もともとミトコンドリア病は理解しにくい病気だ。一つの遺伝子変異が全てのミトコンドリアに存在するのではなく、変異を持ったミトコンドリアと、正常のミトコンドリアが混在し、正常のミトコンドリアが頑張ってくれれば、必ずしも細胞が破綻するわけではない。しかし、エネルギー代謝が高い脳や心筋などの細胞では異常ミトコンドリアが負担になり、その結果細胞の機能が著しく低下、ミトコンドリア病が発症する。ただ、どのような条件で異常ミトコンドリアが細胞に負担になり始めるのかわからないことが多い。要するに、ミトコンドリアのダイナミズムについて私たちは知っているようで、知らない。
その意味で今日紹介するエール大学からの論文はミトコンドリアのダイナミズムを知る上で勉強になった。タイトルは「UCP2 regulates mitochondrial fission and ventromedial nucleus control of glucose responsivenesss (UCP2はミトコンドリア分裂と視床下部腹内側核によるブドウ糖に対する反応のコントロールを調節する)」だ。
この研究のハイライトは、血中のブドウ糖のセンサーの役割を演じている視床下部服内側核の細胞が、高濃度のブドウ糖にさらされると、ミトコンドリアの分裂を誘導するDRP1分子の発現が上昇し、ミトコンドリアの数が増える一方、ミトコンドリアのサイズが小さくなるという発見だろう。不勉強なのでこれが細胞の代謝にどのような影響を持つのかわからないが、この神経細胞だけが高濃度の血中ブドウ糖に反応して、ミトコンドリアが分裂するとは、ミトコンドリアのダイナミズムを実感する。
残念ながらこの論文も、ミトコンドリアの分裂についての話はここまでで、ミトコンドリアの分裂からどう話が進むのか期待して読み進んでも、あとはミトコンドリアの分裂を誘導するDRP1の発現を支配しているUCP2分子の機能解析に移ってしまう。UCP2遺伝子のノックアウトと過剰発現マウスでのインシュリン感受性の変化が主題になっている。 結果をまとめると、高ブドウ糖で刺激される視床下部内側核細胞の興奮はUCP2に依存しており、この細胞自体ではUCP2が誘導するDRP1を介してミトコンドリアの分裂が促進される。これと並行して、おそらく視床下部腹内側核の興奮が自律神経の活動を介して、肝臓や筋肉のインシュリンに対する感受性を上昇させるという結論になる。
最初は特定の細胞だけでミトコンドリアの分裂が誘導される発見にひかれて読んだが、この現象についはこれ以上深く突っ込んでいないのは残念だ。高グルコースに長期間さらされた時はどうなるのかとか、ミトコンドリア病との関わりについて是非もう少し知りたいと、少しフラストレーションが残った。
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