデル、ラッセルなどがこの議論を担った哲学・論理学者だが、結局絶対的に正しい一つの体系は存在せず、文脈依存的に正しいかどうかが決まるという方向に集約した。そんな中で、アラン・チューリングは、物理世界で実現・操作可能かという問題にこの問題を置き換える見事なアイデアを提出し、コンピュータの理論的基礎を築くとともに、哲学にも大きな影響を及ぼしたと思う(我が国では少し事情は異なるが)。

昨年、ノーベル化学賞は、遺伝情報にコードされた一つの文脈、タンパク質の3次元構造を予測する大規模言語モデルに授与されたが、このような情報を実際の物理世界に実現することは、チューリング的意味で極めて重要な課題になる。これを実現するために、様々なモデルを作り、そこから予想される新しいタンパク質を実際に合成し、その検討を通してさらに新しいモデルを開発し続けているのがワシントン大学の David Baker さんだと思う。

そのBakerさんが、タンパク質の構造を決定したとき、きちっと折りたたまれない領域、Intrinsically disordered region(天然変性領域:IDR)を高いアフィニティーで認識するタンパク質の設計方法の基盤について示したのが、今日紹介する論文で、7月17日 Science に掲載された。タイトルは「Design of intrinsically disordered region binding proteins(天然変性領域に結合するタンパク質のデザイン)」だ。

IDR は構造化できない部分だが、柔軟なタンパク質相互作用に重要な役割を演じていることがわかっており、例えば相分離を媒介する領域としての IDR や、Tau など病理的タンパク質の持つ IDR も重要な課題になっている。しかし、構造がはっきりしないため特異抗体を作ったり、ましてや薬剤を開発することは困難だった。

この IDR を認識するタンパク質の設計を、これまで開発された様々なモデルを組み合わせて行う方法開発がこの研究になる。機能的記述と構造や配列を一つの多次元空間で扱う ESM と違って、Bakerさんの方法は段階的に、人間の頭も使いながら方法を組み立てていくのが特徴だ。

この研究ではまず短いペプチド配列に結合するタンパク質を、標的を包むようにという指示を出した上で設計し、その構造をこれまで Baker研で独自に開発してきた構造から、タンパク質の折りたたみ構造、そしてアミノ酸配列を決定するモデルを駆使して作成し、繰り返し配列を持つ IDRペプチドに対する1000以上の結合タンパク質ライブラリーをまず形成している。

このライブラリーの中から、実際の IDR の各部分にフィットする結合タンパク質を選び、それをつないで全体の IDR にフィットする一つのタンパク質を設計している。これまで様々なペプチドを特異的に認識する目的で抗体作成が行われてきたが、これを読むとほとんどその必要が無くなる気がする。

脱線したが、今度はこの方法でこれまで抗体や薬剤が全く開発できなかったペプチドdynorphinA に結合するタンパク質を設計し、この方法のポテンシャルを示すとともに、実際の結合タンパク質と dynorphin A の結合様式を分子を結晶化させて、実際の物理世界で調べ直している。この情報と実世界とのシャトルがBakerさんの研究を発展させている。

最後に IDR が問題になるいくつかのタンパク質相互作用の実験系を用いて、細胞内でもこうして設計したタンパク質が標的に結合することを示し、この方法の高いポテンシャルを示している。

結果は以上で、特定のタンパク質を IDR を指標に生成したり、細胞の中での分子の追跡をしたり、そして dynorphin のようにこれまで全く調べる手段のなかった神経伝達因子の操作を可能にしたりと、Bakerさんの目指す完全なタンパク質デザインにまた近づいている感がある。

Bakerさんたちは同じ方法を用いて、異なる RAS分子を認識する結合タンパク質が2月に bioRxiv に発表され、細胞内で特異的な Ras の膜へのリクルートが追跡できることが示されているが(https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2024.08.29.610300v4)、今後は IDR をもちいた細胞内でのタンパク質の追跡や、操作が加速するように思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月18日 細胞内へのRNAデリバリー(7月16日号 Science Translational Medicine )

