ヒストン修飾はクロマチンの3次元構造を調節し、それが結合する遺伝子発現を変化させるエピジェネティック機構の中心にあり、実に様々な修飾をうける。その中心は、メチル化とアセチル化だが、他にもリン酸化などが特定されており、遺伝子発現調節機能も研究が進んでいる。従って、他の修飾法が発見されても何の不思議はないが、それでもセロトニンが直接ヒストンを修飾すると聞くと、「え!」と驚くのではないだろうか。
今日紹介するNYのIcahn医科大学からの論文はセロトニンによるヒストン修飾を詳細に解析した研究で3月13日Natureオンライン版に掲載された。タイトルは「Histone serotonylation is a permissive modification that enhances TFIID binding to H3K4me3(ヒストンのセロトニン化は4番目のリジンがトリメチル化されたヒストンH3へのTFIID結合を高める)」だ。
セロトニンは神経伝達物質として脳内で働くだけでなく、小腸で合成され腸の蠕動を調節し、さらに血小板に取り込まれた後、血液凝固や血管の収縮にも働くことが知られている。また、トランスグルタミナーゼの作用で、細胞質のタンパク質と共有結合することも知られていたようだ。
今日紹介する論文では、核内タンパク質もトランンスグルタミナーゼで修飾される可能性があるかを狙い撃ちで調べ、H3だけが、トランスグルタミナーゼ2(TGM2)の作用でセロトニンと共有結合することを発見する。しかもセロトニンが結合する場所が5番目のグルタミン酸で、遺伝子をオンにするときにメチル化される4番目のリジンの隣に位置している。すなわち、エピジェネティックなプロセスに関わる可能性がある。
そこでこの修飾の機能を調べる目的で、どの細胞でこのヒストン修飾が起こるかを調べ、セロトニンを合成する神経細胞や、腸細胞で修飾されており、セロトニン合成細胞では普通に起こっていること、およびほとんどがK4me3のオン型のヒストンで起こっていることを明らかにする。
そしてiPSからセロトニン神経を誘導する系や、セロトニンの合成を誘導できる細胞株を用いた分化誘導系を用いて、この修飾が細胞分化によって発現が上昇する遺伝子のプロモーター部分に結合しているヒストンがより選択的にこの修飾を受けていることを示している。さらに、5番目のグルタミンをアラニンに変えて、この修飾ができなくしたヒストンを導入すると、オンになっている遺伝子の転写の効率が低下し、細胞の分化が進まないことを示している。
最後に、このような転写の促進はH3K4me3の周りに形成される転写複合体の結合力が高まる可能性について、細胞内のヒストンとTFIIDとの結合の強さを調べ、予想通りこの修飾により、転写複合体がH3K4me3と強く結語していることを示している。
以上、最初は「え!」と人を驚かすだけの論文かと思って読んでみたら、実力のある、説得力のある論文だと感心した。もちろん、病気を含め、まだまだ研究する必要はあるが、遺伝子調節にはなんでも使えるものは使っている生物のしたたかさがよくわかった。