私は補聴器を使っているが、デンマークに優れたメーカーが多い。「何故」とAIに訪ねると、高水準の福祉、産業集積、聴覚研究のレベルなどが答えとして帰ってくるが、もう一つ重要な要因があるのではと思っている。どの論文だったのかは忘れたが、デンマーク語は子音が複雑で、さらに母音も40種類もあることから、聞き取りが極めて難しいことが書かれていた。補聴器は単純に音を大きくするだけが調整ではなく、話す言葉がはっきり聞き取れるように調整される。とすると、当然デンマーク語は調整が最も難しい言語のはずで、これが優れた補聴器メーカーを育てたと言える。この調整の際、子音の区別に重点が置かれているようで、実際人の話が理解できなくなる最大の理由がこの点にあることは実感している。
このように子音と母音は我々の言語の音節構築の基本単位だが、人間は単語の識別をより子音に頼って行っているこようだ。これは言語理解が急速に発展する一歳児で既に見られる現象で、音としては母音の方が強いのに、何故子音をベースに聞こえている文章の音節を区別するのかはよくわかっていない。
今日紹介するハンガリー・ブタペストのELTE Eötvös Loránd大学からの論文は、何故子音が文章の区切りの区別に母音より重要かという問題についての、極めてユニークな研究で9月24日Scienceに掲載された。タイトルは「Neural evidence that dogs segment the speech they hear with a humanlike consonant bias(イヌも人間の様に聞いているスピーチを区切るとき子音により頼るのかについての神経学的エビデンス)」だ。
何故子音をベースに区切るのかについては、言葉の意味を学習する中で生まれてきたという考えと、話している音を聞いている中で確率的に学習した結果という考えがあるようだ(ただ、個人的には本当にこの2つの説明しかないのか、またそれぞれは具体的に何を意味するのかがよくわからない。ただいまは気にしないで進める)。
ここからが大展開で、この2つを区別するためには、言葉の意味を知らないイヌと人間が話し言葉のような並びを聞いたときそこに存在する音、シラブル、単語、センテンスの区切りを脳内で区別しているか調べれば良いのではと着想した。
そのために、母音を固定してその前に来る子音がバラバラ(_e_u_á _o_é_ü _ö_i_a)の意味のない文章らしき音の区切りが規則的に繰り返す母音型文章を合成する。このなかで(.o)は最少音節単位で1秒に8回(8Hz)の頻度、_e_uはシラブルで4Hzの頻度、さらに音節が3回以上繰り返す文章は1.3Hの頻度になる。同じように子音を(b_n_k_ m_z_t_ p_f_g_)の規則的繰り返しを子音型文章として合成し、これを脳波計を装着したイヌと人間に聞かせている。大事なのは文章が規則的で学習しやすいことで、これで音節を頭の中で区切れるようになる。
聞いている音を追跡し始めると、それぞれの音節に対して脳波が同期するのが観察できる。人間の場合、意味がとれなくても(例えば私がハンガリー語を聞いている場合)。人間では、子音と母音が組み合わさった音の最小単位8Hz,シラブル 4Hz, 及び3音節が組み合わさった単位1.3Hzに対して脳が同期していることがわかる。ただ、同期の強さを比べると、子音型文章を聞いたときの方が同期が強い。これが人間で文章を聞くとき子音を主に区切りとして使っていることの証拠になる。
さてイヌだが、人間と同じように8Hz, 4Hzでの同期は観察できるが、1.3Hzではほとん同期がない。ただ、音響学的にこれに対応する区切りが2Hzにも存在することが想定でき、ここにはっきりと同期が観察されるので、音節の繰り返しも区別することがわかった。ただこれは子音型文章だけで母音型文章は区別出来ない。即ち、イヌも同じ人工文章の流れを追跡するが、音節が長くなると子音型文章だけに反応している。いずれにせよ、子音で区切りを付けるのは人間もイヌも同じということになる。
実際には単語を聞くとき脳の反応は人間では400−500msほど遅れる。これをERPと呼んでおり、イヌでは少し早く350msほどだ。これを使ってERPを抜き出して調べると、同じ結論が得られている。
おもしろいのはイヌを生後12週前から人間と暮らしたか、12週以後から暮らしたかで区別して反応を調べており、両者で全く違いがない点だ。すなわち、子音をベースに区切りを付けるというのは発達期の学習の問題ではない。ただ、人間の言葉を聞いたことのない野生のイヌで調べたわけでないので、何故子音が区切りのベースに使われやすいのかの理由は全くわからずじまいで終わっている。
結果は以上で、私の説明もわかりにくかったと思うが、論文自体も独自の言い回しが多く、読みづらい論文で、読んだ後も、本当にこの結論でいいのかと完全に納得できない。ただ、同じ文章を聞いたときの脳の反応をイヌと人間で比べるという着想は買えると思う。