2025年7月18日
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Covid-19 RNAワクチンで火がついたのか、RNAデリバリーについての論文を目にする機会が増えてきた。先月21日に紹介した、抗体を結合した RNAナノ粒子を用いて体内のキラー T細胞をガン特異的CAR-T細胞に変える RNAデリバリーはひょっとしたらこの分野のゲームチェンジャーになる可能性がある(https://aasj.jp/news/watch/26970)。この感覚を裏付けるように、最新の Science Translational Medicine に2報も RNA デリバリーの論文が掲載されていたので紹介する。

最初はハーバード大学からの論文で、経口投与によって腸の細胞で遺伝子発現して炎症を鎮める RNA デリバリー法の開発で、タイトルは「Oral delivery of liquid mRNA therapeutics by an engineered capsule for treatment of preclinical intestinal disease(カプセルを用いてmRNAを経口的にデリバリーして治療に使う前臨床実験)」だ。

この論文の紹介は簡単に済ますが、腸管細胞に遺伝子を届ける目的で、まず腸管まで内容物が漏れないように届ける経口カプセルを工夫し、次にその中に詰める RNA がカプセルから出たときに、腸管の粘液バリアを超えて上皮細胞にたどり着き、細胞内に取り込まれたあと、エンドゾーム外に RNA を吐き出せるナノ粒子を設計している。蛍光タンパク質の mRNA を用いて遺伝子導入の効率を示しているが、狙った場所に驚くほど高い効率で遺伝子導入が可能になっている。もちろんカプセルを調整することで、空腸から大腸まで異なる場所に遺伝子を届けられる。

前臨床として、腸炎に対して IL-10mRNA を腸上皮で発現させる治療を行い、ラットやブタで炎症を一定程度抑えることに成功している。ともかく腸上皮に遺伝子を届けるという目的では、かなり高い効率が達成できており、IL-10 にとどまらず、腸上皮特異的な面白い医療技術として発展できる気がする。

今日最も紹介したいのはイェール大学からの論文で、抗体を用いて細胞内に RNA を届けるという、常識には完全に反する RNAデリバリーで、タイトルは「Systemic administration of an RNA binding and cell-penetrating antibody targets therapeutic RNA to multiple mouse models of cancer(細胞内に浸透するRNA 結合性抗体を静脈注射することで様々なガンモデルを治療する)」だ。

タイトルにある cell penetrating antibody をみると、ちょっと知識があれば驚いてしまう。即ち抗体は体中に到達して細胞外で働くが、細胞内には浸透しない。もちろん Fc を介してエンドゾームに取り込まれることはあるが、そこで分解される。

読んでいくと、この研究は1966年、このグループが自己免疫マウスから分離した抗DNA抗体がなんと細胞内に到達して核の DNA に結合するという発見に始まっている。最初はマトリックスと DNA の両方に反応することで、マトリックスとともに細胞内に入るとしていたが、その後の研究で結合した DNA を細胞内に取り込むトランスポーターとともに抗体が細胞内に入ることを明らかにしている。

ただ、大きな mRNA を運ぶ方法としてはまだ使える段階にはないので、細胞内の RIG-1 というセンサーに結合してインターフェロンを誘導するヘアピン型RNA を細胞内に届けて、ガン免疫を助ける方向で研究を行っている。

まず以前に分離していた DNA結合抗体を少し変化させた TAMB3がRNA と結合できることを確かめ、これに RIG-1 を刺激するヘアピン型RNA を結合させ、静脈注射する方法を開発している。

この抗体は同じ結合サイトを用いて DNA と結合し、その DNA が細胞内に取り込まれるときに細胞内に入る。このとき働く ENT2 というトランスポーターは、正常細胞でも少しは発現しているが、核酸を必要とするガンでは発現が高く、その結果静脈に注射した抗体もガンに選択的に取り込まれると期待できる。

膵臓ガンやメデュロブラストーマなどの難治性のガンを移植したマウスに、TAMB3/ヘアピンRNA を静脈注射すると、期待通りガンに比較的選択的に取り込まれ、ガン細胞のインターフェロンを誘導する。その結果、リンパ球の浸潤程度の低い膵臓ガンにも CD8T細胞が浸潤し、ガンに対する免疫が増強することが示されている。

