今日紹介する英国のセントアンドリュース大学からの論文は、ハワイに住んでいたアララと呼ばれるカラスは、経験したことのない物語を構想する能力を持っていることを証明した論文で9月17日号のNatureに掲載された。タイトルは「Discovery of species-wide tool use in the Hawaiian crow(ハワイのカラスの種に広く見られる道具の利用の発見)」だ。
私は朝5時半過ぎからウォーキングしてからこの原稿を書くことを日課にしているが、春から夏にかけてカラスの群れが上手にゴミ袋から餌をつまみ出しているのを見ていつも驚いている。実際ニューカレドニアのカラスが道具を使って餌を摘み出す賢い鳥であることは報告されてた。ハワイに住んでいたカラスの一種アララも道具を使う賢いカラスとして知られていたようだが、残念ながら野生のアララはほぼ絶滅し、現在は保護繁殖されているアララだけが存在している。この状況を利用して、研究グループはアララの道具を使う能力が、経験で獲得したものか、あるいは経験しない物語を構想しているのか調べている。
繁殖保護されたアララのほとんどが、木の穴に潜む昆虫の幼虫を、その穴にあった小枝を使っておびき出す離れ業を使って取る。この研究では、このような経験を一切できないようにした環境で育てたアララでも、人工的に作った状況で必要が生まれると、道具を使って昆虫を採るという物語を構想できるかどうかを調べている。
詳しい結果を解説する必要はないだろう。答えはイエスで、どう考えても小枝と自分のくちばしでは届かない穴をみると、自然に枝を使って昆虫を追い出す行動をとる。しかも長い枝だと、短くしてから使ったり、カラスによっては枝を他の木から折って使うことすらある。これらの事実から、アララは道具を使う能力を生まれつき持っていることが証明されたと結論している。今後、この能力のあるカラスと、ないカラスの脳や遺伝子を比べることで、物語を作る能力の生物学的背景に迫れることになる。
読者の中には、なんだ観察だけのゲテモノ論文だと考える人もいるかもしれないが、私はこの研究は極めて重要な一歩だと思う。すなわち、同じカラスの中に物語を持つ種と、そうでない種が見つかったということで、おそらく最も進化的に近い種の中で見つかった大きな違いを調べるチャンスが巡ってきたことを意味する。期待してみていきたい。
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