2018年5月27日
昨日に続いて、自閉症スペクトラム(ASD)についての論文を紹介するが、今日は瞳孔反射という極めてシンプルな検査法で、ASD発症リスクを早期に発見できるという、ある意味では意表をつく論文だ。
目は口ほどに物を言うと言うように、瞳孔を観察することで、対象が興味を持っているかどうか調べることができる。言葉でのコミュニケーションが取れない場合に、瞳孔の大きさを興味を示しているかどうかの科学的指標として使っている研究もある。当然、外界への注意に問題があるASDを瞳孔から調べることは以前から行われ、ASDの児童や成人では瞳孔反射が遅くなっていることが報告されている。
今日紹介する論文を発表したウプサラ大学のグループも同じようにASDリスクと瞳孔反射の関係に興味を持ち研究を続ける中で。家族歴からASDのリスクが高いと推定される10ヶ月令の乳児が、児童や成人とは逆に、瞳孔反射が早いことを見出し、2015年に発表している。しかしこの論文では、ASDリスクが高いというだけで、ASDとは無関係の可能性もある。そこで、瞳孔反射が亢進していた乳児から実際ASDが発症するかを追跡したのがこの論文だ。タイトルは「Enhanced pupillary light reflex in infancy is associated with autism diagnosis in toddlerhood (乳児期の瞳孔反射の亢進は幼児期の自閉症診断と相関する)」だ。
自然の状態で乳児の瞳孔反射を調べるのは簡単ではないが、この研究ではトビー社の視線追跡装置を用いて、自然状態で反射を繰り返し測定し、データを取っている。最初の論文では、先に生まれた兄弟にASDがいる場合をハイリスク群、全く家族歴がない群を通常群として瞳孔反射を測定し、ハイリスク群で反応が早いことを報告しているが、この研究では同じ対象をASDの発症を判断できる3歳児になるまで追跡して、瞳孔反射とASDの発症とが相関するか調べている。
昨日述べたように、兄弟でのASD発祥一致率は高く、追跡できた147人のハイリスク群の中から3歳時で29人(20%)のASDが発症している。一方通常リスク群40人からはASDの発症はなかった。
この研究ではこの追跡結果に基づき、乳児期の瞳孔反射の結果を、ASDを発症した乳児、ハイリスクでも発症しなかった乳児、通常リスクの乳児の3群に分けてプロットし直し、瞳孔反射とASD発症の相関を調べている。結果は極めてシンプルで、ASDを発症した乳児は、ASDを発症しなかったハイリスク群の乳児と比べても瞳孔反射速度が高まっており、通常児と比べるとその差はもっとはっきりし、平均で20%ぐらい上昇する。次に、2種類のASD診断指標を用いて、症状の強さと乳児期の瞳孔反射の相関を調べると、はっきりと相関が見られる。そして、瞳孔反射の年齢による変化はASD発祥群で最も大きい。
もちろん他の臨床検査と同じで、通常児とASDの間でオーバーラップは大きく、傾向は見られても、これだけで診断するとなると、かなりな異常値を示す乳児に限られる。おそらく、個人間の差の原因を取り除いた検査の開発が必要だろう。とはいえ、乳児期のこのような単純な反応がASD発症が関わるという発見は、現在進むMRIなどの脳構造研究と相関させることができると、ASDのメカニズム理解や診断に大きく貢献する予感がする。期待したい。
2018年5月26日
今日、明日と自閉症についての総説や論文を紹介したい。最初はJAMA Psychiatryに掲載された総説で、自閉症研究の現状をコンパクトにまとめている。コロンビア大学、NY自閉症研究センター、やエール大学の専門家が書いている。タイトルは「The emerging clinical neuroscience of autism spectrum disorder (新しく現れてきた自閉症スペクトラムの臨床神経科学)」だ。
現役を退いてすでに5年を超えたが、分野を問わず論文を読んでいて実感するのが、自閉症スペクトラム(ASD)についての研究の進展だ。私が門外漢であるためより興味を惹かれることもあるが、多くのテクノロジーが集められて研究が進んでいるアクティブな領域であることは間違いない。ただ、実際の治療に携わる医師や心理士、教育者は、なかなか最新の研究をフォローするだけの余裕がないと思う。そんな人たちにわかりやすく最近の研究を紹介したのがこの総説だ。もちろん、一般の研究者にとっても、神経科学からASDの輪郭を掴む目的には良い総説だと思う。
ASDは症状も、原因も極めて多様な病気で、その数も米国では1−2%と驚くべき数に達している。重要なのは多様性にもかかわらずASDとしてまとめられる症状を共有していることだ。。しかし、このことは、ASDと診断して満足してしまうと、多様性を見失い治療の可能性を失う事すらありうることを意味する。この総説では冒頭に16p11.2欠失症候群とASDの併発している症例を例にあげ、生物学的原因を丹念に調べれば、この遺伝的変化に認可されているリスペリドンやアリピラゾールによる治療も可能であることを強調し、ASDの生物学についての知識の重要性を説いている。その上で、1)遺伝要因、2)環境要因、3)脳イメージ、4)疾患モデルについてまとめている。
