少し一般の人には理解しづらい論文が続いたので、今日はとびっきり簡単な論文を紹介することにする。ドイツ ブッパータール大学小児科からの論文で2月8日号のAmerican Journal of Clinical Nutritionに掲載された。タイトルは「Grape or grain but never the twain? A randomized controlled multiarm matched-triplet crossover trial of beer and wine (ブドウでも麦でもいいが、しかしチャンポンはだめ?ビールとワインの様々な組み合わせを試す無作為化試験)」だ。
この論文はヨーロッパの古い知恵として言い伝えられてきた「Grape or grain but never twain(ワインでもビールでもどちらでもいいが、チャンポンはダメ)という言葉をそのままタイトルに使った論文で、タイトル通りビールだけ、ワインだけ、ビールからワイン、ワインからビールという4種類の組み合わせでアルコールを十分酔うまで(呼気のアルコール濃度が0.11%)飲んで、次の日に8種類の症状(喉の渇き、倦怠感、頭いた、フラフラする、吐き気、胃痛、頻脈、食欲不振)について自己診断を行ってもらって、二日酔いになっているかどうかを調べている。さらに、タイトルのCross overから分かるように、ワインからビールを試した人は、1週間後ビールからワインというように、飲み方をスイッチする。同じように、ビールだけの人は、次の実験ではワインだけに変わる。これにより、特にワインだけに問題がある人などが結果に大きく影響しないようにしている(この論文はフリーアクセスなので、著者が実験の概要として使っている図を以下に掲載しておく)。
さて結論だが、詳しい説明は全て省く。結局上のどのような条件で飲んだとしても、次の日の二日酔いの強さは同じだったという結果で、古くからある知恵とは全く異なる結果になっている。わたしのような酒好きにとってのメッセージは、「飲むときには細々考えず、気分に合わせて酒を楽しめばいい」という結論になる。
もちろんいくつか問題もある。最終的に各グループの母数が28-31人になってしまっており、よほどの差がないと有意差が出にくくなっている。また、呼気のアルコール濃度を指標にしているが、実際には約5時間かけてビール1.4リットル、ワイン600ccを飲んでおり、ヨーロッパ人で酒に強い人なら普通にこなしてしまう量で、確かに各グループでのデータのばらつきが多い。したがって、もっと違った飲み方も同時に比べることをしないと、最終結論は出ないように思う。
とはいえ、著者には失礼だがなんとも馬鹿げた研究目的と、270人ものボランティアを募り、厳密な医療統計に基づく研究を行なっている研究手法の真面目さとのアンバランスがこの論文の最も面白い点だろう。イグ・ノーベル賞狙いではないかとすら勘ぐってしまう。アクナレッジメントをみたが、さすがにこの研究に助成金は出ていないようだ。また期待通り、論文の最後はCheers(乾杯)で締めくくっている。