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12月16日 :コーヒーの成分がパーキンソン病の進行を止めるかもしれない。(Current Biologyオンライン掲載論文)

2018年12月16日
実は、野生の虎が見れるかもしれないとう言葉に誘われて、インドの若い研究者に生命科学の過去から未来について、いつもの話をしたあと、虎の保護区にやってきた。仕事があるので、結局1日フルにサファリができるだけだが、虎に出会える幸運を信じている。ただ、覚悟はしていたが、ロッジに落ち着いてみるとネットの入りが悪いので、iPadにダウンロードできている論文の中から選んで紹介するので、食い足りない論文になるかもしれない。

今日は米国アカデミー紀要にRobert Wood Johnson医学校から発表されたパーキンソン病につながるシヌクレインの蓄積を抑える作用のあるコーヒーに含まれる化合物の話を選んでみた。タイトルは「Synergistic neuroprotection by coffee components eicosanoyl-5-hydroxytryptamide and caffeine in models of Parkinson’s disease and DLB (コーヒーに含まれるeicosanoyl-5-hydroxytryptamideとカフェインはパーキンソン病とレビー小体痴呆のモデルで神経細胞保護のために協調的に働く)」だ。

パーキンソン病の原因としてシヌクレインがリン酸化され沈殿する事で炎症が誘導され、これが黒質の神経細胞死を誘導することが考えられている。この時、シヌクレインのリン酸化を低下させるのがPP2Aと呼ばれる脱輪酸化酵素の働きだが、この働きを高めるのがPP2Aのメチル化で、PME-1と呼ばれる酵素により行われている。このPME-1のメチル化活性を、コーヒーの成分であるeicosanoyl-5-hydroxytryptamide(EHT)とカフェインがともに高める作用があることが知られていたが、この研究では両方の量をかなり減らして投与するとき(EHT12mg/kg, カフェイン50mg/Kg)、EHTとカフェインが両方協力してシヌクレインのリン酸化を低下させ、沈殿を防ぎ、パーキンソン病の進行を抑えてくれるかを確かめようとしている。

結果は期待通りで、
1)使った用量では単独では全く効果がないが、両方を毎日食べさせると神経症状が改善する。
2)これは、シヌクレインの脳内での蓄積が抑えられた結果で、
3)シヌクレインを注射する実験系でも、リン酸化を外してシヌクレインの除去につながり、
4)効果を示すメカニズムは、期待通りPP2Aの活性を高めてシヌクレインの脱リン酸化を高める結果で、
5)PP2Aの活性化は、両方の化合物によってPME-1によるPP2Aのメチル化が高まる結果だ。
という絵に描いたような話だ。

この結果にもとずいて、コーヒーを飲むことはパーキンソン病の発症や進行を抑えると結論している。これが全くガセネタというわけではないのは、もともとコーヒーを飲んでいる人にはパーキンソン病が少ないという統計があった。これまでその理由は全てカフェインの効果とされていたが、この研究ではEHTとカフェインが両方含まれているから効果があると結論している。

実際に使われた量を50kgの人間に換算しなおすとEHT600mg, カフェイン2.5gを1日摂取することになる。マウスは食事に混ぜると毎日食べていたようだが、もし安全なら合剤を処方する治療として、是非治験をやってほしいと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月15日 心房細動にボトックスが効く(Heart Rhythm オンライン掲載論文)

2018年12月15日
私の歳になると、だれもなんらかの不具合を抱えるようになるのか、病気の相談を受けることも多くなった。臨床の現場にいるわけではないので、一般的知識を提供できるだけだ。問題は、最近になると大きな病院でまだ現役という同級生はほとんどいないので、紹介する医師を探すのに苦労する。このように、よく相談を受ける病気の一つが、心房細動で、特にアブレーションと呼ばれる異所性に電気活動の巣になっている領域を電気的に除去する治療を受けた方がいいのか、これは安全な治療なのかなど、何回か聞かれた。基本的には受けるように勧めるが、一定の率で再発は避けられないようだ。

