ところが、今日紹介するエジンバラ大学からの論文(Takeuchiさんというおそらく日本人が筆頭著者だ)は、VTAではなく青斑核(LC)から海馬へ投射する神経が記憶の固定に関わることを、マウスと光遺伝学を使って示した研究で9月7日号のNatureに掲載された。タイトルはズバリ「Locus coeruleus and dopaminergic consoledation of everyday memory (青斑核とドーパミンによる毎日の記憶の固定)だ。
この研究では毎日の記憶が新しい環境で過ごすことで固定しやすくなるメカニズムについて、光遺伝学が利用しやすいマウスを用いて研究している。このため、マウスに餌の場所を覚えさせた後、30分ほどして真っ赤な床敷きの中で過ごさせ、記憶の固定を調べるという課題を設計している。結果をみると、場所の記憶は通常24時間で失われるが、新しい環境で過ごすと記憶が固定されている。
次に、新しい環境に反応して記憶を固定させる神経が、これまで考えられてきたようにドーパミン神経かどうか、ドーパミン神経だけがチャンネルロドプシンを発現するように操作したマウスを用いて実験している。
まず光で興奮する神経を特定して、実際に新しい環境に反応して興奮するか調べ、ドーパミン神経が存在するVTAとLC両方が新しい刺激で興奮することを確認している。
次に、VTAとLCにCreリコンビナーゼを注射して神経を蛍光色素でラベルし、その投射を調べた実験から、通説に反し海馬に投射するのはLCのドーパミン神経であることを示している。
そして、最後にLCを刺激すると、海馬のシナプス結合が高まり、記憶が固定すること、そしてこのLCがノルアドレナリンの刺激を受けて興奮する神経であることを示している。
この結果は、海馬での記憶の固定を、新しい環境によって刺激されるLC細胞の海馬への投射が重要であることを示した重要な貢献だ。特に、LCがアルツハイマー病や自閉症、さらにはMECP2遺伝子異常に重要な関わりを持つことが注目されている今、この発見を基盤にこれらの疾患を見直すことは重要ではないかと思う。また、新しい環境によるドーパミン回路の活性化は、これまでの報酬回路とは異なる記憶のメカニズムだとすると、私たち高齢者にも重要なヒントになるように思う。
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