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7月1日:ノンコーディングRNAの新しい機能解析(6月29日号Cell掲載論文)

2017年7月1日
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ゲノムの中でタンパク質に翻訳される部分はたかだか2−3%しかないが、細胞中のRNAを網羅的に調べる研究から、実に9割以上のゲノム領域が低いレベルではあるがRNAには転写されていることがわかっている。こうして転写されるRNAはlong noncoding RNA(長いタンパク質をコードしていないRNA:lncRNA)と名付けられ、少しづつ研究が進んでいるが、遺伝子のノックダウンが難しい、機能に必要な分子複合体についての知識が不足している、そして何よりlncRNAがゲノム上のどの領域に結合しているのか調べる方法がないため、研究の進展は遅れていた。
   今日紹介するハーバード大学からの論文は、この3つの問題をなんとか解決できる方法を開発して、テロメアに存在する繰り返し配列を含むlncRNA、TERRAの多様な機能を明らかにした研究で6月29日号のCellに掲載された。タイトルは「TERRA RNA antagonizes ATRX and protects telomeres(TERRA RNAは ATRXに拮抗しテロメアを守る)」だ。
   もともとTERRAはテロメアのみに結合していると考えられ、実際核内で染色体あたり2箇所にTERRAが局在している写真はなんども示されてきた。このグループはTERRAの局在を示す同じ写真も長時間露出すると、他の部分にTERRAが結合していることをまず示し、常識にとらわれるとTERRA=テロメアで終わることを警告している。そしてTERRAが結合するゲノム領域を化学的に結合させ、シークエンサーで特定する方法を開発し、TERRAがテロメアの繰り返し配列だけではなくゲノムの様々な領域に結合していることを明らかにしている。
   この結果は、TERRAの多様な機能を想像させるため、次にTERRAを細胞から除去する新しい方法(化学修飾したアンチセンスを用いて標的を分解する方法)を用いて、TERRAの機能を検討し、TERRAが結合している遺伝子の多くの転写レベルが変化することを証明している。また、このような遺伝子ではTERRAは転写開始点近くに集まっていることも明らかになった。
   TERRAが転写にどう関わるのか調べる目的で次にTERRAと結合しているタンパク質を化学結合させて網羅的に調べる方法を開発し、134種類のタンパク質が結合していること、さらにこれらのタンパク質の結合領域を調べる染色体沈降法によるデータと組み合わせ、ATRXとTERRAが染色体上で特に抑制性のヒストンと結合している部分で共存していることを突き止める。
   こうして特定した幾つかの遺伝子領域についてATRXとTERRAの機能を調べ、TERRAは遺伝子発現を促進し、逆にATRXは抑える働きをしていることを明らかにしている。実際には、ATRXとTERRAが結合することで、ATRXの抑制が外れるというシナリオだ。
   今度はテロメアで両方の分子がどのように働いているのか、TERRAを除去する実験により調べ、TERRAとARTXが結合することでARTXのテロメア繰り返し配列への結合が阻害されることを明らかにしている。また、TERRAはテロメラーゼの一部のTercとTERRAも直接結合してテロメラーゼの活性を抑えて、テロメアの長さが一定に保たれるよう負の調節を行っていることを明らかにしている。
   以上の結果からTERRAがATRXを介して転写の調節と、テロメアの保護に関わるとともに、Tercの機能を抑制してテロメラーゼの活性を抑えるという様々な働きをする分子であることを示している。
   常識にとらわれない問題設定から始め、新しい方法を開発してその問題を解決した力作だと思う。
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