1) 遺伝要因
一卵性双生児で発症の一致率が50−80%、兄弟では25%という数字は、ASDが多様であっても特定の遺伝子の組み合わせを反映した状態であることがわかる。このことから、遺伝的変異をゲノム全体について特定できる新しいゲノムテクノロジー(マイクロアレー、エクソーム解析、全ゲノム解析)に大きな期待が集まり、多くの研究が行われた。
この結果、多くの神経機能に直接関わる分子や、その分子の発現に関わる分子の変異(点突然変異、欠失、重複)などがASDの発症に関わることがわかった。ただ問題は、200近い大きな領域にわたる遺伝子変異、一塩基レベルの変異に至っては何百もの変異がASDと相関することがわかり、単純な分子レベルの因果性を想定することができない点だ。すなわち、発症メカニズムも極めて多様だ。
このようにASDを、遺伝性が高いが、分子メカニズムが多様である状態として理解すると、ゲノム検査の重要性は明らかで、これによって初めてそれぞれのゲノムに応じた治療が可能になる。てんかんや知能の低下がある場合はいうに及ばす、ASDの疑いがある場合はほぼ全員にゲノム検査が行われることが必要になる。
2) 環境要因
一卵性双生児の場合でも発症が一致しないことは、生前生後の環境要因も無視できないことを示している。この隙間に、「はしかワクチンが自閉症を誘発する」というWakefieldの世紀の大捏造が生まれたわけだが、例えば早産でASDのリスクが高まることは脳発生に影響を及ぼすあらゆる外的要因がASDの誘因になることを意味している。事実、科学的な疫学調査で、早産、低酸素、虚血、母親の肥満、糖尿など内的要因がASDリスクを高めることが証明されている。外的要因のリストも膨大になっている。ただ明らかに神経細胞の発達に影響する薬剤を除くと、内因性の要因と比べて因果性の特定が難しく、今後iPS由来の神経細胞などを用いた研究で因果性を調べることが必要になる。
3) 脳のイメージング
MRIによる脳領域間の結合の検査を始め、脳イメージングのテクノロジーは急速に発展し、これまで測定が難しかった幼児でも検査が可能になっている。この結果、脳内の変化の多くが生まれる前発達期に起こっていることがわかってきた。このおかげで、場合によっては6ヶ月という速さで診断する可能性も生まれている。
イメージングで明らかになった最も重要な発見は、ASDの子供は生後6ヶ月から12ヶ月にかけて脳皮質が拡大することで、シナプスの剪定の低下などが議論されているが、今後の研究が待たれる。同じように、2−4歳までの発達期でも、扁桃体をはじめ社会性に関わる様々な領域が拡大するとともに、各領域の結合性は逆に低下する場合が多い。一方、皮質下の神経結合は高まっているという報告があり、局所的回路が高まる一方、広い領域の結合性が低下するのがASDの特徴ではないかと考えられている。ただ、この検査でASDを明確に診断できるかというと、脳の構造の多様性は大きく、イメージングだけで診断するのはまだ難しいことも理解する必要があるだろう。
4) 疾患モデル。
コンピュータで再構成するインシリコのバーチャルモデルから試験管内まで、様々な疾患モデルが開発されてきた。特に遺伝的要因によるASDモデル動物は、脆弱性X、Rett症候群、MECP2重複症など多くが作成され、研究に用いられている。最近では、MECP2欠損のサルのモデルの開発も可能になっている。従ってASDを多様な症状の集まりとして考える場合、それぞれの症状に対応する動物モデルは今後も役に立つと思われる。特に、薬剤や遺伝子治療の可能性を試すときには動物モデルは必須で、動物の脳は人の脳とは異なると片付けるのは問題がある。
もう一つ重要な領域は、インフォーマティックスで、膨大な遺伝子データと、症状や、イメージング、さらにはiPS由来の神経細胞反応性などを統合した人工知能を開発すべく、研究が加速している。
以上が内容だが、この総説のメッセージは、Kannerが自閉症を定義した時代には考えられなかった、ASDの生物学が急速に進んでいることに尽きる。ここに書かれていることは、私のブログでも数多く紹介してきたが、本当によくまとまっているので、この分野に関わる方にぜひ読んでほしい総説だと思う。
2018年5月25日
人間でも細菌でも、集団として一つの社会を形成している時、社会全体を見ることも重要だが、個別の単位をサンプリングして調べることなしに、全体を理解することはできない。このことは、腸内細菌叢の研究の歴史を見ているとよくわかる。それぞれの時代でどちらかにより重点が置かれるが、必ず揺り返しが来る。何度も述べているが、細菌叢の研究で今トレンドになっているのは、個別の細菌とホストの関係を徹底的に調べる方向性だ。
今日紹介するカリフォルニア工科大学からの論文は腸内細菌叢に常在する一部の細菌は腸内に棲みつくためにホストの免疫反応を利用していることを示す研究で5月18日号のScienceに掲載された。タイトルは「Gut microbiota utilize immunoglobulin A for mucosal colonization(腸内細菌は免疫グロブリンAを粘膜への定着に利用している)」だ。
