2月4日号のNatureは「A tragedy of errors Mistakes in peer reviewed paper are easy to find but hard to fix(間違いの悲劇 査読雑誌に掲載された論文の間違いは容易に見つけることができるが、訂正することは難しい)」とタイトルをつけたアラバマ大学Allisonらのコメントを掲載している。
Allisonたちは代謝や栄養関係の研究に絞って、論文で使われている統計学の間違いを指摘する努力を2014年から続けているようだ。彼らの指摘を受けて、論文の著者も間違いを認め論文が撤回されることもあるが、ほとんどの場合はこうはいかない。実際には、これまで大きな問題があるとして著者や編集者に注意を促した25編の論文で、エディターに送った手紙がたらいまわしにあったり、無視されたり、挙げ句の果てに撤回には1万ドルかかることを理解してほしいと堂々と述べる出版社もいたようだ。要するに、彼らの18ヶ月の努力は全て無に帰し、結局むなしく時間が取られすぎるとしてこの活動をやめたことを報告している。ただ、この貴重な経験を通して明らかになった科学雑誌の抱える6つの問題を指摘している。
問題1)編集者は間違いの指摘に対して適切な処置を講じる権限がないか、あるいは協力したがらない。
例:論文で公開されている生データの統計をとり直して、論文の結論が明らかに間違っていることを指摘したが、それから論文撤回を決断するまで11ヶ月かかっている。しかも、このコメントを書いていた時点で、まだ撤回はアナウンスされておらず、間違いを指摘した手紙も掲載されていない。
問題2)誰に問題を指摘していいのかはっきりしない。
雑誌には間違いを見つけた時、誰にまず連絡すべきかがはっきりと書かれていないことが多い。エディターなのか、スタッフなのか?実際、エディターを個人的に知らないと、エディターに直接連絡することは多くの雑誌で簡単ではない。
問題3)雑誌は論文の間違いを認めても、撤回に慎重すぎる。
論文の結論が間違った統計学的扱いによることが明らかな場合でも、間違いの指摘を並立する意見として処理しようとする
問題4)間違いの指摘を掲載するのに掲載料を要求する雑誌がある。
2回、この要求があったようだ。一つの雑誌は1716ドル、もう一つの雑誌は1470ユーロ要求したようだ。これは本末転倒で、雑誌の使命を全く履き違えている。
問題5)生データにアクセスできない。
多くの論文が間違った統計処理を採用している。それを正すためには生データを正しい方法で解析することが必要だ。従って、論文掲載の条件として、生データを公開することを義務付けるべきだ。
問題6)非公式な問題の指摘は完全に無視される。
問題を指摘するサイトと雑誌も用意しており、またPubMed Commonsもあるが、満足な答えが著者から帰ってきたことはない。
以上、経験に基づく問題分析を基に、この状況を続けることは、科学を後退させることに他ならず、一人一人の科学者が人任せにしないで対策を講じなければならないことを強調している。そして、臨床研究で一番重要なのは、やはり生データの公開だと結論している。
アカデミアの研究者と違い、企業の研究者にとって、興味を引いたデータが再現できるかどうかは薬剤開発の上で死活問題になる。アムジェンやバイエル研究所から、ガン分野の重要な研究の半分で再現性が取れなかったことを報告した論文が出ており、私もYahooニュース個人で紹介した。
2月11日発行のScienceは「Biotech giant posts negative results. Amgen papers seed channel for discussing reproducibility (バイオテクの巨人がネガティブな結果を公開した。アムジェンの論文は再現性の問題を議論するチャンネルを準備した)」というタイトルで、Baker記者が、新しい試みを紹介している。アムジェンの研究者の呼びかけで、再現できなかったことを示す自分のデータを公開する新しいチャンネルが、論文を評価するため組織された「Faculty of 1000」ウエッブサイト内に設けられた。その手始めとしてこのPreclinical Reproducibility and Robustness (前臨床研究の再現性と頑強性)というサイトに再現実験の結果が3編公開されていた。そこには、
1)レチノイン酸受容体刺激によりアミロイドの発現レベルに影響があるという結果が再現できないこと、
2)USP-14がアルツハイマーやALSに関わる蛋白の沈殿を分解するという結果は再現できないこと、
3)GPR21をノックアウトするとインシュリン感受性を含む代謝が改善するという結果は再現できない。
ことが示されている。
Bakerも懸念しているように、このようなサイトが特定の学説を攻撃目的で利用される可能性はある。しかし、顔を出し、データを示して行うやり取りは健全なもので、もっと推奨すべきだろう。同じサイトに、反論が出れば、なぜ同じ条件で違う結論になるのかより理解できるだろう。今後多くの研究者がこのサイトを見にくるようになればいいと思う。 捏造事件が起こった時だけ、倫理だ、コンプライアンスだと大騒ぎするのではなく、今日紹介したように、研究者自身が捏造の構造分析に基づき休みなく地道に構造変換を試みている姿を見て、我が国の研究者たちも、我が国で何をすればいいのか、押し付けられるのではなく、自発的に考えてほしいと思う。。
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