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7月8日:個人向けガンワクチンをオーダーする日がやってきた(Natureオンライン版掲載論文)

2017年7月8日
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新しいガン治療として抗PD-1抗体治療が注目され、患者さんの期待を集めている。ただメディアやウェッブでの情報提供の有様を見ていると、この治療法が決してガンに対する直接的な治療ではなく、間接的な免疫治療であることを正確に理解している人がどの程度おられるのか心配になる。
   例えば2−3割の人にしか効果がないことがよく問題になるが、ガンに対する免疫が成立していなければこの治療は無駄だ。逆にもしガンに対する免疫反応を誘導できれば、この治療法の恩恵にあずかれる人は大きく増えるだろう。
従って、今、最も重要なのは、ガンに対する特異的免疫反応誘導法を確立することで、治療にはまず個々のガンに発現する抗原を特定し、その抗原をワクチンとして免疫し、PD-1による免疫反応抑制がかかってきたときに、抗PD-1抗体を投与して免疫反応を維持するのがゴールになる。
   今日紹介するハーバード大学からの論文は、実際のステージIII,IVのメラノーマの患者さんについて、このゴールを達成できるかどうか調べた臨床治験で、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「An immuneogenic personal neoantigen vaccine for patients with melanoma(メラノーマ患者さんに対する個別のネオガン抗原ワクチン)」だ。
   同じ方向の論文はすでに2年前Scienceに報告されており(http://aasj.jp/news/watch/3176)、このHPで以前紹介した。それと比べると、この研究はより臨床治験としての体制が整った研究のように思う。
  十人の患者さんが選ばれ、まず主病変を手術で取り除く。得られたメラノーマのエクソーム(ゲノムの中で翻訳される部分のDNA配列)を調べ、ガンに新しく発生した突然変異をリストする。並行してガンに発現しているRNAから、実際に新しいネオ抗原としてガン特異的に発現し、さらに組織適合性抗原MHC上に抗原として提示されている候補を洗い出している。この結果、一人当たり20種類のネオ抗原ペプチドを作成し、これをワクチンとして患者さんを免疫している。    とは言ってもこのようなネオ抗原が特定できたのは残念ながら10人中8人で、全員ではない。この研究ではそのうちの6人について個別のワクチンを作成し、計画通りに5回の免疫を行い、その後2ヶ月毎のブーストを行っている。驚くのは、手術とワクチン以外の治療を行っていないことだ。
   25ヶ月の時点で、4人は再発なしだが、2人は転移が発見されている。この2人に抗PD-1抗体を投与すると、2人とも腫瘍は消失し、現在まで再発は見られないという結果だ。繰り返すが、化学療法を行わないで得られる結果だ。
   もちろん論文では、この6人の患者さんを免疫することで、CD8陽性キラー細胞、CD4陽性ヘルパー細胞が誘導されていることの確認、ガン免疫には両方のクラスのT細胞が必要なこと、この反応を誘導したネオ抗原の由来分子の特定(一人一人抗原は違っている)、ネオ抗原特異的T細胞の特定と細胞株樹立、ネオ抗原や抗PD-1抗体がT細胞に及ぼす作用などを示している。私が注目したのは、ネオ抗原特異的T細胞を株化することまでできる点で、キラー細胞が枯渇した場合それを移植する治療も可能かもしれない。要するに、オーダーメードのワクチン療法はかなりの確率で成功するということで、これ以上詳細を紹介する必要はないだろう。
  今のところいくらかかるかわからないが、一歩一歩免疫のオーダーメード治療が近づいていることは確かだ。
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