同じ心房細動をきたす危険性の多いのが心臓手術で、心臓の外科手術の後にはベータブロッカーを手術前後に投与して心房細動の発生を防ぐことがルーチンになっている。今日紹介するロシアのシベリア地区3病院と、米国の4病院という不思議な取り合わせのグループがHeart Rhythmに発表していた論文は皮膚のしわ取りに用いられるボトックスを手術後心筋の周りの脂肪組織に注入することで、心房細動の発生を強く抑えることができることを示した論文で、今後術後だけでなく、一般的な心房細動にも利用されるのではないかと期待できる方法の開発研究だ。タイトルは「Long-term suppression of atrial fibrillation by botulinum toxin injection into epicardial fat pads in patients undergoing cardiac surgery: Three-year follow-up of a randomized study (心臓手術後の心房細動の発生を心臓の周りの脂肪組織にデトックスを注射することで長期間抑えることができる)」だ。基本的には外科医の関心事で一般の人には関係がないのだが、シワ取りのボトックスを心臓にという意外性もあるので紹介することにした。 この研究では、バイパス手術を受ける患者さんで、心房細胞の既往がある60人を、無作為に30人づつに分け、心臓バイパス手術の間に、心臓の周りの脂肪組織4箇所に、ボトックスあるいは偽薬を注射し、その後の心房細動を含む心房性の頻脈のが起こるか、30日目、1年目、3年目で比べている。

結果は上々で、偽薬群では手術直後から頻脈の頻度が持続的に上昇を続けるのに、ボトックス群は1年目まで全く発症がない。ボトックスを注射した群ではその後遅れて頻脈が発生するが、発生率は低く、2年半以降に頻脈が起こる新たな患者は見られない。発生が見られなくなる3年目で最終結果見ると偽薬群は50%の頻脈の発生率だったが、ボトックス群では頻度は半減し25%で止まっていることがわかった。また一般的頻脈だけでなく、心房細動に絞っても見ているが、ボトックス群は半分以下に抑えられている。さらには術後発生した心臓発作が偽薬群では2名発生したが、ボトックス群では全く出ていないことも記載されている。大成功といえる結果だ。

次に、心房細動が起こりやすいリスクファクターを調べると、なんと糖尿病がダントツで高いリスクファクターで、次が男性のほうが術後の頻脈が起こる確率が高いことがわかった。したがって男性で糖尿病の心臓手術にはボトックスを考えたほうがいいという結果になる。

結果はこれだけで、最初はボトックスの本来の機能である神経活動抑制作用を用いて心臓手術後短期に起こってくる頻脈を抑制しようとした研究だったが、期待以上で、長期の結果もはっきりと改善したという結論になる。残念ながら、現在の投与法では、一般のアブレーションには利用できない。メカニズムを解明して、カテーテルで投与できるプロトコルが開発されたら、かなり期待できると思うが、可能だろうか。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月14日 ガン免疫の初期に効果を発揮する抗NKG2A抗体(12月13日号Cell掲載論文)

2018年12月14日
本庶先生のノーベル賞受賞特集の最後は、ガン免疫の新しいチェックポイントに関する研究を紹介する。

ガン免疫と一口に言っても、実際には数多くの過程の集まりで、全体を頭に入れて考えることが重要だ。まず最初はガン特異的抗原が免疫系に利用できる形でガンから提供される必要がある。この時ガン抗原はガン細胞に直接提示される場合もあり、また樹状細胞により抗原が提示される場合もあるが、後者の場合成熟した樹状細胞がガン組織に集まってくる必要がある。こうして提示された抗原によってT細胞が刺激されるが、ここでアジュバントなどを持ちいると、自然免疫の活性化が起こって、より強い免疫のブーストがかかる。ここで刺激を受けたリンパ球の一部は、次に所属リンパ節に移って記憶細胞として分化し、例えば転移巣など原発とは異なるガン組織にも移動してガンを殺す。今回ノーベル賞に輝いたチェックポイントは、この長い過程の比較的後期に起こってくるリンパ球の疲弊を防ぐ役割を持つ分子だが。しかし、治療標的はこの長い過程のすべての段階に存在する。

今日紹介する論文も昨日と同じで、オランダからの研究でより初期のガン抗原で免疫された時点でのチェックポイントについての研究で12月13日号のCellに掲載された。タイトルは「NKG2A Blockade Potentiates CD8 T Cell Immunity Induced by Cancer Vaccines (NKG2Aの阻害は、ガンワクチンにより誘導されるCD8T細胞の免疫を高める)」だ。同じ号に、他のグループからの同じ方向性の論文が発表されており、結果もだいぶ違うのだが、こちらの方が優れていると思ったので、ライデン大学の論文を紹介することにした。

この研究の発端は、ガンがHLA-Eと呼ばれるマイナー組織適合抗原を発現し、またCD8T細胞が、HLA-Eに結合するNKG2Aを発現しているガン患者さんの予後が悪いという発見だ。全く、PD-1とPD-L1のチェックポイントコンビと同じだ。このもう一つのチェックポイントは、これまでNK細胞のチェックポイントに関わると考えられてきたが、この研究ではガン組織で免疫刺激が起こるときに、CD8キラー細胞を特異的に抑えるための機能が最も重要であることを示している。しかも、NKG2A陽性細胞の殆どがガン組織で育ってきたことを示すCD103を発現し、免疫されたあとまだ時間が経っていない細胞であることもわかった。

