このますます進む細胞システムの複雑化を見ながら「進化はすごい」などと考えていると、mRNAには他のN1アデノシンメチル化が存在して、実際に翻訳の制御に関わっているという論文がシカゴ大学から2月10日号のNatureに報告され、タンパク質への翻訳制御はさらに複雑化の道をたどっていることがわかった。タイトルは「The dynamic N1-methyladenosine methylome in eukaryotic messenger RNA(真核生物のN1メチルアデニンmRNA修飾の動的な変化)」だ。
私は知らなかったのだがN1メチルアデニンがmRNAの中に存在することは以前から知られていたようだが、アルカリ処理でN6へと変化するため正確に測定することが困難で、この研究はまずN1メチルアデニンがどの程度細胞株の中に発現しているかを正確に測定するところから始めている。この存在を確かめた後、N1メチルアデニンに特異的な抗体を作成し、この抗体で生成されるRNA部分の配列を調べ、mRNAのどの場所がN1アデニンにメチル化されるのか、その機能は何かを研究している。
詳細を全て省いて結論だけ箇条書きにすると、
1) スプライシングが始まるより上流に存在する翻訳開始点にN1メチルアデニンが集中しており、一つのmRNAに一箇所だけメチル化が見られる、
2) 開始コドンの存在するmRNAが構造化された部分がメチル化を受ける、
3) 翻訳される蛋白レベルと相関する、
4) 動物間でメチル化されるmRNAの種類やメチル化部位はよく似ている、
5) グルコース飢餓など栄養などの変化で、メチル化の度合いが変化する、
などを明らかにしている。
おそらくメチル化されることで、対応する塩基がペアリングすることを防いで、タンパク質の翻訳に関わる分子との反応を強めていると考えられるが、これは今後の研究になる。 環境に対応する必要性が生物の複雑化を牽引していることがよくわかる論文だった。
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