同じ様な興奮を期待して、体の動くうちにぜひ行きたいと思っているのが、アイスランドのすぐ近く、グリーンランドのイスア地域だ。というのも、ここには38億年前に形成された地層が表面に露出している。38億年前は、言うまでもなく生命が誕生したと考えられる時期で、この地層にもし生命の痕跡が残っていたら、生命誕生時に最も近い痕跡と言える。
今日紹介するオーストラリア・Quest研究センターからの論文は、イスアで新たに見つかった37億年前の地層に、ストロマライトと呼ばれる新たな生命の痕跡が見つかったこと示唆する研究で8月31日号のNatureに掲載された。タイトルは「Rapid emergence of life shown by discovery of 3,700 million year old microbial structures (37億年前の微生物の構造から生命が急速に発展したことがわかる)」だ。
この研究の結論を一言で表すと、「グリーンランド・イスアの地表に露出した37億年前の地層に、ストロマライトと呼ばれる、粘液を出す細菌が沈殿した層が発見される」、になる。
生命の痕跡を探すということは、物理化学現象としては説明できない痕跡を探すことになる。ストロマライト層は、地学上の地層形態、アイソトープによる生命関与の検出、そしてドロマイトの中に形成されていることなどから、物理化学では説明できない最も古い生命の痕跡とされてきた。
これまで最も古いストロマライトはオーストラリア・フィルバラに存在する34億年前の地層で見つかっている。この地層ではさらに、微小化石と呼ばれる細菌様の形態をした化石も発見されている。同じ様なストロマライト構造がもっと古い地層にないかを探したのが今回の研究だ。
もちろん従来から、グリーンランド・イスアで生命の痕跡を探す研究が進められており、東北大学のグループにより、生命の関与を匂わすグラファイト層が存在することも報告されている。しかし、オーストラリアで見られるストロマライトはイスアでは発見されていなかった。
このグループは、最近氷が溶けて地表が露出した場所の地層を調べ、オーストラリアで見られるのに似たストロマライトが存在することを発見した。このストロマライトが、物理化学的に合成されたものでないことを確認するために多くの研究が行われているが、詳細の説明は必要ないだろう。
ストロマライト層の形態学、沈殿・蓄積の仕方、地層の非対称性、地層の平坦さ、炭素同位体による検証などから、今回発見されたストロマライト層は生命により形成されたもので、現在知られている中で最古生命の痕跡であると結論している。考古学的アプローチで37億年前の地層に生命の痕跡が認めれたとすると、38億年前、そしてそれ以上前の生命誕生の痕跡を探すことも将来可能になるかもしれない
21世紀に入って無機物から生命が誕生するための条件の理解が急速に進んでいる。その意味で、今日紹介した論文の様に、考古学的アプローチの重要性がますます高まっている。次にアイスランドに来るときは、ぜひグリーンランドにも足を伸ばして38億年前の太古を感じてみたいと思っている。
カテゴリ:論文ウォッチ