そこで、ガンのワクチンの研究に使われるモデルマウスで、ガンを移植してからワクチンによる免疫を行うと、腫瘍組織のCD8T細胞のNKG2A発現が高まり、キラー活性が抑えられることが明らかになった。すなわち、免疫初期に働く重要なチェックポイントであることがわかった。また、ガンの方のHLA-Eは炎症によって誘導されることも明らかになった。

そこで、NKG2Aに対する抗体を用いて 、ワクチンの効果が高まるかを調べると、比較的免疫の後期に作用するPD-1抗体では全く効果がないのに、NKG2A抗体は根治はできないが、ガンの増殖を強く抑えることができることを明らかにしている。

結果は以上だが、今後ガンに対するワクチンの重要性が高まることを考えると、この発見は重要だと思う。NKG2Aについてはすでにヒト化した抗体が利用されているようだし、HLA-Eに対しても抗体療法の治験が始まっているようだ。これらの治験と、今回の発見は無関係に行われているが、安全性などがわかった上で、ガンの免疫が成立する過程で使える抗体として期待できると思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月13日 腫瘍浸潤性T細胞はガンを殺せるのか?(Nature Medicineオンライン版掲載論文)

2018年12月13日
ノーベル賞記念に、ガン免疫論文紹介を続けよう。チェックポイント治療やCAR-T治療が注目される前から、一貫して癌に対するキラーT細胞はガンを完全に治せるという信念のもとに、自己のT細胞によるがん治療を開発してきたのがSteven Rosenbergだろう。特に最近になって、ガンに浸潤しているT細胞(TIL)を増殖させて患者さんに戻すTIL療法の成功例についてトップジャーナルに発表し続けており、このブログでも紹介してきた。しかし、実際に追試してみるとなかなか上手くいかないという話も耳にするので、まだまだ標準医療として認められるまでには至っていない。これが可能になるためには、TILの中に抗原に反応する受容体が発現されているのかモニターする必要がある。

今日紹介するオランダ癌研究所からの論文はまさにこの課題に取り組んだ研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「saiLow and variable tumor reactivity of the intratumoral TCR repertoire in human cancers(ヒト腫瘍浸潤T細胞のT細胞受容体レパートリーは反応性が低く、反応も一定していない)」だ。

これまでTILの研究はまずガン組織に浸潤しているT細胞を増殖させ回収してから、特異性などが調べられていたが、これではバイアスがかかるとして、この研究ではTILを増殖させずに、組織から回収したT細胞を一個づつ別々にTcRを特定、そのTcRをレトロウイルスに組み込んで、もう一度正常細胞に戻し、TcRの主要反応性を調べるという、大変手のかかった実験をしている。

まずメラノーマ患者さんの55個のTILからTcRを分離することに成功し、そのうちの15種類のTcRを正常細胞に発現させて腫瘍に対する反応を調べると、多くは低い活性しかないが、それでも60%のTcRがガンに対して反応することを確認している。すなわち、メラノーマの場合TILは間違いなくガンに反応する。

そこで次に悪性度の高い、チェックポイント治療が効き難い漿液性卵巣癌で同じ実験を行なっている。まず、治療前のガンからTILを分離、37個のTcRを特定するのに成功している。その中の20種類のTcRを正常細胞に導入してがんに対する反応を調べると、今度はたった1種類のTcRしか反応しなかった。すなわち、ほとんどのTILはガンとは無関係ということになる。

そこで、さらにもう一例の卵巣がんで同じ検査を行い、今度は51種類のTcRが分離され、T細胞もPD−1を発現して活性化されているように見えるのに、ガンに対しては全く反応できないことが分かった。すなわち、反応は患者さんによって一定しない。また2例の直腸がんでも同じ検査を行い、1例では何種類かのTcRが反応したがもう一例では全く反応するTcRがなかった。

結果は以上で、実験には手間がかかるが、TILのがんに対する反応性を、TILを増やすことなく特定することができること、そしてタイトルにあるようにTILが必ずしもガンに反応するわけではないことが綺麗に示された。今後、同じ方法が試験管内やアジュバント注入などで活性化したT細胞にも適応できるはずで、免疫のモニタリングという点では大きな進歩だと思う。もちろん、一般臨床に用いられる方法ではないが、TIL療法やチェックポイント治療の実験的研究には、かなりのパワーを発揮してくれるのではないだろうかと、期待している。その結果、免疫治療もより確実になっていく。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月13日:クリスパーによるT細胞活性調節因子のクローニング(12月13日号Cell掲載論文)

