ただこの方法では、長期間機能的分子の発現を維持するためには核酸薬を投与し続ける必要があるが、基礎研究段階ではあるがCRISPR/Cas9を用いてエクソンスキップを遺伝子改変により行う方法も開発されつつある(http://aasj.jp/news/watch/4683)。
これに対し今日紹介する仏、米、英からの共同論文は機能部分だけを集めた小さなジストロフィン分子をアデノウイルスベクターに組み込んで治療するという最もオーソドックスな研究で7月25日号Nature Communicationsに掲載された。タイトルは「Long-term microdystrophin gene therapy is effective in a canine model of Duchenne muscular dystrophy(ミクロジストロフィン遺伝子治療は犬のドゥシャンヌ型ジストロフーに有効)」だ。
この方法は、小さいとはいえ機能遺伝子を導入する治療のため、ジストロフィン遺伝子のほぼ全ての突然変異に対し有効なこと、一度の治療で比較的長期の効果が期待できる。
研究では大型動物モデルとして定番の筋ジス犬にアデノ随伴ウイルスベクターに導入したミクロジストロフィンを注射、筋肉の機能と病理を調べている。最初の実験ではまずウイルスの効率と安全性を調べるため、上部で結紮した前足の筋肉に遺伝子を注射、3ヶ月後に遺伝子治療の効果を機能的に評価した後屠殺、病理的に回復を調べている。結果は上々で、少なくとも3ヶ月は、投与部位だけでなく、他の部位にも導入遺伝子が発現すること、また投与部の前腕の筋肉機能が回復していることが確認された。
この結果を受けて、今度は2ヶ月例の犬にウイルスベクターを静脈注射し、最も長いものでは二年という長期間の観察を行っている。静脈注射すると、どうしても肝臓に捕捉され、最終的に免疫反応で肝毒性が出たりして少し乱暴な気もする実験だが、予想に反して最も多くのウイルスを投与した群では長期生存とともに、中程度の歩行機能を保ったまま少なくとも一年程度経過できること、またバイオプシーにより遺伝子が筋肉で回復していること、逆に免疫反応は長期間ほとんど観察されないことを示している。いずれにせよ、静注による全身投与が有効という話は重要だ。
もちろんランダマイズされた実験ではないが、かなり期待できるのではという印象を持つ。FDAもこの病気と遺伝子治療については迅速審査を心がけているようなので、臨床治験へと進んで欲しいと思う。
このような遺伝子治療は、まだ筋肉が十分残っている患者さんが対象だ。すでに時間が経過し、筋肉が失われた患者さんでは細胞移植治療が必要で、そちらも進むことを期待している。
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