このグループは、私たちの健康に良い影響を及ぼすことが知られているBacteroides fragilisを無菌動物に摂取させ、粘膜に定着する条件を調べており、この研究から定着の悪い変異細菌株を分離し、この変異が細菌の莢膜の構成成分であるポリサッカライド(PS)、PSAとPSC合成に関わることを発見する。また、この株では正常のPSBが合成できない細菌株はさらに腸内への定着効率が低下する。
PSは様々な免疫反応を誘導できる分子であることがわかっているので、PS合成により免疫反応が誘導され定着が上昇する可能性を探る中で、一般的な細菌に対する免疫や炎症誘導性がメカニズムではなく、このPSと反応するIgAが誘導されることが定着を促進させることを発見する。この可能性をさらに確かめるため、免疫系が欠損したマウスやIgA欠損マウスで調べると、正常細菌でも定着が落ちること、この低下はPSに対するIgA を加えることで元に戻ることを示している。すなわち、PSに対するIgAは細菌の増殖にはほとんど影響ないが、粘膜への定着に必須であることがわかった。
ただ、IgAの細菌への影響を調べると、同じようにIgAがあると定着率が上がる細菌と同時に、IgAが存在すると粘膜への定着が阻害される細菌も存在する。すなわち、IgAは細菌を助ける場合と、細菌からホストを守る働きを演じ分けていることもわかる。
以上の結果は、ホストの免疫が誘導されることが、単純に細菌に対する防御ではなく、細菌の定着にも使われていることを示唆している。この研究でも示されているが定着するためには、細菌が塊を作る必要がある。この塊の形成をIgAが助けている。もちろん同じ現象は、毒性のある菌でも見られることが予想されるため、結局は良い菌と悪い菌を特定し、良い菌だけを増やすためのIgAの利用法を開発することが重要だろう。特にIgAは母乳にも含まれる。もしこの段階で母乳の助けを借りて、将来体を守ってくれる細菌を増やす方法が見つかれば、腸を育てる健康法の感性に一歩近づくような気がする。
2018年5月24日
根治切除術が不可能なメラノーマの場合、最近では多くのメラノーマでガン化に関わるBRAF変異があっても、最初から免疫チェックポイント治療が行われるケースが増えてきたと聞く。確かに、BRAFの変異に対する分子標的薬と、その下流に効果があるMEK阻害剤の登場は、メラノーマの治療を大きく改善したが、残念ながら薬剤耐性のガンが現れ再発する。一方、チェックポイント治療でも再発はあるが、ガンの進展が抑えられ期間も長く長期生存例も報告されてきて、最初からチェックポイントでという気持ちもわかる。
今日紹介するオランダガン研究所からの論文はなんとか分子標的薬だけで根治するための開発研究で5月31日発行のCellに掲載された。タイトルは「An acquired vulnerability of drug resistant melanoma with therapeutic potential(治療可能性のある薬剤耐性を獲得したメラノーマの脆弱性)」だ。
研究ではまずBRAF変異を持ち、変異BRAF阻害剤MEK阻害剤が効くメラノーマを試験管内で培養し、耐性を獲得する腫瘍を分離し、得られた細胞株の耐性獲得メカニズムを調べている。実際の臨床例でも知られているように、薬剤耐性株のほとんどが、結局はRas-MAPK経路の新しい突然変異で耐性を獲得していることを発見する。このような耐性に対しては、より広いスペクトラムのキナーゼ阻害剤を使うのが一つの考え方だが、このグループは新たに活性化されてきたRas-MAPK経路により活性酸素ROSが上昇している点に注目した。即ち、活性酸素が高いということは、それだけ細胞がストレスにさらされていることを意味し、これをさらに高めてやれば耐性を獲得したがん細胞を除去する可能性がある。
そこで、実際に臨床に使えそうなROS誘導剤としてヒストンの脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤を使って試験管内、ガン移植マウスモデル、そして実際の患者さんについて阻害剤耐性が現れた時に、HDAC阻害剤を加えてガンの増殖を抑えられるか調べている。さまざまな可能性を試しているので全てを紹介するのはやめて、要点だけをまとめると次のようになる。
1)BRAFやMEK阻害剤耐性腫瘍にHDAC阻害剤を加えると耐性腫瘍を殺すことができる。
2)MAPK阻害剤とHDAC阻害剤を同時使用を行うと、誘導されたROSがMAPKを活性化させるので、逆効果。
3)耐性が出たところで、MAPK阻害剤を中止し、HDAC阻害剤を加えると、耐性腫瘍を効率よく殺すことができる
4)HDAC阻害剤はROSを汲みだすポンプSLC7A11の発現を抑えることでROSの細胞濃度を上昇させる。
5)移植ガンの実験でも耐性獲得後HDAC阻害剤単剤で処理すると長期に進行を抑えられる。