2018年12月12日
本庶先生は受賞講演を、ガンの免疫治療は始まったばかりだと述べて締めくくったそうだが、当然の指摘だろう。おそらく、本庶先生もPD-1で話が終わったかのような感がある我が国のガン免疫研究の停滞ぶりを憂いてこんな話をしたのだと思う。何らかの形でガンの免疫に関わる論文は、今やトップジャーナルの少なくとも20%は下らない勢いだし、肥満がチェクポイントに及ぼす影響までNature Medicineに掲載されるほどだ。ともかく、考え付くことはなんでもやられているのが実情で、2番煎じと言われようが全く気にしないフィーバーぶりだ。

そんな一例が、12月13日号のCell に掲載されていたので紹介しよう。カリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文でタイトルは「Genome-wide CRISPR Screens in Primary Human T Cells Reveal Key Regulators of Immune Function (ヒトの一次T細胞を用いた全ゲノムレベルのクリスパースクリーニングにより免疫機能の重要な調節因子が明らかになる。)」だ。

ノーベル賞受賞理由にも詳しく述べられていたが、T細胞活性化には抗原刺激だけでは活性化が不十分で、抗原と同時にco-stimulatory分子によるアクセルを蒸す必要がある。勿論免疫反応は上がりっぱなしでは大変なことになるので、次にCTLA4やPD-1をはじめとする抑制分子により、反応が収束するようにできている。PD-1やCTLA-4はその中でも効果が高いブレーキ役だが、もちろん他にもさまざまな分子が存在している。また、アクセルからブレーキへの転換も、細胞内の転写調節で起こることが予測できる。従って、アクセル局面とブレーキ局面で働く分子を網羅的に同定し、免疫治療の効果をさらに高めようとする試みが行われるのは当然のことだ。

この研究ではこの分子スクリーニングをクリスパーを用いて行なっている。言ってみれば流行りのシステムを2つ組み合わせた研究と言えるかもしれない。もちろん、さまざまな改良を加えている点、ヒトの正常T細胞を用いている点は、はっきりと臨床応用を視野に入れているのがよくわかる。おそらく条件ぎめに時間をかけていると思う。その結果この研究では、Cas9は普通行われる遺伝子導入ではなく、組み換えタンパク質を細胞へ電気ショックで導入している。、ガイドRNAはレトロウイルスベクターを用いて8万種類ぐらい導入している。 これにより、原理的に2万種類の遺伝子がノックアウトされた細胞ができるが、この細胞集団を刺激して増殖する分画と増殖できない分画に分け、それぞれで濃縮された遺伝子ノックアウトを調べている。増殖した細胞に濃縮されるのは、ブレーキ役の分子で、逆に増殖しない細胞で濃縮するのはアクセル役の分子になる。

こうしてリストされた遺伝子の効果を、なんとバーコードを用いたsingle cell profilingで確かめており(もともとレトロウイルスで導入したガイドも検出されるので、確かにクリスパーと相性がいい)、流行りに敏感な研究グループだとわかる。この研究では、ノックアウトすると細胞がより増殖するブレーキ役の遺伝子を重点的に調べ、最終的に4種類の分子を特定している。リストされた遺伝子を改めてノックアウトすると、T細胞の増殖が高まるだけでなく、キラー活性も高まっていることから、これらの分子はT細胞全体の活性化に関わっていることがわかる。

さらに、別のスクリーニングを行い、T細胞の活性を抑制するシグナルに対抗する分子のスクリーニングにも利用できることまで示しているが、今の所ではこれらの分子が臨床に使える標的としてどう発展するのかははっきり示せていない。個人的には、結局それほど内容のない研究で終わっているように感じたが、それでもCellは論文を掲載しており、現在のガン免疫研究の過熱ぶりがよくわかる。このように、我が国の静けさをよそにがん免疫治療のフィーバーは当分治りそうもない。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月11日 神経芽腫の予後を決める分子マーカーの根本的見直し(12月7日号Science掲載論文)

