ちょっと凝りすぎかなという気もするが、2種類、3種類の抗原の組み合わせを使う治療法はぜひ開発してほしい。 同じように、今注目を集めている免疫チェックポイント治療も、まずガンに対する免疫を成立させてから、この治療を使おうとする地道な努力が進んでいる。今日紹介するマサチューセッツ総合病院からの論文はその代表例で、単純な癌細胞移植モデルではなく、実際のガンにできるだけ近いモデルを用いてチェックポイント治療を有効にするための条件を探っている。
論文のタイトルは「Immunogenic chemotherapy sensitized tumors to checkpoint blockade therapy (ガンの免疫原性を高める化学療法はチェックポイント阻害治療の効きをよくする)」だ。この研究ではガン遺伝子を発現させて発生する自己肺がんをモデルにしている。ただ、普通の肺がんと違い遺伝子導入で発生させたガンのゲノムには変異が少なく、ガン特異的抗原が存在しない。そこで、ガン特異的抗原として卵白アルブミンを発現させたガンを用いて研究を行っている。
こうしてできた肺腺ガンは通常用いられる化学療法には抵抗性で、またガンは卵白アルブミンを発現しているのに免疫チェックポイントを阻害する抗PD-1や抗CTLA4抗体は全く効かない。そこでこのグループは、ガンの細胞死を少しでも誘導できる抗がん剤を探索し、肺癌の場合オキザリプラチンとマフォスファミドを組み合わせたとき、ガンの細胞死が認められることを突き止めた。次にガン細胞障害がガン抗原を吐き出させて免疫を誘導しているかを調べると、細胞障害を受けたときだけガン抗原に対するキラー細胞が浸潤し、またTLR4依存性の自然免疫も成立する。ただ、これだけではガン自体の増殖を止めることができないが、これにチェックポイント阻害として、抗PD-1, CTLA4の両抗体を加えるとガンの進行を長期にわたって抑制できるという結果だ。最後に同じスキームが他のガンにも適用できるか調べると、線維肉腫の場合、オキザリプラチンと抗CTLA4を組み合わせると40%でガンが消失している。以上の結果から、化学療法自体が限定的な効果しかなくとも、ガンを障害することがはっきりしている場合、まず薬剤で細胞を障害しガン抗原を免疫システムに提示させてから、免疫チェックポイント治療を組み合わせることが重要だという結論だ。地道な研究で好感が持てる。
今後、それぞれのガンにたいして、確率の高い組み合わせを確かめていく研究が必要になる。ただ、多剤を併用する臨床研究は単剤の治験とは違って患者数も必要で、お金もかかる。また、一つの会社が全ての薬剤を提供できない限り、製薬会社の腰は重い。しかし、ガンの根治を目指す限り避けては通れない課題だ。ぜひ医師主導で複雑な治療の組み合わせが進められる体制を我が国でも実現してほしい。そのためには、患者さんの参加も必須で、これまでとは違った新しい医師、患者、研究者の関係も必要になる。このような課題を整理することも本当は日本医療研究開発機構のミッションだと思う。
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