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12月1 9日 多発性骨髄腫の細胞レベルの多様性を定義する(Nature Medicine 12月号掲載論文)

2018年12月19日
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多発性骨髄腫は、レナリドマイド、プロテオソーム阻害剤、CD20抗体などの登場で、比較的長期に維持が可能になった疾患の一つだが、根治にまでは至らず、長い期間病気をコントロールすることができても、最終的に再発が避けられない。これは体内に存在する腫瘍自体が極めて多様化しているからだろうと考えられている。もともと多発性骨髄腫は病気としても多様で、はっきりした症状がないにも関わらず、形質細胞の単一クローンが増殖して抗体を分泌し続けるmonoclonal gammopathy、より悪性で骨髄にも腫瘍細胞が存在するが、急速に増えるのではないくすぶり型のタイプなどの多様なステージが存在していることが知られ、腫瘍細胞自身でもその多様性が指摘されていた。

今日紹介するイスラエルワイズマン研究所からの論文は腫瘍細胞の多様性を調べるにはうってつけの方法、バーコードを用いたsingle cell RNA profileを用いて骨髄から精製した形質細胞を調べた研究でNature Medicine 12月号に掲載された。タイトルは「Single cell dissection of plasma cell heterogeneity in symptomatic and asymptomatic myeloma (無症状性および症状性の骨髄腫に見られる形質細胞の多様性を単一細胞レベルで解析する)」だ。

この研究では症状、無症状を問わず形質細胞の異常増殖が明らかなmonoclonal gammopathy(MG)、くすぶり型骨髄腫 (SM)、悪性化した多発性骨髄腫、そしてprimary light chain amyloidosisと呼ばれるアミロイドーシスを主症状とする病型、および正常人の形質細胞を集め、単一細胞レベルのRNA解析を調べ、発現する遺伝子から細胞の多様性を調べている。

病型を問わず調べた全ての細胞(2万個で患者さんごとの検査数は少ない)をクラスター解析すると、29種類のタイプに別れることが明らかにされ、確かに多様だ。このうち数の多いのは正常のC1,C2型で正常形質細胞に相当し、残りの27種類のクラスターが腫瘍細胞に対応する。まず正常と腫瘍増殖を分けるのが、CCND1、CCDN2、のサイクリン、ヒストンメチル化酵素NSD2、そしてFGFR3の発現上昇で、特にサイクリンD1についてはこれまでの研究と同じだ。そして、ほとんど症状がないMGタイプから必ず腫瘍性の細胞が見られることが確認された。

それぞれの病型について詳しく解析しているが、
1) 多様なクラスターそれぞれに特徴的な遺伝子がある(例えばC26,29にはWntシグナル異常)。今後個々の特徴について調べる事で、新しい標的が特定できる可能性がある。
2) 今回の解析で明らかになったうち、LAMP5の転写を調節する分子の異常の存在が示唆された。
3) これらの多様性は、必ずしもコード遺伝子レベルの異常を反映するのではなく、ノンコーディングの変異、エピジェネティックな変異が存在する可能性を強く示唆している。
4) 同じ免疫グロブリン発現から追跡できる各個人の腫瘍細胞の多様性をこの方法ではっきり示せる。また、治療後に残る腫瘍細胞のタイプもはっきりと同定できる。
5) この患者さんで多様ではあっても、MGとSMとの違いが明確に定義できる。
6) 末梢血中に流れる腫瘍性細胞は、骨髄に存在する細胞と多様性の面でもほぼ同等で、特に白血病化したものではない。
などで、実際には複雑すぎて、まとめるのが大変という感じの論文だ。ただ、これまで専ら遺伝子だけから見られてきた骨髄腫の多様性を知る上でかなり重要なツールだと思う。今後は、病気のコースの予測、及び治療標的にこの方法がどこまで迫れるのか明らかにされないと、結局解析して納得しただけに終わる。ぜひ機能的な研究へ進んで欲しいと思う。
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