2018年12月11日
神経芽腫は小児の悪性固形腫瘍の中では最も多いガンだが、病気の経過がきわめて多様で、転移まで見られるのに自然に消えてしまう症例から、ほとんどの治療に反応せず命を失うケースまで多様だ。1980年代には早期診断が重要と、ガン由来の尿中排泄化学物質をマーカーとして子供の集団検診が行われ、たしかに発見率は上昇したが、治癒率はほとんど変わらないという結果を受けて、現在は集団検診は中止されている。すなわち、早く発見できても、発見された時には将来の経過が決まっていることを示唆している。、従って現在最も重要なのは、臨床経過の予想を適切に行うことで、これにより自然治癒する患者さんに意味のない化学療法を行うことを避け、一方本当に必要な患者さんにはできるだけ早く必要な治療を行うことができる。

この分子マーカーとしてこれまで最も利用されてきたのhが、MycN遺伝子の増幅だが、増幅があっても必ずしも悪性とは限らないことがわかっていた。その後ゲノム解析が進むと、臨床経過を予測する分子マーカーとしてALKやRas, p53などが挙がってきているが、臨床経過を完全に予測することはこれまでできていなかった。

今日紹介するドイツ・ケルン大学からの論文は200例を越す治療前の神経芽腫患者さんのゲノム解析を行い、臨床経過を予測するための分子マーカーを発見しようとした研究で、これまでの研究とは大差ないが、予後を決めるのがテロメアを維持するテロメラーゼ活性が高いかどうかで決まることを示した研究だ。論文のタイトルは「A mechanistic classification of clinical phenotypes in neuroblastoma (神経芽腫の臨床経過をメカニズムに基づいて分類する)」で、12月7日号のScienceに掲載された。

神経芽腫のゲノム解析としては特に変わったことをしているわけではないが、予後に関わる遺伝子変異の組み合わせを観察する中で、ガンの臨床経過を決めるのは、これらの変異があるかないかではなく、これらの変異によってテロメアの長さを維持する分子の発現が誘導されるかどうかだと着想する。この着想の背景には、2015年10月にこのブログで紹介した(http://aasj.jp/news/watch/4231)、ハイリスクの神経芽腫の患者さんではテロメラーゼのゲノム遺伝子の再構成が見られるという同じグループの先行研究があり、その後もテロメアの維持と様々な遺伝子変異の関係を調べてきたのだと思う。そして、テロメアの維持に関わるゲノム遺伝子の変化だけではなく、その発現についても調べて、MycNなどこれまで危険因子としてリストされてきた遺伝子変異は、なんらかの形でテロメアの維持に収束することで予後に関わることを明らかにしている。

そこで神経芽腫の臨床経過を先ずテロメアの維持に直接関わるテロメラーゼやALTの活性化と相関させてみると、悪性の経過を取る神経芽腫はほぼ全てテロメアが維持されている一方、テロメアが維持できないガンでは経過は良好でほとんど死亡する患者さんがいないことを見出す。また、これまで臨床経過と関わるとされてきたRas やp53は、テロメアが維持されているグループでは、より悪性度の指標になるが、テロメアが維持できないガンでは、Ras/p53変異はほとんど経過に影響ないことも示している。

以上の結果から、神経芽腫の臨床経過に影響する遺伝子変異は多様なので、明確な分類には使いにくいこと、しかし、最初にテロメラーゼやALTの活性化などを調べてテロメアが維持できるかどうかを比べることで、臨床経過をほぼ確実に予測できる。その上で、さらなる修飾因子としてRasやp53の変異を付け加えることで、テロメアを維持している神経芽腫の悪性度をさらに詳しく分類できるという結果だ。

テロメアはガンにとって最も重要な因子の一つなので、どうしてこんなことがこれまで行われなかったのか不思議だが、ぜひわが国の子供でも、遺伝子検査とともにテロメア維持について調べ、こ分類が正しいかどうか確かめてほしいと思う。もしこの論文の通りなら、かなり確実で簡単な予後診断ができることになり、無駄な治療をさけ、治療の必要な場合は、迅速に行うことができるようになると期待できる。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月10日:メトトレキセートの厄介な副作用(1月10日号発行予定Cell掲載論文

2018年12月10日
メトトレキサートは私が医師として働いていた時から利用されていた葉酸拮抗剤で、主に白血病、リンパ腫などの血液のガンに使われるが、リュウマチにも使われる薬剤だ。抗ガン剤だけに、もちろん様々な副作用が知られており、最も恐ろしいのは間質性肺炎だとされてきている。

