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2月25日 汗とアトピー(2月20日Science Translational Medicine掲載論文)

2019年2月25日
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先週号のScience Translational Medicineにアトピーについてのちょっと変わった論文が2篇出ていたので、今日、明日と紹介することにした。今日はミュンヘン工科大学からの論文で汗に含まれる成分NaClがアトピーに関わるT細胞にどのような影響があるかを調べた研究で2月20日号のScience Translational Medicineに掲載された。タイトルは「Sodium chloride is an ionic checkpoint for humanTH 2 cells and shapes the atopic skin microenvironment(NaClは人間のTH2細胞のチェックポイントになるイオンでアトピーの皮膚環境を形成する)」だ。

汗をかくとアトピーが悪くなるような感触を誰もが持つはずだ。科学者も同じ感触を持っており、アレルギーに関わるT細胞とNaCl濃度との関わりはこれまでも研究されておりNaClが未熟T細胞からアレルギー性炎症を引き起こすTH17を誘導することが示されていた。ただ、未熟T細胞はNaCl濃度が上昇する皮膚には存在しないため、この研究では皮膚に存在している分化したTH2細胞に対するNaClの作用を見るところから始めている。

もちろん高濃度では細胞が死ぬが、50mMNaClではTH2細胞と呼ばれるアレルギーに関わるIL4を分泌するT細胞は増殖し、逆にインターフェロンを分泌するTH1細胞は抑えられることを発見した。そして、これが転写因子の発現が変わることで起こっている現象であることを明らかにする。さらに、NaClだけでなんと未熟T細胞の転写パターンを変化させてアレルギー型TH2細胞へと変化させられることを明らかにしている。

もちろんNaClは特異的なサイトカインとして働くわけではない。調べてみると、結局浸透圧を感知するmTORC、SGK1やNEFAT5システムが働いてT細胞をTH2型に誘導することを明らかにしている。

こうして皮膚にも浸潤してくる分化T細胞をTH2型に変化させるメカニズムを明らかにした上で、今度はアトピーの皮膚でNaClはどうなっているのかを調べると、大きなばらつきはあるがそれでもアトピーの人ではNaCl濃度が高いことが示されている。しかも、アトピーの患者さんでも、皮膚の炎症がない場所ではNaClが上昇しておらず、また一般の炎症ではNaClの上昇が観察できないことから、アトピーの発症には皮膚でのNaClの上昇が何らかの役割をしていること、そしてこれを抑えれば症状を抑える可能性があることを示している。

結果は以上で、NaClがこれほど特異的な効果があるのかと驚く。さらに著者らは、もともとNaCl濃度上昇でも生き残る緑膿菌が抗原となってアトピーを引き起こす可能性にも言及しており、なんとなく汗を掻くとアトピーが悪くなるような印象の一端をうまく説明した論文だと思う。

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