6)人間の患者さんでも、同じ戦略が通用するが、現在まで調べることができた3例全例で半年ほどで腫瘍の増殖が観察される。
根治というにはまだまだだが、著者らは自信があるようで、HDAC阻害剤で増殖してくるのは、おそらくMAPK阻害剤に反応し、このサイクルを繰り返せばいいと思っているようだ。
薬剤を熟知して計画を進めている点はプロの仕事だと思う。ただCellに掲載されたのは、やはりヒトのメラノーマで一定の効果があった点が評価されたのだろう。免疫だけに頼らず、論理的に分子標的薬を使っていく方向は高く評価したいと思うが、実際どこまで有効か、現在治験が進んでいるようなのでそれを待ちたい。
2018年5月23日
ALSのメカニズムについては、様々な原因で運動神経自身が自発的に細胞死に陥るという考え方と、炎症反応により運動神経が障害されるとする考え方の2種類が並存しているが、実際にはどちらのタイプも存在しているのではと個人的には思っている。
炎症説を取る場合も、その原因には諸説あるが、免疫反応が関与すると考える人たちもいる。もしこれが正しいとすると、当然免疫反応を抑える調節性T細胞(Treg)を高めれば、病気の進行を抑える可能性が出てくる。実際マウスのALSモデルで、特異性を気にせずTregを増やしてマウスに注射すると、病気の進行を遅らせることが示されている。また進行の早い実際の患者さんではTregのマーカーFoxP3が上昇していることも知られている。
Tregは言わずと知れた、現在大阪大学の坂口さんの発見した細胞で、この細胞を診断や治療に使おうと、現在も多くの研究が進んでいる。もしTreg を注入するだけでALSの進行が少しでも遅らせられるなら、ALSはTreg発見が早くトランスレーションされた一つの例になると思う。
今日紹介する米国ヒューストンのメソジスト大学神経科学センターからの論文は、なんとマウスモデルで前臨床試験が終わったとして、実際のALS患者さん3例に、自己のTreg を移入する治療を行った第1相試験の報告で7月号のNeurology: Neuroimmunology & Neuroinflammationに発表された。タイトルは「Expanded autologous regulatory T-lymphocyte infusions in ALS(増殖させた自己調節性T細胞を 患者さんに移入する)」だ。
遺伝的要因の存在しないALS患者さんが三人選ばれている。それぞれALSの進行度を示すAALSスコアが162ポイント(最も症状が重い)のうち、50、65、68で、全て正常の30を超えているが、まだ初期段階を選んだと思う。
次に、注射するTregだが、患者さんの末梢血からTregを前以て調整、試験管内で増殖させている。こうして調整したTregを2週間おきに8回に分けて体重1Kあたり百万個注入している。3人ともこのプロトコルを最後まで完遂するだけの細胞数のTregが得られており、難しい治療方法ではなさそうだ。あと、注入後1週間に3回IL2を皮下注射し、体内でもTregの増殖を促している。
第一相試験の最も重要なポイントは、安全性だが、正直免疫反応が全体に抑えられることによる副作用は覚悟する必要がある。事実全員が何らかの感染性の炎症を経験し、特に脳神経症状が強い2番目の患者さんは誤嚥性肺炎を併発、50周目で治療を中断したが最終的には肺炎で亡くなっている。
全ての患者さんで、細胞移植後末梢血Treg数は上昇しているが、注射をやめると低下する。
さて肝心のALSに対する効果だが、注射を継続している間は確かにAALSスコアでみた進行が遅れていることから、著者らはポジティブな結果だと結論している。ただ、期間全体で見ると病気は確実に進行しているので、少しだけ進行を遅らせた程度の効果と言える。
以上が結果のすべてで、著者らはこの結果で十分第2/3相の臨床試験への基礎が固まったと考えている。今回は、全く無作為化されたコントロールをおいた実験ではないので、そのまま期待するわけには行かないことから、次の段階の試験を待つしかない。ただ、今後病気を防ぐ特異的Tregを特定し、増幅する可能性が生まれれば、かなり期待できるのではと個人的には考えている。幸い6月Tregの発見者坂口さんを呼んでシンポジウムを計画しているので、その際ぜひ可能性についての意見を聞いて見たい。
2018年5月22日
すでに何回か紹介しているが、腸内細菌叢の研究が、各細菌の比率を調べるだけの現象論から人為的操作法の開発へ軸足が移りつつある。具体的には体にとって有用な細菌を特定し、その菌の量を自由に調整するための方法の開発だ。これまでの研究で一番手っ取り早いのが、他の菌には利用できない餌によって特定の菌を増やすシステムの開発だが、何百、何千種類もの細菌の存在する腸内細菌叢でこれを実現するのは簡単ではない。
今日紹介するスタンフォード大学の研究はこれを実現するための一つの可能性を示した、将来を見据えた研究でNature オンライン版に掲載された。タイトルは「An exclusive metabokic niche enables strain engraftment in the gut microbiota (腸内細菌叢での特定の系統の移植を可能にする排他的代謝ニッチ)」だ。
