今日紹介する南パリ大学からの論文はその典型で2月4日号のNatureに掲載された。タイトルは「Genome-wide nucleosome specificity and function of chromatin remodelers in ES cells (ES細胞の全ゲノムレベルで調べた染色体リモデリング因子の特異性と機能)」だ。
DNAは裸で存在しているわけではなく、ヒストンに巻きついて核内にしまわれている。一つのヒストン8量体に巻きついた単位をヌクレオソームと呼んでいるが、しっかりと巻きつくと転写は抑えられている。このため転写の状態に応じてこのヌクレオソームを外したり緩めたり、あるいは再形成したりダイナミックに調節する必要がある。これに関わるのが染色体のリモデリング因子(CR)だ。この研究では、Ep400, Brd1, Chd-1, -2, -4, -6, -8, 9それぞれのCRがES細胞のゲノムのどこに結合しているかを調べ、この結果とクロマチンの開いた場所、RNAポリメラーゼの場所、ヒストンのメチル化状態、CpGの繰り返し配列などと相関させ、異なる調節様式を受けている転写開始点のどの場所にそれぞれのCRが存在しているのか詳細に調べている。そして、最後に幾つかのCRの発現を抑えた時、染色体がどう変化し、その結果転写がどう変わるかを丹念に調べている。全転写部位でこれを達成するためのインフォーマティックスがしっかりあることがわかって感心するとともに、これまで個々の転写因子について理解して来たことが頭の中で整理がついてくる。結果は膨大で、この紙面で紹介することは難しい。結局それぞれの研究者が自分の問題を持って、この論文を参照するしかないが、この研究で示された詳細な地図を見ると、確かにそれぞれのCRが、ヒストンの修飾様式にガイドされ、転写開始点から見て決まった場所に陣取ることでヌクレオソームを調節し、転写を進めたり抑制したりすることがわかる。また、現役時代、ポリコム因子が結合する場所でオン型のヒストン修飾と、オフ型の修飾が同時に存在するというリチャード・ヤングの論文を読んで不思議に思ったが、この場所ではCRの結合様式が変化して同じ分子が抑制的に働いていることを知ると、なるほどと理解が深まる。 今日紹介した論文は、一般の方にはわかりにくく申し訳ないと思っている。しかし、ある程度の知識のある研究者にとっては結構ワクワクする論文だ。何よりも、これだけの地図が作れるというのに感心する。ES細胞やiPSは確実に基礎研究の変革をもたらすきっかけを提供したことは間違いない。
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