ステージの進んだメラノーマに対する、個人用ガンワクチンを実現するという点ではこの研究も同じだが、放射線照射や抗がん剤など一般的メラノーマ治療と併用している点、そして抗原として合成したペプチドを使うのではなく、ネオ抗原として利用出来ると判断した突然変異部位を含む短いペプチドをコードする全部で10種類のRNAを直接リンパ節に注射、RNAを取り込んだリンパ球やマクロファージにペプチドを作らせ免疫している。ガンの遺伝子を調べてからネオ抗原を決め、臨床用のRNAを合成するまで平均2ヶ月かかることまで正確に記録している点も、臨床応用への執念が感じられる。
13人の患者さんにワクチン摂取が行われているが、ワクチンを開始するまでは、一般のメラノーマの治療を行っているので、ハーバードの治験よりは応用範囲が広いだろう。
さて結果だが、期待どおり一人当たり少なくとも選んだ3種類のネオ抗原に対してT細胞の反応が得られている。反応の主体はCD4T細胞で、キラーは誘導しにくい傾向がある。しかし、心配したネオ抗原に対する免疫寛容は問題にはならなかったようだ。ワクチン摂取により、新しいT細胞受容体が誘導されることも確認しており、この方法の有効性が確認されている。
肝心のガンに対する効果だが、13人中8人はワクチン摂取を始めた後は再発を認めていない(1−2年)。
残りの5人はワクチン摂取後も腫瘍が増大したが、一人は抗PD-1抗体治療、一人は抗CTLA4治療に反応してその後再発はない。結局2人はワクチン摂取後に亡くなってしまっているが、臨床効果としては大成功といっていいと思う。
さらに驚くのは、亡くなった一人の患者さんについて失敗の原因を調べ、β2ミクログロブリンの発現が消失しているため、ガンのネオ抗原が免疫系に提示できなくなっていることを示している。
昨日と今日の研究をまとめると、「ついに個人用ガンワクチンが現実になった」と言っていい。メラノーマと同じように、突然変異の多いガンについてはぜひこの治療法を完成して欲しいと思う。個人用ガンワクチンがうまくいけば、自ずと抗PD-1や抗CTLA4療法の未来も見えるはずだ。 そして次に目指すのは、ネオ抗原特定の的中率を上げることと、新しいインフォーマティックスに基づいて、突然変異の少ないガンにも範囲を広げることだろう。簡単ではないが、我が国でも王道を進む研究者が出てきて欲しいと思う。
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