今日紹介するオランダ癌研究所からの論文はまさにこの課題に取り組んだ研究でNature Medicineオンライン版に掲載された。タイトルは「saiLow and variable tumor reactivity of the intratumoral TCR repertoire in human cancers(ヒト腫瘍浸潤T細胞のT細胞受容体レパートリーは反応性が低く、反応も一定していない)」だ。
これまでTILの研究はまずガン組織に浸潤しているT細胞を増殖させ回収してから、特異性などが調べられていたが、これではバイアスがかかるとして、この研究ではTILを増殖させずに、組織から回収したT細胞を一個づつ別々にTcRを特定、そのTcRをレトロウイルスに組み込んで、もう一度正常細胞に戻し、TcRの主要反応性を調べるという、大変手のかかった実験をしている。
まずメラノーマ患者さんの55個のTILからTcRを分離することに成功し、そのうちの15種類のTcRを正常細胞に発現させて腫瘍に対する反応を調べると、多くは低い活性しかないが、それでも60%のTcRがガンに対して反応することを確認している。すなわち、メラノーマの場合TILは間違いなくガンに反応する。
そこで次に悪性度の高い、チェックポイント治療が効き難い漿液性卵巣癌で同じ実験を行なっている。まず、治療前のガンからTILを分離、37個のTcRを特定するのに成功している。その中の20種類のTcRを正常細胞に導入してがんに対する反応を調べると、今度はたった1種類のTcRしか反応しなかった。すなわち、ほとんどのTILはガンとは無関係ということになる。
そこで、さらにもう一例の卵巣がんで同じ検査を行い、今度は51種類のTcRが分離され、T細胞もPD−1を発現して活性化されているように見えるのに、ガンに対しては全く反応できないことが分かった。すなわち、反応は患者さんによって一定しない。また2例の直腸がんでも同じ検査を行い、1例では何種類かのTcRが反応したがもう一例では全く反応するTcRがなかった。
結果は以上で、実験には手間がかかるが、TILのがんに対する反応性を、TILを増やすことなく特定することができること、そしてタイトルにあるようにTILが必ずしもガンに反応するわけではないことが綺麗に示された。今後、同じ方法が試験管内やアジュバント注入などで活性化したT細胞にも適応できるはずで、免疫のモニタリングという点では大きな進歩だと思う。もちろん、一般臨床に用いられる方法ではないが、TIL療法やチェックポイント治療の実験的研究には、かなりのパワーを発揮してくれるのではないだろうかと、期待している。その結果、免疫治療もより確実になっていく。
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