Fibromyalgia(線維筋痛症)という病気のことを知っている人はそう多くないだろう。私が卒業後医師として勤めていた頃は概念すらなかった。実際にfibromyalgiaが定義されたのは1990年のことで、卒後17年もたってからの話だ。ただ、定義されたと言っても、症状が、誰でもが感じる痛みを中心とした様々な症状をベースに診断が下され、血液検査や病理検査で決まるわけではないので、医師の方が診断基準に慣れておらず、間違ったり、診断が遅れたりする。現在では、アメリカリウマチ協会が出している痛みが起こる場所と、症状の強さ、などを基盤とした診断基準を用いて診断される。
ではfibromyalgiaとは何か?と問われると、脳内での痛みの処理が異常になって痛みの閾値が下がる病気と言えるのかもしれない(これは個人的解釈)。体の様々な場所が痛く感じられるが、中枢的な異常と言って全く抹消に痛みの原因がないわけではない。この痛み感覚のために、うつ症状を含む様々な症状が現れてしまう。いくら診断基準があっても、医師にとっては最も診断の難しい病気の一つと言える。とはいえまれな病気ではなく、診断基準を使っている国では1−3%と頻度は高い。ちなみにわが国の2万人規模の調査では、2.1%になっている。
今日紹介する米国ウィチタ医科大学からの論文は診断の難しいfibromyalgiaに対して病院の専門家の意見と、患者さんの自己診断との一致を調べた論文でアメリカリウマチ協会の発行するArthritis Care & Researchにオンライン出版されている。タイトルは「Diagnosis of Fibromyalgia: Disagreement Between Fibromyalgia Criteria and Clinician-Based Fibromyalgia Diagnosis in a University Clinic (Fibromyalgiaの診断:大学病院でのFibromyalgiaの基準と医師による診断との不一致について)」だ。
この研究では大学病院のリウマチ外来に痛みで訪れている患者さんにリウマチ協会の出している2010年度版の診療前の診断のための調査票と他の問診票に答えてもらって、この調査票からのfibromyalgiaの診断と、リウマチ専門医の診断とを比べている。患者さんの自己診断表では、widespread pain indexと呼ばれる痛みがある箇所についての調査と、symptom severity scaleと呼ばれる痛みの強さ、その生活への影響などの調査を総合して、polysymptomatic distressを計算して診断する仕組みになっている。結果はこの病気の診断の難しさを如実に語るものとなった。まずリウマチ専門外来へ紹介されてきた497人の患者さんのうちなんと121人(24.3%)が調査票によりfibromyalgiaと診断される。また、専門医が独立して行った診断では104人(20.9%)がfibromyalgiaと診断された。この結果は、確かにこの病気の患者さんは思いの外多いことを意味している。ただ問題は、患者さんの自己診断と、医師の診断が一致しないことで、自己診断の121人のうちの60人は医師の診断では見落とされている。逆に医師の診断を受けたうち43人は自己診断ではネガティブな結果になっている。
この研究ではなぜこんな結果になるのかの原因を示せているわけではない。リウマチもそうだが、様々な症状を総合して初めて診断がつく多くの病気で同じことが言えるだろう。この病気でいうと、女性については医師はどうしても甘く診断してしまっている。また、症状との関連でいうと、医師の診断はあまり自覚症状の強さを反映していない。
これらが何を意味するか、今後は、それぞれの側のメンタリティーの検査も含む研究が必要だろう。例えば、病気を一つの単位と考えると、症状の重さとは無関係に病気があると考えるのは当然だ。しかし、病気を症状の集まりと考えると、当然症状がそのまま反映される。何れにせよ、専門医でこの状態なので、一般医になるとこの差はもっと広がるのだろう。客観的判断の難しさを改めて認識する面白い論文だった。