人間だけでなく多くの動植物のゲノムがあきらかになってきた最近では、少々ゲノムが読めましたという論文は余程のことがない限り論文にはならないように思う。少なくとも、いわゆる機能ゲノミックスを組み合わせてシナリオを作らないと、レフリーも面白いと認めてくれない。もしゲノム解読だけで勝負しようとすると、進化の話を持ってくるしかないが、この時機能ゲノミックスがないと、どうしてもゲノムの比較から勝手な結論を求めてしまって、説得力がないことがしばしばだ。
今日紹介するオレゴン州立大学とサンパウロ大学からの論文はまさに典型で、インコのゲノム解読をなんとか面白い論文にしようと努力はしているが、説得力の点では物足りない研究だと思う。タイトルは「Parrot Genomes and the Evolution of Heightened Longevity and Cognition(オウムのゲノムと長寿と認知能力の進化)」で、12月17日号のCurrent Biologyに掲載された。
さて私事になるが、今日は残念ながら虎に出会うことができなかったが、インドの森ではこれまで見たことのない多くの鳥に出会うことができる。この鳥の中の鳥、百鳥の王とは何かを考えると、個人的には雄大なワシが頭に浮かぶが、総合力ではオウムが王様のようだ。まず長生きで、脳が大きく、複雑な社会体制を形成すると同時に、賢いだけではなく、複雑な社会を形成し、道具を使う能力もあり、もちろん複雑な音声を発生することができる。そこで、この研究では他の鳥と比べることで、機能ゲノミックスを省いて、長生きの問題と、脳の発達の問題が解けるかチャレンジしている。
まずゲノム全体の特徴を調べ、鳥全体の進化から見た時、人間と同じようにかなり後から進化してきたのがオウムで、人間の進化で見られるようにオウム特異的な遺伝子重複も見られることを示して、人間と同じような真価の道筋をとったのではないかと示唆している。
その上で、次になぜ長生きかについて、同じように長生きの鳥と比べることで、遺伝的共通項が見つかるか調べている。ハトなど長生きの鳥が23種類選ばれているが、それぞれは全く別々に進化している。しかし、それぞれの進化で選択されたと考えられる遺伝子を拾い出すソフトを使ってリストされた遺伝子を調べると、その多くが
これまで長生きに関わるとされてきた分子が長生きの鳥で共通に選択されてきたことがわかる。言ってみれば機能ゲノミックスは、系統関係とこれまでの研究を合わせて代わりにするというやり方になる。このリストされた遺伝子の中で、著者らはテロメアを維持するTERTが長生きの鳥で選択されていること、TERTの活性が上がることで危険性が高まる癌性の増殖を止めるための分子群が共進化していることを示し、鳥の場合TERTが長生きの進化の核になっていることを示唆している。
他にも、活性酸素を抑える遺伝子群も選択されて協力して寿命を延ばしていると考えられる。
次に脳が大きくなり知能が高まったのかについては、軸索の伸長に関わるPLXNC1が重複し、また軸索伸長に関わる細胞骨格の遺伝子軍が選択されていることをしめし、これが脳の発達に重要だったのではと結論しているが、これ以上の実験はしていない。さらに、オウムへの進化で新たに生まれた遺伝子が存在することを示し、これらが賢いオウム誕生に大きな役割を果たしたとしている。
以上が結果で、機能ゲノミックスがないと、結局主張が通らないというはなしになるが、とは言えオウムなどのトリでは、モデル動物がいるわけではないので、機能的な研究ができるのか、雑誌の編集者も難しいところだと思う。しかし、ゲノムが解読されたことで、オウムと人間の進化を比べることは、間違いなく独立した進化系であることを考えると、今後重要になると思う。
カテゴリ:論文ウォッチ