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2月1日:IgA ではなくIgA分泌細胞が自己免疫性脳炎を抑える(1月24日号Cell掲載論文)

2019年2月1日
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IgAは、抗原に対してB細胞が反応するとき、粘膜組織に多い特別な樹状細胞から分泌されるBAFFを含む様々な因子の作用によりIgAへとクラススウィッチを起こしたB細胞がプラズマ細胞へ分化して分泌される、J鎖で2量体になった交代分子だ。これはそのままだと体内にとどまるが、粘膜上皮や乳腺上皮の分泌タンパク質が結合することで、粘膜から体腔へと分泌される。従って、IgAは粘膜免疫のために進化した特殊なシステムで、一般炎症に関わることはほぼないと考えてきた。

今日紹介するトロント大学からの論文はIgAではなくIgAを作るB細胞やプラズマ細胞が脳内での炎症を抑える働きがあることを示す意外な研究で、1月24日号のCellに掲載された。タイトルは「Recirculating Intestinal IgA-Producing Cells Regulate Neuroinflammation via IL-10(体内を再循環している腸管のIgA 産生細胞はIL10を介して神経炎症を調節する)」だ。

IgAだけではなく、IgGも大量に抗体を産生する細胞が体内循環して他の場所に移ることは少ないと考えれれている。したがって、粘膜組織で形成されるIgA産生細胞が体の他の場所で見つかることはないはずなのに、炎症や腫瘍組織にIgA産生細胞が見つかることがあるらしい。

この研究の目的は、自己免疫性脳炎(EAE)をモデルに、IgA産生細胞が脳に移動するのか、脳での機能は何か、について明らかにすることだ。まず、EAEを起こしたマウスでIgA産生細胞が脳や脊髄に移動してくることを確認する。そして、様々な方法を駆使してこの細胞が腸管内から体内循環を経て脳に移動すること、特異性にかかわらず腸管内で形成されたIgA産生細胞は炎症部位に移動すること、そしてEAEでは例えば腸内で誘導されたロタウイルスに対するIgA産生細胞や腸内の細菌叢によって誘導されたIgA産生細胞が脳内へ移行することを示している。またその結果、腸管内のIgA産生細胞が減少し、IgAに結合するバクテリアの数も低下することを示している。

次に、わざわざIgA産生細胞のような最終分化段階の細胞が炎症部位に移行する意味を調べるために、IgA産生細胞の移植実験を行うと、EAEを抑える効果がある。また、単一のバクテリアが感染した実験系で、腸内細菌が感染してIgAが腸内で分泌される場合、同じ細胞は脳内へ移行しEAEを抑えることを示している。そして、このIgA産生細胞の炎症抑制効果は、IgAをノックアウトした細胞でも見られることから、腸管内でIgA産生細胞が分化する過程で受ける刺激が揃っておれば、IgAが分泌できなくとも炎症を抑制する細胞へと分化できることを示している。

最後にこの分子メカニズムを調べ、IgA 産生細胞が炎症を抑制する過程にはIL-10が強く関わっていること、また炎症を抑制する細胞への分化には予想通りIgA産生細胞への分化を誘導するのに必要なBAFFシグナルが必須であることを示している。面白いことに、BAFFを異常発現させたマウスでは、最初からEAEの発症は抑えられており、これはIgA産生細胞が過剰に誘導されるためであることも示している。

以上の結果は、IgAではなく、IgA分泌細胞へと分化させるシグナルの副作用として、炎症を抑制する細胞ができて、それが脳内に移行して、脳内の自己免疫病を抑えるというシナリオを示している。意外性だけが際立った結果で、本当かという気持ちは抑えられないが、もし正しければ多発性硬化症などの細胞治療が可能になるはずだ。実際に人間でどうなのかを示す研究を進めて欲しい。

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