学童を持つ両親にとったら、子供のビデオゲームをどう規制すればいいのか頭の痛い問題だが、脳研究から見た時ビデオゲームは必ずしも悪い面だけではない。例えば2013年9月には高齢者の認知機能を高めるビデオゲームについての構想がNatureに掲載された(http://aasj.jp/news/watch/407)。一方、英国の10歳から15歳の学童についての研究ではビデオゲームで遊ぶ時間と、行動障害の罹患率が相関するという報告が出ている。
私も、ビデオゲームは脳の発達に大きく影響すると思っている。それが人類にとっていいか悪いかは、経験しない私たちだけが判断し得ることではないが、この影響について繰り返し調査を行うことは、将来のためにも重要だ。
この研究ではスペインの39の学校から7−11歳の2897名をリクルートし、まずビデオゲームを日常行っているグループと、行わないグループに分け(2442名がゲーマー)、様々な脳機能、性格を親からのアンケートを含む様々なテストで評価するとともに、MRIを用いて、白質の大きさの変化、拡散テンソル法を用いた神経結合、機能的MRIなどを駆使した画像診断を278人の学童に行い、脳機能や性格と相関させている。通常行っているゲームの種類も調べているが、極めて多様で、今回はその内容で層別化することはしていない。
結果だが、これまでの多くの研究と同じで、ビデオゲームは明らかに学童の運動反応を高める。ただ、これは週1時間ゲームで遊べば十分で、それ以上遊んでも特に反応が高まることはない。また、学業の方も、少しではあるがゲーマーの方が良い。睡眠時間、作業記憶、注意力など他の様々な指標についても調べているが、今回の調査では差は見られていない。
一方、行動障害を見てみるとゲームで遊ぶ時間が2時間を超えると、時間に比例して頻度が上がる。これは英国の調査を裏付ける。
以上を総合すると、週1時間程度は明らかに運動機能を高める効果があるビデオゲームだが、やはりのめり込むと行動障害につながるという結果だ。
次に、この行動異常と相関するMRIによる脳画像を調べている。結果だが、
1) 運動機能の上昇と相関して、運動機能に関わる線条体の神経線維の豊富な白質部分が、ゲーマーで明らかに増大している。
2) 拡散テンソルで調べた神経結合性でも、線条体の側方につながる部分が上昇している。
3) 被蓋と尾状核との機能的結合の上昇もゲーマーで見られる。特にゲーム時間が長い対象では、前帯状皮質との情動に関わる部分のとの結合性が上昇している。
脳画像については素人なので、どこまで行動と相関させられるか評価のしようがないが、要するに運動機能上昇は脳の変化として検出できるが、行動異常については明確な相関を特定できるところまでは至っていないということだろう。
いずれにせよ、やりすぎはいけないが、ゲーム自身は大丈夫ということだ。しかし、これは親が規制が効く学童の話で、独立して生活している若者だと、全く規制が効かない場合もある。次はその辺の調査も重要ではないだろうか。高齢者にゲームが効果があるなら、青年の脳に及ぼす効果はもっと大きいはずだ。
カテゴリ:論文ウォッチ