今日紹介するスタンフォード大学からの論文は、小児のガン治療にしばしば使われるメトトレキサートに、脳内のオリゴデンドロサイトの増殖を抑える働きがあり、その結果投与をやめた後も何年もに渡ってミエリンの形成が抑制され、その結果様々な脳症状の原因になることを示した重要な研究で1月10日発行予定のCellに掲載された。少し先の発行で、紹介が早すぎるとも思ったが、重要な論文なので是非紹介することにした。タイトルは「Methotrexate Chemotherapy Induces Persistent Tri-glial Dysregulation that Underlies Chemotherapy-Related Cognitive Impairment (メトトレキサートの化学療法は3種類のグリア細胞の持続的な異常を誘導し、化学療法が原因の認知障害の原因になる)」だ。

小児の腫瘍は、大人と比べると化学療法で治療できる確率が格段に高い。ただ治療によってガンが撲滅されても、脳になんらかの異常を示す患者さんが多いことが知られていた。しかし、放射線療法でも脳機能の異常がみられることから、細胞増殖が抑制された結果として、メカニズムを詳しく調べる研究は少なく、ましてや副作用を軽減するための方策についての研究は皆無と言ってもよかった。

この研究では、3歳の時メトトレキサートの大量療法を受けた子供がその後他の原因で亡くなった際の剖検時、メトトレキサートの脳への長期的効果を調べている。驚くことに、神経繊維が走っている白質特異的にオリゴデンドロサイトの数が激減していることが明らかになる。一方、神経細胞が集まっている灰白質ではほとんど差が無い。

そこで、マウスモデルを用いてメトトレキサートがオリゴデンドロサイトの増殖の異常を誘導するメカニズムを調べ、1週間ごと3回の注射で1ヶ月以上持続するオリゴデンドロサイトのリクルートが低下し、これが未熟幹細胞の増殖阻害、幹細胞からの分化誘導の亢進と、そして最終段階の成熟過程の抑制が複合して起こることを明らかにする。その結果、脳神経のミエリン化が阻害され、マウスは運動障害や不安症などを示すようになる。

この原因がオリゴデンドロサイト自体の問題か、脳内の環境の問題か調べるために、幹細胞の移植実験を行い、メトトレキサートにより脳内の環境が長期に異常になり、それがメトトレキサートにより活性化されたミクログリアのせいで起こることを明らかにする。

その上で、ミクログリアの増殖を抑えるc-fmsに対する阻害剤PLX5622を投与してメトトレキサートを投与した後服用させたマウスを用いて調べ、完全ではないにせよ、ミエリン化が正常化し、マウスの症状も改善することを示している。

以上が結果で、極めてオーソドックスな研究で、私が現役の時代から十分テクニカルに可能だったのにもかかわらず、今ようやく詳しい研究が行われたのに驚いた。この研究の重要性は、副作用を指摘するだけでなく、メカニズム解析を通して対処方法を示した点で、患者さんにも利用できるだろう。癌治療の副作用と諦めず、ぜひ効果を確かめてほしい。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月9日:免疫治療に使えるガン抗原の多くは、コーディング領域の突然変異ではなく、ノンコーディング領域の異常転写による(12月6日号Science Translational Medicine掲載論文)

2018年12月9日
今週は本庶先生のノーベル賞授賞式だが、チェックポイント治療の将来にとって最も重要なのは、ガンに対する免疫の力を誘導するためのガン抗原の特定だろう。チェックポイント治療は一部の人にしか効果がないと問題点を指摘する人もいるが、ガン免疫に使える抗原がはっきりすれば、この問題は解決する。また、個人的には、ガン免疫が突然変異したタンパク質を標的にしているのだとすると、チェックポイント治療は想像以上に効いている印象がある。実際、突然変異の多いメラノーマで抗原を探しても、2万個の変異があっても数個の抗原が見つかる程度だ。したがって、さらに徹底的なガンだけに発現してがん抗原になりうるペプチドを探索する方法の開発が必要になる。

今日紹介するモントリオール大学からの論文はまさにこの課題にチャレンジした論文で12月6日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Noncoding regions are the main source of targetable tumor-specific antigens(利用可能な腫瘍特異的抗原の主要な起源はノンコーディング領域)」だ。

おそらく著者らは、これまでのガン抗原探索がノンコーディング領域が異常な蛋白質を作りうる点を無視していたと最初から考えていたと思う。そして、もしこれらのタンパク質もガン抗原としてリストできれば、チェックポイント治療がこれほど効果を持つことも理解できるのではと考え、ガン抗原をより包括的に探すための新しい方法を開発し、それを検証している。