研究のアイデアは極めててシンプルで、極めて特殊なポリサッカライドを利用できる細菌が含まれる細菌叢を持つ個体に、そのポリサッカライドを摂取させることで導入した細菌の増殖を人為的に操作できるかどうか研究している。この時、どのポリサッカライドを用いるかがカギになるが、この研究ではモデルとして、米国ではほとんど食されることのない、海苔に含まれるポリサッカライド(プロフィラン)を選び、それを利用できる細菌(Bacteroides ovatusの一種 NB001)を、蛍光遺伝子で標識し、人間の腸内細菌叢とともにマウスに移植した時、蛍光細菌の量を操作できるか調べている。
期待通りNB001を含む細菌叢を移植した時、プロフィランをマウスに食べさせた時だけNB001が急速に増殖することがわかった。次に、プロフィランの有無で、特定の細菌の増殖のオン・オフをかけられること、さらにプロフィランの濃度を変化させると、NB001の腸内での数をある程度操作できることも示している。
海苔のプロフィランを用いるというアイデアを着想したことがこの研究の全てで、期待通りプロフィランで多様な細菌が含まれる細菌叢のなかで、極めて限られた種類のBacteriocidesの細胞数をほぼ自由に調節できることが明らかになった。さらに、すでに細菌叢が確立している動物に、後から菌を移植しても、増殖優位性を用いて菌の量を増やせることも明らかにしている。
そこで最後に、プロフィランにより増殖する性質を他の細菌にも導入できるか、NB001の遺伝子を導入する実験を行い、ポリサッカライドを利用するための遺伝子クラスターの中の21種類の遺伝子を同時に導入することで、増殖を操作する細菌へ転換できることを示している。
主な結果は以上で、見方によれば餌があればそれを利用できる細菌が増えるという、至極当たり前の結果が示されただけだと言える。ただ、このプロフィランの利用に関わる遺伝子を特定し、同じ性質を他のバクテリアに伝達できることが示されると、この研究の意味は大きく変化する。すなわちこの研究は、何か有用な菌が見つかった時、その菌にこの遺伝子群を導入してその菌を細菌叢内での量をコントロールすることを可能にする。現在腸内細菌叢を整えるとして宣伝されている乳酸菌でもビフィズス菌でも、どの程度腸内に定着しているのかはっきりしないことが多い。しかし、この論文のような比較的安全な増殖コントロール法が開発されると、菌と餌の両方入った食品などが開発できるかもしれない。
しかし、海苔を使うというアイデアには恐れ入ったが、海苔を食べ慣れている日本人には使えるのだろうか。
2018年5月21日
自分でプラナリアを飼って見たことが大学時代に一度だけある。どの本だったかほとんど記憶にはないが、当時話題になっていたRNAで記憶を他の個体に伝達するという研究を集めた本を見て、プラナリアでの実験を自分でもやってみようと思い立ち、当時出入りしていた生理学教室の入交先生のお許しを得て大文字山から採取してきたプラナリアを飼育、条件反射の誘導などを実験した記憶がある。結局、完全な実験をやる前に臨床実習などが始まり、追試できるかどうかもわからず実験をやめた。なぜその気になったのか全く思い出せないが、記憶RNAの単純さに惹かれたのかもしれない。しかし、記憶が持続するシナプスの生理学的、解剖学的変化であることが明らかにされてからは、記憶RNAを省みる人などいなくなった。
ところがデジャヴと言えばいいのか、eNeuroオンライン版にUCLAの研究者が記憶研究の原点ともいうべきアメフラシを使ってなんと「RNA from trained Aplysia can induce epigenetic engram for long-term sensitization in untrained aplysis(学習させたアメフラシからのRNAは学習していないアメフラシの長期感作に必要なエピジェネティックな記憶痕跡を誘導する)」という論文を発表した。タイトルの中の、epigenetic という単語を取り除くと、1960年代に行われたRNAによる記憶誘導研究のデジャヴになってしまう研究で、当時の論文を引用するなど明らかに昔の騒ぎを意識している。おそらく私たちの世代の研究者が含まれているグループによる研究だと思う。
研究はアメフラシの有名な水管反射を誘導した個体からRNAを精製し、それをただ血管系の一種といえるヘモシールに注射するだけだ。すると、水管反射が他の個体に伝達でき、この伝達は刺激を感じる感覚神経系だけに起こり、運動神経には反応性の増加は起こらない。では、記憶成立に重要なシナプスの伝達性は変化したのか調べると、平均で見ると変化はないが、学習個体のRNAを注射したグループだけで実験間のバラツキが高く、シナプスが変化する可能性も残っているという難しい結論だ。
ただ、著者らも1960年代と同じ主張を繰り返す気はない。DNAメチル化阻害剤により、この伝達が完全に阻害されることから、学習によりノンコーディングRNAが誘導され、それがDNAメチル化を通して感覚細胞をリプログラムしたと真っ当な話にしている。
