今日紹介する上海科学技術センターからの論文もそんな例の一つでトレンディーな分子PD-1がリンパ球でどう代謝されるのかについての丹念な研究で、特に驚くほどの研究とは言えないが、Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「FBXO38 mediates PD-1 ubiquitination and regulates anti-tumour immunity of T cells (FBXO38はPD-1をユビキチン化しT細胞の抗腫瘍免疫を調節する)」だ。
一昔前は、大事な細胞表面タンパク質についてはそれが細胞内でどう代謝されるのか調べる研究が多く行われていた。一部のタンパク質は小胞輸送によりリソゾームへと輸送され分解されるが、一部はプロテアソームにより分解されることが知られており、小胞輸送ルートに乗った分子の一部は再利用されることもある。その意味で、PD1のような免疫の強さを決める重要な分子が、どのルートで代謝されるのか、これまでほとんど研究されていなかったのが不思議な気がする。ただ、この上海のグループは、これをタンパク質化学的に調べ、T細胞が抗原刺激を受けると、PD-1が細胞質内でユビキチン化され、細胞表面のPD-1を低下させることを明らかにしている。T細胞の刺激を維持するために、PD-1を代謝経路で低下させるのは、なかなか合理的なメカニズムだ。
そして、最終的にこのユビキチン化を誘導するのがFBXO38ユビキチンリガーゼである事を突き止めた。この発見がこの研究のすべてで、あとはFBXO38の細胞内での発現量に応じて、PD-1の細胞内での分解が増減して免疫細胞のブレーキが強まったり弱まったりすることを示している。
具体的にはFBXO38がT細胞でだけ欠損するマウスを造ってガン免疫反応を調べ、期待通りユビキチン化が低下すると,PD-1の発現が高まり、その結果がんに対する免疫が低下することを示している。ただ、その効果は少し弱い印象があるため、実際のPD-1の代謝はもっと複雑な経路で調節されているのだろう。
最後に、FBXO38の発現量に関わるT細胞刺激を探索して、IL-2がFBXO38を誘導して、PD-1の発現量を低下させること、これによりがん免疫が上昇することも示している。
話はこれだけで、繰り返すが効果が驚くほどではないため、この経路だけを狙った薬剤開発に進むかどうかは疑問だと思う。しかしユビキチン化の下流にあるプロテアソーム阻害剤はガンでも用いられることを考えると、このようなケースではPD-1阻害抗体がより効果を示す可能性が想像できるので、臨床的には大事な結果と言える。
ユビキチン研究ができる研究室なら恐らくどこでも可能な研究だと思う。おそらくわが国では、トレンディすぎて品がないと尻込みするのだろうが、それをしっかりものにするのが中国だと、つくづく感心する。
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