新しい方法では、ゲノムより先に、発現している遺伝子の中から、ガンでだけ見られる異常タンパク質があるかを調べるところから始めている。この時、正常と異常を区別するレファレンスとして、T細胞の最初の選択に関わる胸腺上皮の発現している遺伝子を用いたのがこの研究の重要な工夫だ。胸腺上皮で発現しているタンパク質を除いた後、がん細胞で発現の高いタンパク質については、ゲノム遺伝子と対応させたうえで、最後はガン細胞のMHCに結合しているペプチドと比較して、実際に抗原として機能できるペプチドを探索している。

この方法で、先ずモデルがん細胞でガン抗原としてがんを拒絶できるペプチドを同定し、それをゲノムと比べると、効果が高い抗原のほとんどがノンコーディング由来である事を発見する。

最後に同じ方法で、バイオプシーサンプルからペプチドを同定する試みを行い、やはりノンコーディング領域由来のガン抗原を発見することに成功している。残念ながら、このペプチドで免疫した結果はまた別の話として示されるのだろうが、2ヶ月あれば突然変異が少ないガンからも候補となるペプチドが見つかるとすると、この分野も着実に進んでいるように思える。特に、ノンコーディング領域の異常転写が抗原を供給しているとすると、ひょっとしたら複数の人にも効果があるワクチンが開発できる可能性すらある。一方、MHC抗原に結合しているペプチドと比べる最後のステップは、まだまだ日常に使うためには敷居は高いが、AIなどでなんとか抗原性を予測する方法の開発へ結びついて欲しいと思う。

ガン免疫は着実に進歩しているのに、この分野でわが国のプレゼンスは極めて低いと思う。この原因は基礎研究だけではなく、わが国の臨床研究の問題でもあるように思う。この原因をしっかり分析し、新しい人材が育たないと、ノーベル賞の後に何も残っていなかったことになってしまう。時間はないと思う。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月8日ブタからサルへの異種心臓移植が可能になった(Nature オンライン版掲載論文)

2018年12月8日
豚の心臓を心不全の人に利用しようという試みは現在まで諦めずに長期間続けられてきた。もちろんそのままでは拒絶されるだけなので、拒絶がおこならないように遺伝子が改変された豚が作成されている。さらにハーバード大学のグループは、ブタ内因性レトロウイルスのヒトへの感染を防ぐ目的で、ゲノムから全てのレトロウイルスを取り除くという離れ業まで行っている。従って、耳にする情報から、ブタの心臓を用いる移植についても、米国が圧倒的にリードしているのではないかと思っていた。

ところが今日紹介する論文では、なんとミュンヘン大学のグループが、galactosyltransferase をノックアウトし、CD46とThrombomodulin遺伝子を導入した豚心臓を猿に移植し、なんと3年近く945日間も生かすのに成功したという論文がNatureオンライン版に掲載された。タイトルは「Consistent success in life-supporting porcine cardiac xenotransplantation(生命を維持できるブタ心臓移植の着実な成功)」だ。

この研究で使われた豚は、異種移植の最大のバリアーとして立ちはだかる糖鎖抗原をgalactosetransferaseのノックアウトで除去し、ヒトCD46により補体活性を抑制するとともに、ヒトthrombomodulinを発現させて凝固を抑えた、基本的には急性期を乗り越えることを最大の目標に作られた豚で、慢性のいわゆる移植片拒絶は抑制されているわけではない。おそらく他のグループが開発している豚も似たり寄ったりだろう。従って、勝負は移植を行った時に発生する様々な問題に対処していく経験的対処が必要になる。この研究でも、同種心臓移植などこれまでの経験から慢性の拒絶反応は十分制御できると考えられ、ドナーについてはこれ以上の改変を加えず、あとは実地にサルを用いた移植手術を行いながら、生存を伸ばすための条件をトライアンドエラーを繰り返して決める手法がとられている。従って全ての移植では、まず徹底した免疫抑制の下で移植が行われている。

まず一般的に同種移植で用いられる臓器保存液に浸したあと移植する、人間で用いられているのと同じ方法でサルに移植すると、移植後1、3、30日にそれぞれレシピエントが死んでしまった。この最大の問題が、手術直後の心臓機能不全にあると診断し、次の段階心臓を切り出した後血液を還流させる方法で移植まで臓器を保護する保存方法で維持された心臓を移植している。この結果レシピエントの生存は少し改善し、18、27、40日間生存した。もちろん実用に移れる結果ではないので、異常の原因を調べると、心臓の拡張能力が失われることがわかった。わかりやすい言葉で言ってしまうと、固くなっている。また、その結果の心臓細胞障害も起こっており、微小血管障害が進み、肝臓の臓器障害が起こっていることが分かった。

