過去記事一覧
AASJホームページ > 2018年 > 12月 > 25日

「第1回ニーマン・ピック病(NPD)勉強会inひょうご」

2018年12月25日
SNSシェア
開催日時:平成30年12月16日(日)14:00~17:00 
場所:起業プラザひょうごセミナールーム(サンパル6階)
主催:日本ニーマン・ピック病の会
後援:兵庫県&神戸市難病連、難病の子供支援全国ネットワーク

・特別基調講演 「NPDの最新の治療研究と世界の動向」慈恵医大名誉教授 衛藤義勝先生

ライソゾーム病臨床治療の最高権威者で、1910年のNP病発見、1930年代の各型分類など創世記からの歴史と診断法(遺伝子診断・バイオマーカー共に未完)の現状、症状発現の原理(LDL、コレステロールの転送異常、蓄積により神経細胞を阻害、マクロファージの異常出現によるサイトカインの異常発生)、遺伝子治療開発の現状と可能性)などNPCを中心に病の現状を幅広く且つ判り易く話された。

・基調講演(1) 「NPC治療におけるCDの適正使用に向けて」熊本大学薬学部教授 入江徹美先生

消臭剤「ファブリース」や一部の医薬品の添加剤(可溶化剤)として使われているが未医薬品のHPβCDについて、NPCにどのように効くのか(ライソゾーム中でのコレステロールの運搬役と洗い流し役)、海外での開発動向(各地の研究では体重や体内濃度など基礎データすら不明のまま。Vtesse社はNIHでPhIIb/IIIおよび二重盲検終了。適切な投与設計はまだ不十分)、オーファン薬の早期承認取得には、深い現場認識の下に産官学民の協働が必須など、分り易く話された。しかし、新臨床研究法が施行されると、大学での臨床研究が進行中を含め、実質的にSTOPすると危機感を表され、厚労省への強い働きかけが是非とも必要と訴えられた。

・基調講演(2) 「NPC病の特性について」大阪大学医学部付属病院教授(小児科) 酒井則夫先生

NP病の病態(A~D型共にゴーシェ病とは異なる)、臨床症状、診断(皮膚生検のFilipin染色と遺伝子検査によるNPC遺伝子の確認で確定)、ケア(神経症状は進行し、肝・脾腫大が見られるが、心・腎機能と脳血管の障害は心配しなくてよい)等をを平易に説明され、本病は頻度少ないが患者は増えており、治療推進には、医療者、製薬会社、患者会の協力は必須で、どのような状況においても、患者さんとその家族の幸せを目指す、と結ばれた。

・全講演者をパネリストに迎えてのディスカッションが持たれ、率直で親密な意見交換がなされた。特に、新臨床研究法の施行により、医師主導の治験は難しくなることを念頭に、治療法がない稀少難病患者救済のため、特区設定による医師主導の治験機会確保を提案された。難病連の米田さんから、稀少難病患者や家族への難病連の行動の現状を話され(無力を感ずる)、医療者の対応の現状を質問された。        (田中邦大)

12月25日:Scienceが掲載した今年のブレークスルー(12月21日号Science掲載)

2018年12月25日
SNSシェア
今年も各紙が一年を振り返る年末がやってきた。クリスマスまでにまずNatureとScienceがそれぞれ記事を掲載している。とりあえず読んでみたが、Natureの方は最初からトランプをはじめとするポピュリズムが示した反科学的政策の問題から始め重苦しい調子の記事で、なんとなく暗い気持ちのまま、あまり科学が進歩したという実感のない記事だった。両紙ともおそらく今回の記事だけでは終わらないような気がするので、今週の木曜日までさらにNatureについては待つことにして、今日はScienceの方の記事を紹介することにした。

1:single cell RNA-seqのインパクト


このコラムでなんども紹介してきたが(例えば近いところでhttp://aasj.jp/news/watch/9143)、バーコーディング技術を用いたsingle cell RNA-seqが今年のブレークスルーのトップに選ばれている。特に、これまで細胞レベルだけでは解析が難しいとされてきた発生学で大成功を収めたことは、発生学自体のあり方を変えると強調している。これに、遺伝子編集、あるいは新しい顕微鏡、さらには無限にパラメーターを増やせるin situ hybridizationや免疫組織検出法が組み合わさって、今後細胞と構造という発生学の究極の課題についての研究が新しいレベルに到達することが予想される。このポテンシャルを受けて、多くの研究機関が協力する、人間の組織の成り立ちや発がんを解明しようとするコンソーシアム型の研究が加速している点も特徴的で、これまで難しかった人間の研究が加速すると予想している。私も、この技術から来年何が出てくるか、ワクワクしている。

