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2月6日:老害(Natureオンライン版掲載論文)

2016年2月6日
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   急速な高齢化により成長力が鈍化し、社会福祉支出の増大により国の活力が失われる問題に我が国は直面している。一億総活躍などと様々な処方箋が提案されているが、結局バランスのとれた人口構成が維持される国に戻るまでは、根本的な解決はないだろうと思う。若い時には考えたこともなかったが、高齢者の仲間となった私たち団塊の世代にとっては悲しい事実だ。非正規雇用が増えるというのも、私たちが新陳代謝しか社会の活力を保つ構想を持たないからだ。その究極に、姥捨山がある。大学を卒業した頃、チャールトン ヘストン主演のソイレントグリーンを見た。人口爆発に対する処方箋として公営の安楽死施設が設けられる社会を描いたSF映画だが、高齢者をもっと積極的に除去するしか社会の健康は保てないとする怜悧な決断が行われた社会の話だ。例えば一人っ子政策で入り口を抑える政策が破綻しつつある中国でよく似たことが起こらなければと懸念している。
   これは社会だけのことではない。今日紹介する米国メイヨークリニックからの論文は同じ方法を動物の体という社会で確かめた研究だ。すなわち、老化した細胞を積極的に取り除けば個体は健康になるかを調べた研究で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Naturally occurring p16-Ink4a-positive cells shorten healthy lifespan (自然に生まれるp16-ink4a陽性細胞は健康寿命を縮める)」だ。
  詳細は省くが、この研究では、増殖を積極的に抑制する時に発現するInk4a分子のプロモーターが発現している細胞をGFPで蛍光標識するとともに、同じ細胞だけが薬剤に反応して殺されるメカニズムを導入したマウスを作成している。Ink4自体は細胞増殖の見られる組織では重要な役割を果たしているが、このプロモーターは不思議なことに老化した細胞にだけ発現する。このおかげで、体の中で老化細胞を特定できるとともに、それを除去することが可能になっている。
  結果は期待通りで、老害は除去せよという結論だ。マウスの年齢は平均2年半ぐらいだが、1年目から薬剤を投与して、積極的に老化細胞を完全に除去する操作を行うと平均寿命が3割近く伸び、個体の最長寿命も2割ぐらい伸びる。組織学的には、心筋の機能が保たれ、腎臓の硬化が防がれ、体脂肪も新陳代謝が続いて若いまま維持されるという結果だ。他にも、ガンにはなるが、発症年齢は遅れ、健康寿命が伸びることも示されている。
  予想はされていたとはいえ、実験事実として示されると驚く。今後、死にかけの老化細胞を特定して殺し、寿命を延ばす方法の開発が進むだろう。その結果、社会としては新陳代謝が遅れる。人間の欲望が生み出す悪循環だ。私としては、老化した細胞を抱えたまま寿命を伸ばす、天才的な構想が生まれることを期待している。
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