第一回目は、マサチューセッツ総合病院のグループがマウスモデルで行ったTauとアミロイドの神経変性に関する機能についての研究を紹介する。タイトルは「Tau impairs neural circuits, dominating amyloid-β effects, in Alzheimer models in vivo (アルツハイマー病モデルでTauタンパク質はアミロイドβの作用を支配して神経回路を障害する)」で、Nature Neuroscience 1月号に掲載予定だ。
この研究の売りは、変異型のAβやTauを強発現させたモデルマウスの脳を直接顕微鏡で観察して、Ca流入を指標に神経活動を見たという点だ。そして、変異型アミロイドを過剰発言したモデルマウスで、アミロイドプラークが形成される時期の脳の皮質(6層のうち2/3層に焦点を当てている)では、神経の活動が抑えられるどころか逆に高まっていることを観察する。ところが、異常Tauを発現させたマウスの同じ部位では神経活動が強く抑制されていることがわかった。すなわち、一つ一つの遺伝子の異常では、AβとTauは神経活動に逆の効果があることがわかった。
この結果からTauの沈殿が神経活動を抑えているのではと考えるが、予想に反して、Tauの過剰発現による神経活動の抑制は、細胞内での線維性の沈殿とは無関係で、変異Tau自体の作用であることが明らかになった。
そこで、神経活動を高めるAβとTauの両方同時に発現したらどうなるかマウスを作成して調べると、Aβによる神経活動の更新は完全に抑えられ、さらに皮質全体の活動がTau単独の時よりさらに強く抑えられることがわかった。すなわち、両方が作用しあって今度は強い神経抑制がかかることになる。
最後に、Tauの沈着が起こった時点で、細胞内のTauの発現を抑える実験を行い、新たなTauの発現が抑制されると、Tauの細胞内沈殿が起こった後でも神経活動の抑制が元に戻ることを示している。
結果は以上で、変異Tauの発現自体が神経活動を抑える主要因で、Aβの細胞外への沈着は細胞の活動性を高める。しかし、Tauが組み合わさると、Aβも一緒になって神経の活動を抑える方向に働くという結果だ。この結果は従来考えられてきたメカニズムの説明を真っ向から否定するもので、認知障害に最も関わるのは可溶性のTauの発現そのもので、他の条件はそれを修飾するのではないかと結論している。
この研究が正しいとすると、AβやTauの沈殿を除去するという治療法は効果がないのは当たり前で、Tauのレベルを低下させることが治療につながることになるが、さて専門家はどう評価しているのだろうか。
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