さて感想だが、この結論を導く実験としては間違った順序のような気がする。というのも、おそらくこの方法ではどのRNAかを特定することは難しいだろう。実際には、学習による転写やエピジェネティックな変化を調べて、記憶誘導の分子メカニズムを解明した上で、それを伝達するという順序が正しいように思う。その意味で、ちょっと遊んで見たという印象が強い。
とは言え研究が進むと、生物には様々な可能性があり、簡単に「あり得ない」などと判断するのは間違っていることも確かだ。
おそらく今も、生物についてはパストゥールの「すべての生命は生命から生まれる」のドグマを習うはずだ。同じ時代に生きたHenry Charlton BastianはArchebiosisを唱え、地球上で新しい生命が現在も誕生している可能性を主張したが、この説はダーウィンの番人ハックスレーニより圧殺される。しかし、生命が無生物から誕生しないと、生物は存在せず、よく考えればパストゥールのドグマは間違っている。しかし、Bastianのドグマも、生命誕生の条件を考えると、彼が考えたほど簡単に起こることはない。おそらくさらに無生物から生物が生まれるA-biogenesisの研究が進めば、パストゥールのドグマも歴史の一コマとして思い出されることになるだろう。
2018年5月20日
昔も今も、痛みを止める切り札はモルフィネなどの麻薬だ。しかし、痛みだけを止めてくれるわけではなく、様々な向精神作用に加えて、呼吸や腸の運動などにも強い作用が見られる。現在では、このような麻薬がどの受容体を刺激し、どのようなシグナル伝達経路で作用を及ぼすのかについては、理解が進んでいる。そして、これらのシグナル経路は、決して外来の麻薬物質のために備わっているのではなく、私たちが本来持っているエンドルフィンやエンケファリンのような、脳内麻薬と呼ばれる物質を媒介することが明らかになっている。
様々な脳内麻薬が明らかになって新たに生じた疑問は、なぜモルフィネのようなアルカロイドはあれほど多様な作用を示すのかだ。一つの答えは、脳内麻薬がアミノ酸がつながったペプチドであるのに、モルフィネなどの麻薬はアルカロイドで、前者の作用が脳内に限局するのに、後者は全身に作用がでる点だ。ただ、脳内の反応だけに限っても、麻薬と脳内麻薬の作用は大きく異なっており、その原因解明が待たれていた。
今日紹介するカリフォルニア大学サンフランシスコ校からの論文は両者の違いについて独自の新しい方法を用いて解析した研究で6月6日発行予定のNeuronに掲載された。タイトルは「A genetically encoded biosensor reveals location bias of opioid drug action(遺伝的に導入できるバイオセンサーにより麻薬の作用の局所的バイアスが明らかになった)」だ。
ほとんどの受容体分子は、リガンドと結合すると細胞内の立体構造を変化させ、この変化を通して下流の分子と特異的相互作用することでシグナルを伝える。この分子構造の変化は、変化前後の違いを認識できる抗体を用いて特定することができるが、抗体は細胞膜を通過しないため、生きた細胞で抗体を分子活性化のセンサーとして利用することは簡単でない。それを成し遂げたのがこの研究だ。
特にこの研究の売りは、抗体をラクダ科のラマで作ったことだ。免疫学者にはよく知られている事実だが、ラマの抗体はL鎖を持たない。すなわちH鎖だけのダイマーで出来ているため、一つのV領域で特異性が決まる。したがって、ラクダで活性化分子を認識する抗体を作り、その遺伝子を単離して、少し細工を施して細胞に導入すれば、生きた細胞で活性分子にだけ結合するセンサーとして使える。そして、L鎖遺伝子を気にする必要がないので、この過程が圧倒的に楽になる。しかし、実際に抗体のV鎖遺伝子がクローニングされ、神経科学の人に利用されているとは驚きだった。
活性化された分子を生きた細胞で特定できることのパワーは絶大だ。特にリガンドに結合し活性化された分子の細胞内局在を追跡することができる。そしてこの研究では、麻薬に対する受容体が刺激されシグナルを送る場所が、細胞膜上だけでないことを明らかにする。すなわち、脳内麻薬のような、細胞膜を通過しないペプチドがリガンドになる場合は、まず細胞膜上で受容体と結合し、その後エンドゾームに取り込まれて、そこでも刺激が長期間持続する。これまで、エンドゾームに取り込まれてからも刺激が続くことは間接的に示されていたが、今回新しい方法を用いて実際受容体が活性化状態にあることが証明された。
一方、細胞膜を通過できる麻薬の場合は、脳内麻薬による細胞膜からエンドゾームという経路に加えて、それよりさらに強い刺激がまだゴルジ体に存在する作られたばかりの受容体に加わっていることがわかった。ゴルジ体で刺激が入るのは、一般の麻薬が細胞膜を通過するためで、ちょっと驚くべき結果だが、細胞内で活性化した受容体を特定できるセンサーが出来て初めて明らかになった事実だ。
