5月22日 AI Agentは実験現場を変えるか(5月19日Natureオンライン掲載論文)
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5月22日 AI Agentは実験現場を変えるか(5月19日Natureオンライン掲載論文)

2026年5月22日
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Natureでは日本時間の木曜日に新しい論文がオンライン掲載される。驚いたのは今週の発表された生物系論文の中に7報近くのAI論文が含まれていたことで、3報はBaker研からのタンパクデザイン、1報はマウスのボディーマッピングAI, そして実験室でのAI Agent関連の論文が3報も含まれていた。まさに時代の変わり目にいることを感じている。今日、明日と学生さんや研究者に話をする機会があるので、この感覚を是非伝えたいと改めて感じている。

今日まず紹介したいのはAIサイエンティストについての研究を行っているFuture HouseとEdison Scientificの研究者による論文で、いわゆるAI Agentの実験室への導入について研究している。タイトルは「A multi-agent system for automating scientific discovery(複数のエージェントによる科学的発見の自動化)」で、5月19日Natureにオンライン掲載されている。同じ号にGoogleの研究者がGeminiをベースにした実験アイデアの生成について、「Accelerating scientific discovery with Co-Scientist(Co-Scientistを用いて科学的発見を加速する)」も発表されているが、素人目ながらFuture Houseの研究がより具体的で、包括的なのでそちらを紹介する。

AIの発展はGPTやジェミニといった汎用モデルの開発だけではなく、実に様々な分野で多くの特異的モデルが開発されている。特に生命科学では、文献検索から、アイデア生成、さらに実験の計画から、データのまとめ、解釈、そして論文作成まで、多くのモデルが開発されている。従って、必要なモデルを集めて、目的にたいする答えを探るAI Agentの開発が重要になる。隠居暮らしの私は研究現場で使うことはないが、ClaudeとOpen AIを組み合わせたAI Agentの力には驚いており、実験室で使うのは当然の流れだと思う。

この研究では、研究の目的をインプットすると、まず文献検索から様々な可能性を生成するPaperQ2をベースにしたモデルに、これまでの研究に基づく実験の可能性を生成させ、提案された可能性をもう一度文献から深く検討し直して、優先順位や実験の方法について提案させ、それに基づいて実験を行った後、JupyterNoteをベースにしたモデルを用いてデータをまとめて解析し、次の実験へつなげる3種類のモデルを使ったAI Agentを設計している。ポイントは、完全自動実験システムではなく、それぞれのモデルをつなぐのは人間で、AI Agentから出てきたアイデアや解析を、もう一度吟味し直して最終結論を得るようにしている。その意味では、我々が他の目的で用いているAI Agentと同じで、わかりやすい。

このような研究で最も重要なのはわかりやすい例を示すことで、この研究では加齢黄斑変性症(dAMD)の新しい治療方法開発を目的としてこのAI Agentの実力を示している。

まず、dAMDの治療薬の候補を文献サーチで探させると、151論文から10種類の化合物の候補がリストされ、一つ一つについて深く調べさせて蓋然性をランキングすると、トップランクとして網膜色素上皮の貪食能を高める薬剤が効きそうだと答えが返ってくる。そこで、このアイデアの蓋然性を再度評価させるとともに、現存の薬剤から使えるものをリストするよう指令を出すと、最終的に30種類の薬剤と、それぞれについての詳しい解説が出てくる。さらには言語モデルを用いて可能性のランク付けすら出来る。この結果、4種類の単剤と、1種類の合剤が色素上皮の貪食を上昇させるという最終提案が出る。

次にこの提案を実験に移すときの実験プロトコルも、このAI Agentから指示される。ここでは、Flow cytometerやsingle cell RNA sequencingやiPS由来の色素細胞を使うように指示が出るが、これについては人間の方で、細胞株と通常のRNA sequencingを用いた方法に変えて解析を行い、その結果は一般に使われているJupyter Notebookをベースにしたモデルで解析させ、最も効果がある薬剤としてROCK阻害剤Y-27632が最終候補として示される。

最終候補の評価のための実験も提案させることが出来、この場合提案通り実験を行い、アクチンフィラメントの再構成に関わる分子、オートファジーなどに関わる分子とともに、ApoEの受容体ABCA1の発現上昇という新しい発見までつながっている。

最後にY-27632に類似の効果を持つ薬剤を検索させ、なんと我が国発の緑内障治療薬ripasudilがリストされ、色素細胞の一時培養に加えた実験を行うと、ripasudilがY-27632を凌駕するという結論が出、ripasudilが治験候補と結論づけられる。

以上が結果で、今皆さんがAI Agentを使っておられるのと同じように、人間の仕事をより効率化し、しかも考えていなかった新しい発見まで可能になることを示しており、より実験室に馴染むAIの利用が提案されたと思う。おもしろいのは、PaperQ2などのモデルをOpenAIに変えると、ROCK阻害剤が提案されなかった点で、何が最も効率的なのかについてはまだまだ人間が決める必要がありそうだ。

Googleからの論文と比較したとき、Future Houseの論文がわかりやすいのは、要するに目的をはっきりさせ、具体例でAI Agentの力を示したことだが、今自分が現役ならどうすればいいのかと考えてみると、大変な時代だということもよくわかる。

カテゴリ:論文ウォッチ
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