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7月9日 標的を分解する分子糊適用の範囲を広げる(7月3日 Science 掲載論文)

2025年7月9日
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サリドマイドの副作用が、セレブロンと呼ばれるE3ユビキチンリガーゼがサリドマイドにより Fgf8 にリクルートされ、その結果 Fgf8 が分解する結果である事を示したのは、当時の東京工業大学の半田さんたちが Science に発表した論文で、セレブロンを他の分子にリクルートして病気を治療する分子糊研究の始まりと言える画期的論文だ。その後、レナリドミドが IKZFとセブロンを糊付けして分解する治療は骨髄腫の特効薬となった。このように、転写因子などこれまで薬剤開発が難しいとされていた分子をタンパク分解できる方法は、多くの製薬会社の重要なテーマとして研究が続いている。

今日紹介する Monte Rosa Therapeutics 社からの論文は、セブロンをリクルートできる治療標的のレパートリーを拡大するための研究で7月3日号の Science に掲載された。タイトルは「Mining the CRBN target space redefines rules for molecular glueinduced neosubstrate recognition(分子糊に媒介され新しい基質をセレブロンが認識するルールを再定義して標的分子を拡大する)だ。

セレブロンが働くためには両方に結合できる化合物があればいいという単純な話ではなく、標的分子とセレブロンがリガンドを介して直接結合する必要がある。これまでの研究で、標的分子に存在する β-hairpin G-loop 構造がセレブロンと標的分子の接触に直接関わり、セレブロンによる分解に必須であることが明らかになっている。この研究では、β-hairpin G-loop に似た構造を持つ分子をコンピューターで探索することからはじめ、1500近い分子がこの構造を持つことを明らかにしている。そして、いくつかの分子糊化合物を用いて今回リストされた分子の多くが、セレブロンへの結合という点では標的分子の条件を満たすことを確認している。

さらに、コンピュータ上での比較条件を少し緩くして、β-hairpin G-loop に近い構造を持っている分子を探索すると、helidal-G-loop 構造を持っ分子もセレブロンの標的になり得ることを示すとともに、重要な標的と考えられる LCK や Lynt といったチロシンキナーゼについては分子糊を用いてセレブロンとの結合を確認している。

ただ、今回拡大された標的がセレブロンに結合したあと分解されるかについて調べていくと、セレブロンと接触できても分解されないことがわかる。すなわち、セレブロンと標的分子の表面上での接触に必要な条件が明らかにされている。

このように、G-loop は接触のための導入で、最終的に分子表面の条件が必要になるとすると、分解される標的とセレブロンとの接触面を指標として加えることで分解可能なセレブロンの標的を探索することができる。そこで、分解される分子表面に似た構造を持つ標的を特定するアルゴリズムを開発し、標的としてリストされる候補の中から、Rho 分子の一つで標的として魅力がある VAV1 を選び、セブロンとの接触、それに続く分解誘導が今回利用した化合物の一つで起こることを確認している。

以上が結果で、より特異的な化合物を設計することは必要になるが、セレブロンと標的分子の糊付けに必要な条件をまずコンピュータで確認できるようになったことは重要で、今後こさらに多くの標的が治療の対象になると思う。

このように、化合物探索だけでなく、コンピュータ上での薬剤探索に長けた創薬ベンチャーが生まれているのもボストンならではだ。外野から見ていると、ボストンは間違いなく様々な研究が渦巻くホットスポットだが、将来への投資が嫌いなトランプには逆にこの高い活性が邪魔なのかもしれない。

カテゴリ:論文ウォッチ
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