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7月14日 栄養分に対する小腸の反応を見る(7月9日 Nature オンライン掲載論文)

2025年7月14日
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腸管では固形物によるメカニカルシグナルだけでなく、栄養分を感知して腸の動きが調節され、場合によっては腸脳相関を介して食欲などを調節するという話は何度も聞く。しかし、栄養分を感知するとすると、味覚やフェロモンのような水溶性の化合物を感知する仕組みが必要になるが、よくわかっていない。おそらく研究者も多くはいないと思う。

今日紹介するベルギー・ルーベンカソリック大学からの論文は、空腸で栄養成分が感知されるメカニズムを解析した研究で、7月9日 Nature にオンライン掲載された。タイトルは「Nutrients activate distinct patterns of small intestinal enteric neurons(栄養成分は異なる小腸の腸管神経の興奮パターンを誘導する)」だ。

この研究は体外に取り出した空腸の一個の絨毛を対象として、組織学的、生理学的に研究している。まず、一個の絨毛に浸透性の蛍光色素をミクロピペットで塗り、ラベルされる神経を特定、粘膜下神経叢 (SMP)と筋層間神経叢 (MP) から神経端末が来ていることを明らかにする。

次に神経活動を蛍光で追求できるカルシウムイメージング法を用いて、絨毛の先に神経興奮を誘導するカリウムを添加、この神経結合が機能的である事を確かめたあと、グルコース、酢酸、フェニルアラニンを一個の絨毛に添加し続け、そのときの SMP、MP の興奮を調べると、SMP ではコリン作動性神経が、MP では NOS + 神経やカルビンディン陽性神経が興奮すること、それぞれの刺激に対して10-20%程度の神経が反応することを確認する。即ち、様々な栄養成分が直接絨毛に働いて、神経活動を誘導している。

面白いのは、ミクロピペットを上皮層の下に突き刺し直接栄養分を神経端末に添加しても反応しない点で、栄養分に直接反応しているのは上皮細胞であることがわかる。実際上皮のカルシウムイメージングで刺激に対する反応を見ると、絨毛には先に挙げた栄養成分に直接反応して興奮する能力がある。そしてそれぞれの栄養成分に反応する細胞は別々に絨毛上に存在している。そしてブドウ糖に対する反応は SGLT1トランスポーターがセンサーの役割を演じていることを明らかにしている。即ち、鼻や舌の感覚細胞のような特殊な細胞の代わりに、普通の腸上皮細胞が間隔受容体の役割を演じていることがわかる。

ではこの反応がどのように神経に伝えられるのかを探索し、セロトニンと、ATP が上皮から神経への伝達分子として働いていることを明らかにしている。気になるのは、これら伝達因子は細菌叢でも合成されるので、食事だけでなく腸内での様々な化学的変化を感知している可能性がある。

この様式のおかげで、SMP、MP の神経端末は上皮から刺激を受け取り、またそれぞれにシナプスを介して相互作用しているが、ブドウ糖と酢酸の刺激を比べると、ブドウ糖では SMP を介する経路、酢酸では MP を介して SMP に伝わる回路を通って感知される複雑な回路が示された。

最後に、生きたマウスの空腸で栄養分を腸内に注入したときの MP の反応をしらべ、それぞれの成分に応じて異なる腸管神経が反応していることを確かめている。

以上が結果で、腸でも独自のシステムで化学物質が感知されている神経回路がよくわかった。しかし、私たちは無数の絨毛を持っていることを考えると、例えばグルコースを摂取したときの神経全体のインパクトも含めて腸の栄養分感知と反応を考えていく必要がある。

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