話は以上で、これがどれほど麻薬と、脳内麻薬の違いを説明できるのかはまだ研究が必要だろう。ラマで抗体を作るのがどの程度簡単かにもよるが、麻薬受容体だけでなく、様々なシグナル研究に使える気がする。
2018年5月19日
ダイエットというとカロリーを減らすことがまず頭に浮かぶが、糖尿病予備群と言われるようになると、インシュリン分泌が低下するとともに、脂肪細胞性の炎症によりインシュリンに対する反応性が低下し、糖の代謝が狂う。この狂いを正確に把握して、科学的に対処することが本当のダイエットで、トクホ商品などが宣伝しているように血糖に一喜一憂すること自体ほとんどナンセンスだ。
これまでの研究で、カロリー制限の他に、空腹を繰り返すことによりインシュリン分泌能が上昇することが糖尿病予備群を治療するカギになると考えられてきた。しかし空腹の効果を調べようとすると、体重も低下し、脂肪細胞由来のインシュリン抵抗性も改善するので、何が直接効果で、何が間接効果かよくわからなかった。
今日紹介する米国ペニントン生物医学研究所からの論文は、食事を厳重に管理することで体重を維持する条件で、空腹を繰り返す影響を見た研究で6月5日発行予定のCell Metabolismに掲載された。タイトルは「Early time restricted feeding improves insulin sensitivity, blood pressure, and oxidative stress even without weight loss in men with prediabetes(糖尿病予備群の男性が早い時間から食べるのを制限すると、体重の減少なしにインシュリン感受性、血圧、そして酸化ストレスが改善する)」だ。
研究では12人のHbA1cが上昇し、ブドウ糖を下げる力が低下しているいわゆる糖尿病予備群のボランティアを集め、完全に管理された食事を1日3回食べさせ、5週間での様々な指標の改善程度を調べている。食事のメニューだが、鶏肉と野菜が中心の食事だが、朝昼晩としっかりとした食事で、実際に5週間で参加者の体重はほとんど変化はない。
この研究の目的は、夕食から朝食までの空腹時間を長くすることの体への影響を明らかにすることだ。そのために、コントロール群は朝7時、昼12時、夜6−7時という一般的食事間隔で過ごさせる一方(12時間空腹)、early time restricted feeding (早い時間から食事を制限する:eTRF)群では、朝7時、昼10時、晩御飯を昼の12時から2時までという極めて変則的な食事時間を守らせ、夕食から朝食まで18時間は空腹が続くようにして過ごさせている。
さて結果だが、面白い。まず体重だが両グループで1Kgほど下がるが、摂取カロリーは同じなため、大きな違いはない。これを厳密に実現するため、食事を残さず食べているかすら監視している。すなわち、体重の減少を除外して、空腹時間の影響に絞って調べることができる。
詳細を省いて5週目に調べた検査結果をまとめると、次のようになる。
1) 空腹時血糖には大きな差はない。
2) しかし、eTRF群では空腹時およびブドウ糖摂取後のインシュリンが50%程度低下している。すなわち、少ない量のインシュリンで血糖が維持できている。また、この変化は通常の生活に戻って7週間経っても維持できている。
3) この結果は、ベータ細胞の反応性が上昇していることと、体のインシュリン感受性が高まることによっている。
4) 不思議なことに、eTRF群では血圧が10mmHgも低下する (おそらくインシュリンレベルが低下したことだと推察している)
5) 血中のアイソプロスタン量から酸化ストレスが低下しているが、インシュリン抵抗性の指標になる炎症マーカーに変化はない。
6) あまり空腹を感じなくなる。
以上が結果で、体重が増え脂肪細胞由来の炎症には変化はないが、空腹によりインシュリンによる糖代謝制御システム全体がリプログラムされ、インシュリンをじゃぶじゃぶ出して疲れていた体が、元に戻るという結果だ。さらに言い換えると、動物の体は本来空腹が続くことを前提に作られているのに、規則正しい生活という名目で、空腹時間がほとんどなくなった現代人は、インシュリンを中心とする糖制御システムが完全に変化し、本来の姿からズレが生じていることになる。従って、動物時代に戻れという話になる。
なるほどと納得するし、人間だって規則正しい食事が取れるようになったのはついこの前のことだろう。とはいえ、今回の研究のプロトコルは、現代社会に暮らしながら実行するのは難しい。もし朝を抜いて、夜7時ぐらいから昼1時ぐらいまで18時間空腹でいても同じ効果があるなら、私のような酒好きの人間でもやってみる可能性はある。いくら酒好きでも、昼間仕事中に飲むわけにはいかない。次は是非現実的なプロトコルで実験してほしいと思った。
2018年5月18日
2016年11月、このブログでYork大学の若手考古学者Penny Spikinsの論文について紹介したことがある(
