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7月25日 幻覚剤シロシビンには抗老化作用がある(7月8日 npj-Ageing オンライン掲載論文)

2025年7月25日
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現在移動中なので軽めで少し風変わりな現象を扱った2編の論文を短く紹介することにする。

このブログでも幻覚剤シロシビンを一回投与して幻覚を誘導するとうつ病の症状が一定期間消失するという論文を紹介した。この効果は全てシロシビンが持つセロトニンを介する神経作用によると思っていたが、シロシビンがテロメアの短縮を防ぐことがこの効果の背景にあるのではと言う途方もない可能性が提案されているようだ。

この研究はこれを確かめるため、細胞レベルや個体レベルでシロシビンを投与し、驚くなかれ細胞老化を押さえ、マウスの寿命まで延長できることを示した研究で、7月8日 npj-Ageing にオンライン掲載された。タイトルは「Psilocybin treatment extends cellular lifespan and improves survival of aged mice(シロシビンは細胞の寿命を延長するだけでなく老化マウスの生存期間を延長する)」だ。

まず胎児肺から調整した線維芽細胞の継代培養を続ける細胞老化を誘導する実験で、シロシビンを培地に加えて様々な老化指標を調べる極めて単純な実験だ。シロシビンを加えた培養では増殖が続き老化が抑えられる。また定番の β-gal 染色で老化した細胞を調べると、陽性細胞数は半分にまで低下している。

メカニズムについては詳しくは解析していないが、老化を抑える転写因子の代表 Sirtuin1 の発現が上昇し、活性酸素の産生が低下し、期待通りテロメアの短縮が強く抑えられている。

そして20月齢のマウスに月一回づつ15mg/Kgのシロシビンを投与し続け、生存曲線を調べている。この量がどの程度か正確に判断できないが、投与後のマウスの状態から脳症状が発生しているのがわかる。いずれにせよ驚くべき結果で、コントロールのマウスは28ヶ月で50%が死んだのに対し、シロシビン投与群では80%以上が生きているという結果だ。メカニズムがわかれば、幻覚とは切り離した薬剤も可能かもしれない。

もう一編の論文はさらに不思議な論文で、訓練された犬はパーキンソン病 (PD) 患者さんを匂いで嗅ぎ分けるという報告で、7月14日 Journal of Parkinsons Disease にオンライン掲載された。タイトルは「Trained dogs can detect the odor of Parkinson’s disease(訓練された犬はパーキンソン病の匂いを嗅ぎ分ける)」だ。

PD患者さん及び正常人の皮膚のスワブを集め、これで10匹の犬を訓練し、高い能力を持つ2匹に新しいサンプルを嗅がせて診断率をテストしている。結果は2匹とも、80%近い感受性と、90%を超す特異性でPDを嗅ぎ分けた。確かに面白いが、診断という点ではよほど早期診断が可能でない限り、今後も犬に頼ることはないと思う。

いずれも再現がとれれば、メカニズムを探求するのに値する現象だと思う。

カテゴリ:論文ウォッチ
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