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7月15日:道具使用のための脳機能を探る(米国アカデミー紀要オンライン版掲載論文)

2017年7月15日
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現在まだ南アフリカ滞在中だが、なんとか日常が落ち着いてきたので論文ウォッチを再開する。
  さて、私が滞在中の南アフリカは、人類進化研究からは決して外すことができない場所だろう。すなわち、アウスラロピテクスと名付けられた最も古い原人が最初に見つけられたスタークフォンテーン洞窟が存在し、現在も発掘が続けられている。ダートによる発見は、当時世紀の捏造あけぼの原人を指示していた英国考古学界から排除され続けるという悲劇の歴史があるのだが、常時2足歩行を行い、330万年前に始まる道具を使用した最初の原人は世紀の大発見と言える。
   言語と並んで道具を利用する能力に関する研究は面白い。実際、脳卒中でおこる道具利用の異常(失行症)には失語症が伴うことが多い。すなわちそれぞれに必要な脳領域のうち後頭頭頂皮質領域が相互に重なっているからと考えられる。330万前から道具はほとんど進歩しなかったが、言語を獲得した現代人類が誕生して道具が急速に進歩し今に至ることを考えると、道具使用は言語能力と相互作用することで急速に発展したのではないかと考えられる(私見)。
   少し前置きが長くなったが、今日紹介するハーバードからの論文は道具を使う手の脳内表象と手で使う道具のイメージの脳内表象の関係を調べた論文で米国アカデミー紀要オンライン版に掲載されている。タイトルは「Sensiomotor-independent development of hands and tool selectity in the visual cortex(視覚野での手と道具の選択制は運動感覚系と無関係に発達する)」だ。
   これまで、手の写真を見せた時と、道具の写真を似せた時に興奮する視覚野内の領域が重複することが知られていた。これをHand Tool Overlap(HTO)と呼ぶが、道具を使ったり、使うのを見たりする経験により学習すると考えられてきた。しかし、視覚を生まれつき失っている方でもHTOが成立していることがわかり、視覚とは別に道具使用を行う経験がHTOを成立させていると考えられるようになった。この点を調べたのがこの研究で、生まれつき手が形成できない発達異常の方5人の協力を得て、手で道具使用を行った経験はないが、足を使って道具は使っている方と、正常人に手のイメージ、道具のイメージを見せ興奮する視覚野の領域、及び他の脳領域との結合について調べている。    結果は予想に反して、全く道具使用の経験がない人でも、HTOが成立していること、また脳内の運動感覚各領域との結合も大きな変化がないという結果だ。詳細は述べないが、もちろん経験により一定の変化は起こる。しかし、著者らは視覚や手を使う経験がなくても、ともにHTOが成立していることから、進化の過程で対象を認識して手のイメージとオーバーラップさせる回路が発達したことが道具使用の条件となったのではと結論している。
     言語でいうとチョムスキーの普遍文法と同じように、脳内に生まれつき回路を持っているという仮説で、今道具使用、音楽、そして言語の能力について調べている私には面白い論文だった。
カテゴリ:論文ウォッチ
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