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7月31日:ゲノムの構造化はDNA鎖のストレスによる切断の原因になっている(7月27日号Cell掲載論文)

2017年7月31日
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これまで何度もDNAはTADと呼ばれる区域に正確にわけられ、遺伝子の転写を調節するメカニズムを小さな領域に制限するようできていることについて、論文を紹介してきた。このゲノムの構造化に関る論文を読むと、染色体ごとに対応する長いDNAを折りたたんだり、ほどいたりを正確に繰り返すメカニズムに驚嘆するが、私たちが「紐」を相手にするとき直面する、紐がもつれてダンゴになる問題はここにもあるようだ。
   今日紹介する米国NIHからの論文はTADを形成する過程で紐をたぐるときにもつれを外すのがトポイソメラーゼ2(TOP2)で、この分子がうまく働かないとDNA鎖にストレスがかかり切断するという研究で、7月27日号のCellに掲載された。タイトルは「Genome organization drives chromosome fragility(ゲノムの組織化により染色体の脆弱性がおこる)」だ。
   もともと小さく折りたたまれているDNAは転写や分裂のたびに構造を変化させるが、このときTOPはDNAのねじれをほぐす重要な働きをしている。実際、TOP2の機能が抑制されるとDNAの切断箇所を修復できない。これを利用してエトポサイドと呼ばれるTOP2阻害剤をガン治療に使っている。
   切断されたDNAの修復を止めるエトポサイド(ETO)の作用は、細胞死だけでなく、場合によっては切断面同士が結合する染色体転座をひきおこす。実際、リンパ球をETOで処理すると、様々な転座が起こり、白血病が発生することが知られている。不思議なことに、ETOは非特異的な阻害剤であるにもかかわらず、なぜ同じ場所の転座が繰り返し起こるのかについてはよくわかっていなかった。
   この研究はETOにより誘導される白血病転座の選択制を明らかにすることを目的に始められている。白血病細胞を用いてETO処理でTOP2の機能を抑えた白血病細胞でDNA切断が起こる場所を調べると、これまで白血病転座が起こる場所として特定された場所に切断が入っていること、およびその場所にTOP2とTADの境界に結合するCTCF結合部位とほとんど一致することを見出す。おそらくこの結果から、TAD形成時のDNA鎖のねじれを治すため、TAD境界にTOP2が結合するが、ねじれ自体によりDNA鎖が切断されるため、TPOP2がETOで抑えられると、切断部位同士が結合する染色体転座が起こるというシナリオを思いついたのだと思う。
   あとは、
1) ETOにより誘導されるDNAの切断はTOP2作用の抑制による、
2) このときのTOP2の作用は転写や分裂とは関係がない、
3) TOP2はCTCFとコヒーシンが結合しているTADの境界に結合している、
4) 領域間の接合が高いTAD境界領域、すなわちDNAのもつれが激しい領域でDNA鎖の切断が多いこと、
などを示し、
コヒーシンとCTCFによりDNAがたぐられる時DNA鎖にストレスがかかりDNAがちぎれるため、TOP2が同時に存在し、そのストレスを解消しており、これをETOで抑制すると、DNA鎖の切断が修復されず残る。このサイトは厳密にTAD境界に存在するため、特異的な場所同士の転座が起こるというシナリオになる。
   この話を聞くと常にダンゴ担った紐が頭の中に浮かんでしまっていたが、今後はこのもつれを解いて、論文を読めそうだ。
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