そこで初期からコルチゾンを中止し、拡張期血圧が80以下になるように(サルでは一般的に120程度)になるよう維持し、その上で心筋の増殖を抑制するためのmTOR阻害剤temsirolimusを加えて経過を調べた。50日目にリンパ浮腫を起こした一匹を除くと、心臓は無事に生着するようになった。組織検査のため、3ヶ月目に2匹を安楽死させ、組織変化を調べると、ほとんど正常で、心筋のmTORの活性も低いことが確認できたので、約5−6ヶ月目にtemsirolimus投与も中止、経過を見ている。そのうち1例は拡張期の機能不全の兆候を示したので剖検を行い、微小血管障害による心臓細胞の障害と、肝臓のうっ血による障害を見ているが、他のサルは特に異常を示さず、最後の一匹は945日を超えて生存しているという結果だ。 この研究の勝利は、猿と豚の循環動態の違いを埋める臨床的方法として、血圧を下げるだけでなく、mTOR阻害剤を使うことに思い当たった点で、遺伝子操作が最小限に抑えられた心臓でも、医学的な経験を重ねれば、3年は正常に機能する事を示された。この分野はあまりフォローしていなかったが、異種臓器を移植に使うという点では、画期的な論文だとおもう。本庶先生の免疫治療もそうだが、20世紀後半に撒かれたタネが、また一つ収穫期に入ってきた感を持った。
カテゴリ:論文ウォッチ

12月7日 診断できない病気を診断するための研究(11月29日号The New England Journal of Medicine掲載論文)

2018年12月7日
医療の最初のステップは診断することで、これにより病気をカテゴリー化してそれに合わせた治療を行う。私自身の短い臨床経験でも、ほとんどのケースで診断がついた。しかし、診断がつかない病気は現在も多く残っているはずで、適当な診断が付けられて治療が行われるか、あるいは診断がつかないため、確定診断を求めて病院を転々とすることになる。

米国では、このような診断がつかない患者さんを、医療界が一丸となって診断しようとするためのUndiagnosed Disease Network(診断できない病気ネットワーク)がNIHの助成を受けて2014年に組織化され、2015年までの1年間に1519人の患者さんがリクルートされ、そのうちインフォームドコンセントが取れた患者さん601例で徹底的に診断する試みが、全米の施設が参加して行われた。今日紹介するのはこの成果の報告で11月29日号のThe New England Journal of Medicineに掲載された。タイトルは「Effect of Genetic Diagnosis on Patients with Previously Undiagnosed Disease (これまで診断がつかなかった患者さんの遺伝子診断の効果)だ。

タイトルでは遺伝子診断の効果となっているが、このネットワークは徹底しており、もちろんんゲノム解読に基づく遺伝子診断施設は言うに及ばず、血液や尿の代謝物を調べるメタボローム施設、専門家の会議、そして発見された新しい遺伝子の機能を調べるショウジョウバエやゼブラフィッシュの施設までが集まっている。

結果は次のようにまとめられるだろう。
1) 診断の難しい患者さんの半数以上は小児で、また4割が神経症状、1割が筋肉や骨の関わる整形外科領域。
2) このネットワークに登録する前に、すでに3割の患者さんがエクソーム解析を行っており、米国での遺伝子診断の普及度を示しているが、同時に一施設だけではゲノム配列から正確に診断することが難しい場合も多くあることを示している。
3) これだけ徹底しても、解析が終わった382例のうち132例(35%)しか診断がついていない。
4) そのうち、タイトルにもあるように遺伝子診断で診断がついた例は74%もあり、遺伝子解析の重要性を物語っている。42%はエクソーム解析で、24%は全ゲノム解析で診断がついている。全ゲノムを行った中の半数はエクソームだけでは診断がついていない。
5) とはいえ、専門家が集まり議論することで2割程度は遺伝子に頼らず診断ができる。
6) 16例の全く新しい病気を発見することができ、そのうち15例はこれまで知られていない遺伝子の変異による病気だった。
7) ショウジョウバエを用いて遺伝子機能を調べることで発見できた新しい遺伝病もあった。
8) 診断には平均で200万円近くの費用がかかっているが、診断を求めて転院を繰り返したり、間違った治療を受けるコストから考えると、全体の医療費は下げられるという試算を提出している。

以上が結果のまとめで、新しい病気については詳しく述べられているので、興味があれば論文を読んで欲しい。

個人的印象としては、米国の医療界が診断をつけられない病気があるということに真剣に向き合っていることがよくわかったのと、遺伝子検査の力を改めて思い知った。いずれにせよ、我が国の取り組みは10年遅れているのではないだろうか。
カテゴリ:論文ウォッチ
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