今日紹介するバンダービルト大学からの論文はアメリカで構築されているゲノムと臨床レコードをリンクさせたデータベースを使って、特定の疾患とネアンデルタール人の遺伝子との関連を調べた研究で2月12日号のScienceに掲載された。タイトルは「The phenotypic legacy of admixture between modern humans and Neandertals (現代人の祖先とネアンデルタールの交雑が残した形質)」だ。これまで現代人の疾患に関連する多型の中からネアンデルタール人のゲノムに関連するSNP(一塩基多型)を探す研究は行われており、私も興味を持って読んできた。ただこの研究はアメリカ医療機関で蓄積されている疾患の臨床データとゲノム配列をリンクさせたデータベースを使ってより完璧を目指している点が特徴だ。正直に言うと使われたアルゴリズムの適切性については私にはよくわからない。ただ、実際の患者さんのゲノムと相関を求めていくと例えばネアンデルタール人の特定の遺伝子を受け継ぐ現代人は血液凝固の高い人が3倍近くになることがわかる。ネアンデルタール特異的な全遺伝子領域について同じような探索を繰り返して、特に病気と相関するネアンデルタール人由来の遺伝子として光によって誘発される角化症、うつ病、感情障害がトップ3としてリストされた。他にも相関の高い疾患SNPが見つかっているが、詳しく紹介するのはやめておこう。重要なのは、病気に関わるSNPは自然選択される運命にあると思っていたら、ネアンデルタールから受け継いだ遺伝子を何万年にもわたって維持していることだ。おそらく、現代人には問題でも、私たちを守る重要な形質だったのだろう。この研究では、気分障害や、うつ病、そして光線角化症は全て日照時間と関係しており、日照時間の短い地域で生きるためには重要な性質ではなかったかと想像している。ぜひ南のアジア人での結果を調べてみたいところだ。いずれにせよ、ネアンデルタール人ゲノム解析により、人間の進化に全く新しい地平が開けていることがわかる。
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