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2月18日:N-rasを活性化する新しい経路(2月21日号Cell掲載論文)

2019年2月18日
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様々な組織の発ガンにrasの変異が関わっていることはよくわかっているが、ras自体を標的にした治療法の開発はうまくいっていない。多くの研究者がチャレンジを諦める中で、それでもこのコラムで繰り返し紹介したように、様々な角度からrasを制御するための研究を続ける研究者は世界にまだまだ存在する。今日紹介するボストン大学と中国廈門大学からの論文は、変異型N-rasの上流で働くキナーゼを特定して新しいメラノーマの治療標的可能性を示した研究で2月21日号のCellに掲載された。タイトルは「Pharmacological Targeting of STK19 Inhibits Oncogenic NRAS-Driven Melanomagenesis(発ガン性N-rasによるメラノーマ形成をSTK19を標的にした薬剤で阻害する)」だ。

これまでもファルネシル化などrasを活性化する上流過程を標的にする治療法の開発が試みられてきたが、この研究ではメラノーマに絞って、このドライバーになっている変異型N-rasの活性をさらに上流で調節しているリン酸化酵素を探すという、最初から決め打ちの、一種の一か八かを狙う研究だ。すなわち、活性化型N-rasを導入した細胞株の増殖を抑制するリン酸化酵素をsiRNAスクリーニングで探索し、STK19を発見している。要するに結果良ければ全て良しで、あとはこのSTK19がN-rasの活性にどう働き、ガン治療の標的になれるかを調べれば良い。

結果を箇条書きにすると、

  • STK19はN-rasの89番目のserineをリン酸化し、これがないとN-rasのガンのドライバー活性が低下する。
  • メラノーマの一部ではSTK19の89番目のアミノ酸に変異が起こっており、変異型STK19を導入した色素細胞株の増殖は促進される。
  • 変異型N-rasと変異型STK19が合わさると、色素細胞の増殖が高まり、メラノーマが発生する。
  • 施設に備わった化合物ライブラリーをスクリーニングし、STK19の機能を抑制するZT-12-037を特定した。この化合物は、N-rasのリン酸化を抑制する。
  • メラノーマを移植する実験で、ガンの増殖を抑制することができる。

以上が結果で、STK19は少なくともN-rasをドライバーとするメラノーマに効果を示す可能性を示唆する結果だ。他のrasについての効果、あるいはN-rasが活性化した他のガンについての効果はわからないが(なぜ実験を行わないのかよくわからない)、N-rasについて、機能をさらに上流で調節する分子を見つけたことは、私には新しい発見だった。あとは極めてオーソドックスな手法の研究で、STK19の発見が結局この研究の全てだとよくわかる。おそらく中国厦門大学が中心の研究だと思うが、阻害活性のある化合物まで到達するところは、実力があることをうかがわせる。ただ、発見された化合物の活性は効果はあっても、実用範囲とは思えない。おそらくプロのメディシナルケミストによる至適化が必要だろう。しかし、決め打ちでも果敢にrasにチャレンジする中国の層の厚さが感じられる論文だった。

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