2、氷河期に起こったディープインパクト


この発見については、個人的には全くフォローしていなかったが、グリーンランド北西部の氷の下に、31kmに及ぶ隕石の衝突によるクレーターが発見されたことが挙げられている。恐竜の絶滅の原因になったと考えられる、7千万年前にできたメキシコの200kmにおよぶクレーターと比べると小さいが、たかだか1万3千年前の出来事である可能性があることから、ホモ・サピエンスの歴史にどのような影響を持っていたのか、興味がそそられる。


3、ネアンデルタール人とデニソーワ人の間の子供の骨が発見された


。 この論文はこのコラムで紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/8831)、アルタイの洞窟から発見された女の子の骨から得られたDNAが、なんとネアンデルタール人の母と、デニソーワ人の父の間に生まれた子供であることがわかった。しかも、この子の母は、同じ地域で見つかっていたネアンデルタール人とは違っているため、広範囲で交流交雑が起こっていることを示唆している。これもライプチッヒのマックスプランク研究所からの論文だが、この分野の進展には全く翳りが見られない。

4、たんぱく質の相分離


 特定のタンパク質の集まりが、ほかのタンパク質から分離して濃縮する相分離については、特定の場所に高濃度のタンパク質を集中させるメカニズムとしてスーパーエンハンサーの作用を支える化学的基盤ではないかとこのコラムでも紹介したが(http://aasj.jp/news/watch/8753)、同じような論文が、特にタンパク質と核酸との相互作用時のメカニズムとして相次いで発表されたようだ。さらに、この液相での分離がおかしくなると、今度はゲル化し、固まるという恐ろしい話も報告されているようで、これが細胞変性の原因ではないかと、治療法の開発が進んでいるらしい。生物学と化学の面白い融合だ。

5、ゲノムデータベースを用いた犯人探し


この論文を読んだときは(http://aasj.jp/news/watch/9109)私も本当に驚いた。わが国と異なり、5%以上の人が個人ゲノムサービスで自分のゲノムを調べているアメリカでは、なんと100万人を越す人が自分のゲノムデータを親戚探しウェッブサイトに自らアップロードし、それを用いて強姦犯人が相次いで逮捕されるという、全く新しい状況がこの世の中に起こっている。この論文はScienceの論文だったが、Natureでも今年のトピックスとして紹介されていた。個人が自然にネットワークを形成する、私には考えもつかなかった時代が来たことを実感する。一方、この分野で我が国の後進性は突出しており、何がこの原因になっているのか、真剣に考える時がきたと思う。間違いなく、政府の問題も大きい。

6、原始時代の分子の痕跡


この論文は完全に見落としていた。エディアカランの生物群はその化石に残された形から、研究者を魅了してきたが、今年に入ってこのような6億年以上前の化石から、コレステロールなどの脂質が分離された。その結果、Dickinsoniaと呼ばれる植物か動物かよくわからなかった化石が動物であることが明らかになった。

7、遺伝子抑制治療薬の認可


脊髄性筋萎縮症のRNAi治療についてはすでに昨年Science, Natureともに昨年のブレークスルーに選んでおり(http://aasj.jp/date/2017/12/24)、ほぼ同じ内容が今年もまた選ばれた理由はよくわからない。ただ今年2月にはThe New England Journal of Medicineで(http://aasj.jp/news/watch/808)成果が報告され、また一回の治療に5000万円、その後も継続して治療が必要であることが話題を呼んだ。 また、今後遺伝子デリバリーの方法が進むことでこの分野はますます発展し、来年も同じような遺伝子治療が続々臨床応用されると期待できること間違いない。

8、新しい分子構造決定法


もともと分子構造研究は私の最も苦手な分野で、このコラムでもあまり紹介できておらず、このトピックスについても全く見落としていた。最近タンパク質の薄層結晶に電子戦を照射して回折像を取ることが広く行われているが、この研究ではこの薄層を作る過程で間違ってできた3D結晶構造が、分子構造解析に利用できることを示した。驚くのは、これまでの結晶解析と異なり、ほんの少しの量の分子で、しかも短時間で解析が完了する点で、創薬分野から大きな期待が寄せられている。

9、新しい天文学


全くの門外漢で正しく紹介できるかわからない。カミオカンデでは大きな水タンクの周りにセンサーを並べてニュートリノを検出しているが、南極の氷で粒子を補足して、下に並べた多くのセンサーで検出するアイスキューブ・ニュートリノ観測所が稼働し、光だけでなく、さまざまな粒子線を用いた宇宙探索が今年始まったことを選んでいる。

10、Me Too


最後は、Me Tooとして知られるハラスメント告発運動を選んでいる。この記事によると、大きな大学では50%の女性研究員、および20ー50%の女生徒が、セクシャルハラスメントを耐えているという調査がでており、極めて深刻であることがよくわかった。いずれにせよ、公的、私的なさまざまな対策が進んでおり、多くの科学者がハラスメント容疑で職を追われている。実際コロンビア大学、ソーク研究所の私の知り合い2人も含まれており、追求が広範囲に渡っていることがわかる。
カテゴリ:論文ウォッチ
2018年12月
 12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31