この研究ではチェックポイント治療との併用などは行われておらず、もちろんこれだけで根治には至らない。しかし、ガンに選択的にインターフェロンを発現させられるとすると、面白い治療に発展できる。何よりも、自然に抗体を細胞質の取り込ませるメカニズムがあることは、今後様々な可能性に発展できると思う。

カテゴリ:論文ウォッチ

7月17日 我々ホモサピエンスとネアンデルタール人との交雑の歴史を探る(7月12日 Science 掲載論文)

2025年7月17日
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ネアンデルタール人の全ゲノムを解読し、我々のゲノムの中にネアンデルタール人のゲノムが5-6万年前以降に起こったネアンデルタール人との交雑の遺産として残っていることを明らかにしたのはライプチヒ・マックスプランク研究所のペーボさんの業績だ。このとき、サハラ以南のアフリカ民族にはネアンデルタール人ゲノムは存在しないことが強調されたが、その後のネアンデルタール人のゲノムとアフリカ人ゲノムとの比較から、10万年以上前に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入があったことが示唆されている。

今日紹介するプリンストン大学からの論文は、全ゲノム解析が終わっている3種類のネアンデルタール人と1000人ゲノムプロジェクトで得られた2000人という大規模なゲノム配列を比較して、ペーボさんたちが特定した遺伝子流入以前の交雑史を詳しく解析した研究で、7月12日 Science に掲載された。タイトルは「Recurrent gene flow between Neanderthals and modern humans over the past 200,000 years(ネアンデルタール人と現生人類の間の遺伝子流入は20万年以上に渡って繰り返し起こっている)」だ。

遺伝子多様性は時間とともに発生し、蓄積される遺伝子変異と考えると、我々の先祖の多様性を反映している。ただ、他の集団との交雑があると、当然その多様性も取り込むことになる。多様性は我々が2本持っている染色体のヘテロ接合性の度合いを計算していくことで、交雑の結果としての多様性を追跡できる。この結果、ネアンデルタールゲノムのヘテロ接合性の高い領域で現生アフリカ人のゲノムと一致しているが、アジアやヨーロッパ人とは一致しない領域がネアンデルタール人で100カ所以上特定できるが、デニソーワ人では見つからないことがわかった。すなわち、Out of Africa より前に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入が間違いなくあったことが確認される。

そこで、最近開発された IBDmix と呼ばれる流入した遺伝子断片を見つける方法を使って特定された遺伝子断片の歴史的由来を探って、例えばアフリカ人に発見されるネアンデルタール遺伝子断片の由来を調べると、最初にネアンデルタール人へ流入した遺伝子領域が、今度は現生人類へと流入し、それが現生人との交流でアフリカに戻るという歴史を特定できる。

これまで古代人の人口はゲノムの多様性から計算していたが、多様性が他の人類から、即ちネアンデルタール人への現生人類ゲノムの流入によりもたらされるとすると、これによる多様性を計算して人口を推定する必要がある。この研究では、この影響を算定し、これまで推定されていたネアンデルタール人の人口が2割程度低くなることを示している。これは、その後のネアンデルタール人の絶滅を考える上でも重要な情報になる。

最後に近似ベイズ計算を用いて、シミュレーションを何度も繰り返しベイズ計算を行う方法で、遺伝子流入の歴史についての様々なモデルを検証し、最終的に現生人類からネアンデルタール人への遺伝子流入がまず20万年から25万年前に起こり、その後10万年から12万年頃にも同じように起こっていること、そしてあとの交雑の遺産はアルタイネアンデルタールには見られず、その後シャギルスカヤやヴィンジャネアンデルタールには見られること、そしてその後6万年以降2回に渡ってネアンデルタール人から現生人類への遺伝子流入が起こったという歴史が推定されている。

重要な問題は、20万年前の遺伝子流入がどこで行われたかだ。ネアンデルタール人は40万年前にはアフリカから出ていたことを考えると、これまで知られていた場所とは違う場所で現生人類とネアンデルタールの交雑があったことになる。この研究では、ギリシャやサウジアラビアが候補とされているが今後の研究になる。今後この新しいスキームに基づいて古代ゲノム解析が進むことで、これまで特定されている遺伝子流入が一方向性なのかなど、様々な疑問に答えが得られるように思う。また、ネアンデルタール絶滅史もこれからの重要なテーマになると思う。

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