http://aasj.jp/news/watch/6064)。自閉症に関わる様々な遺伝子が、人類の多様な能力を維持するために必須の役割を演じてきたことを、考古学的に考察し、考古心理学、考古精神医学を開発しようとする意欲あふれる論文だった(
http://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/1751696X.2016.1244949)。特に自閉症について、neurodiversityとして認める消極的容認を逆転させ、社会に必須の人たちとして認める彼女の積極的な評価に感動した。
実は私が初めて彼女の研究について知ったのは彼女が2015年に出版した「How compassion made us human(いかに思いやりが私たちを人間にしたのか)」を読んでからで、現代社会が失いつつある人間の優しさ、信頼、そして道徳性の起源を200万年にも及ぶ人類史を遡りつつ解明しようとする、熱い心が伝わってくる本だった。おそらくまだ翻訳されていないと思うが、推薦したい一冊だ。
そのSpikinsさんが年一回発行されるオープンアクセスの雑誌Open Archeologyにまたまた意欲的な論文を発表したので紹介することにした。タイトルは「How do we explain autistic traits in European upper palaeolithic art(ヨーロッパの旧石器時代の美術に見られる自閉症的特徴をどう説明すればいいのか)」(Open Archaeology 4: 262-279, 2018 *
https://doi.org/10.1515/opar-2018-0016)だ。
自閉症児の大半は社会性の問題から言葉の発達が遅れることはあっても、知能は正常だ。そして中には、私たち一般人が失った高い能力を持っている人たちが多い。例えば2014年のMuthらのメタアナリシスによると、Block designやFigure Disembeddingと呼ばれる視覚能力で調べたとき、自閉症児は明確に一般児より優れていることが報告されている(J.Autism Dev. Disord 44:3245, 2014)。そしてこの中には、一度見ただけで空間的イメージを明確に記憶し絵として再現できる特殊な能力がある。このような子供についてはDrakeらの多くの研究があるが、彼女がScientific Americanに書いた論文で紹介されている絵を見ると、様々な視覚認識能力が自閉症児では現れやすいことを理解することができる(Mind Scientific American Special edition, Spring 2017)。
この論文でSpikinsは自閉症児が示すlocal processing bias (部分的情報処理バイアス)とよばれる、全体にとらわれることなく細部を表現する能力に着目する。この能力は決して自閉症特異的ではなく、一般人にもこの能力は存在しているが、自閉症児では社会との付き合い方が違ている結果、より強く現れることを様々な文献から確認している。また、これまで自閉症児のlocal processing biasに基づく能力は、向精神薬で再現できるという考えを否定し、neurodiversityとして人類進化で獲得し維持されてきた、人類の発展にとって必須の遺伝子プールの結果であると結論している。
そして返す刀で、ではフランスショーべ洞窟で発見された世界最古の壁画や (
https://www.flickr.com/photos/44919417@N04/7887319298 参照)、ドイツ・シュターデル洞窟で発見されたライオンマン(
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%B3#/media/File:Lion_man_photo.jpg参照)のフィギャーのように、現代から見てもリアリズムの粋と言える作品は、誰が作成したのかと問う。
彼女にとって、答えは明白で、これらのリアリズム、local processing biasの強い作品は決して旧石器時代の人類の誰もが書いたわけではない。すなわち、特殊な能力を支える遺伝子プールを持っていた一部の人間のみ、描く能力と衝動を持っていたと考えている。これは言葉と大きく異なる。そして、この能力こそ、私たちが自閉症スペクトラムとして診断している人たちに間違いなく濃縮していると結論している。現在ネアンデルタール人の洞窟で見つかる絵画と、ショーべ洞窟の絵画を比べると、その違いは一般児と、Drakeが紹介している自閉症児と同じ程度の大きな差がある。ひょっとしたら、ネアンデルタール人のゲノムと現生人類のゲノム比較から、この差についてのヒントが見つかれば、大発見になること間違いない(と勝手に私が興奮している)。
いずれにせよ、自閉症児がもつ能力を理解しつつも、社会への適応性を理由に子供たちを排除したアスペルガーと異なり、自閉症児の持つ可能性をもっと発掘し、石器時代に人類が行ったように、社会を自閉症児の性質に合わせていくことが、新しい人類発展の鍵になるという彼女の主張にエールを送りたい。一度会って見たいと思う注目している研究者の一人だ。