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2月8日:太る体質の背景(1月28日号Cell掲載論文)

2016年2月8日
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  太りやすい体質についてこれまで多くの研究がある。例えば双子の研究から、肥満は確かに遺伝的一致率が高く、肥満に直接関わる遺伝子の探索が行われてきた。ただ一卵性双生児の間でも、片方が肥満で、片方が痩せている場合がる。この様に同じ遺伝背景を持っているのに形質に違いが出ることをPolyphenismと呼んでいる。もっとも分かりやすい例が、同じ遺伝子を持っている女王蜂と働きバチの違いだろう。もちろんこの違いはエピジェネティックな違いと一括りにできるのだが、メチル化程度の違いが特定された一部の遺伝子を除いては、この太る体質についての研究は進んでいない。
  今日紹介するドイツ、フライブルグのマックスプランク研究所からの論文はまだ現象論的研究だが太りやすさの原因の一つに新しい可能性を加えた研究で、1月28日号のCellに掲載された。タイトルは「Trim28 haploinsufficiency triggers Bi-stable epigenetic obesity (Trim28が片方の染色体で欠損することで、肥満に関して安定した二つの集団に分かれるスウィッチが入る)」だ。
  この研究グループは染色体構造を決めるプロセスに関わるTrim28分子を研究する過程で、父親からのTrim28の欠損した染色体を受け継いだマウスの体重が大きな二つの群に分かれることに気がついて研究していた。この遺伝子は父親からの遺伝子がインプリントされるため、母親からの遺伝子が欠損すると大きな発生異常が起こることが知られている。すなわちこのマウスでは、父親からの遺伝子が欠損しているため、この分子の発現は原理的に一定なはずだ。なのにどうして大きく肥満度の差が生まれるのか?成熟してから遺伝子をノックアウトしても肥満度が2群に分かれることはないため、同じ遺伝背景を持っていても、生まれたときに肥満かどうかが決まることになる。次に、この肥満と正常の差を決める要因を探索して、同じ様に父親からの遺伝子がインプリントされる一群の遺伝子の発現低下が肥満グループでリストされてきた。この中で相関の高い遺伝子に着目して、同じ様に父親からの遺伝子をノックアウトすると、Trim28の場合と同じ様に体重が大きな二つの群にわかれることがわかった。すなわち、父親側の染色体でインプリントされる分子がネットワークを形成して安定なスウィッチを形成しているが、どの遺伝子でも発現量が変化するとこのスウィッチの閾値が不安定になり、普通の状態なら安定にオフになっている様々な成長因子とメチル化に関わる遺伝子の発現が、肥満の方に傾く個体が出やすくなるというシナリオだ。重要なのは、食事などで誘導される代謝の変化ではなく、この傾向が生まれたときに決まっていることだ。実験的研究はここまでで、まだネットワークの本体が解明されていないという印象だ。しかし、このグループは同じことがヒトでも見られることをデータベース探索や実験的検討で示している。例えば一卵性双生児で体重差がある場合、肥満の個体はTrim28の発現が低いことが示され、確かに肥満についてのpolyphenismを形成する原因に、このインプリント遺伝子ネットワークが関わることを示している。最後に、学童期の肥満が正規分布するのではなく、大きく2群に分布することまで示して、生活習慣だけでなく、エピジェネティックな太りやすさを科学的に特定できる可能性を示唆して終わっている。メカニズムについてはまだまだ不満が残る研究だが、新しい視点に納得する研究だ。
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